面会交流中の子どもを連れ去られた! 対処方法を名古屋の弁護士が解説
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離婚をした場合でも、子どもにとってはどちらも唯一の親であることに変わりはありません。名古屋市役所のサイトでは、子どもの健やかな成長のためにも面会交流は非常に大切であるとし、面会交流の実施を促しています。
離婚の前後に関わらず別居状態にある場合において、子どもと別居している親には原則として子どもとの面会交流の機会を得ることができます。しかし、面会交流の機会を利用して、別居している親がそのまま子どもを連れ去ってしまうケースもあります。司法統計によると、平成30年度には子どもの連れ去りに対して、全国の家庭裁判所で590件の「子の引き渡しの審判」が取り扱われています。
面会交流中の子どもの連れ去りがあった場合には、対応方法を把握し早期に対応することが大切です。そこで本コラムでは、面会交流中の子どもの連れ去りへの対処方法を、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、面会交流中の連れ去りを未然に防ぐために知っておきたいこと
面会交流中の連れ去りを未然に防ぐために、次のような点を押さえておくと良いでしょう。
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(1)面会交流の取り決めをしっかりしておく
面会交流中の連れ去りを防ぐためには、面会交流の方法を事前にしっかりと取り決めておく必要があります。
取り決めが曖昧なまま面会交流を始めてしまえば、連れ去りがあっても取り決めに違反したことを証明できず対応が難しくなってしまうためです。たとえば、連れ去りのおそれがある場合には、面会交流の場所を公共の場所に限るなど工夫した内容で取り決めたり、連れ去りを禁止する条項を入れたりするなどの対応が考えられます。
上記のような工夫を施した条項とするためにも、当事者間のみの話し合いで取り決めるのではなく、弁護士に相談したり家庭裁判所が関与する調停で取り決めたりといった対応が、連れ去りを未然に防ぐことにつながります。 -
(2)監護者や第三者が同席する
面会交流中の子どもの連れ去りを未然に防ぐためには、子どもと同居している親(監護親)が面会交流に同席する方法もあります。
ただし、別居状態にある関係で、監護親が面会交流に同席することが現実的に難しい場合などもあります。そういった場合には、離婚調停を依頼した弁護士などの第三者が面会交流に同席することも考えられます。
また、元家庭裁判所の調査官を中心に設立された団体で、有料で面会に付き添う活動を行っている、「公益社団法人家庭問題情報センター」(FPIC)など、面会交流を支援する団体に依頼する方法もあります。
2、面会交流中の連れ去りの問題とは
「離婚後に子どもと面会した非監護者である父が、父自身の実家に子どもをそのまま連れて行ってしまい帰してくれない」、「離婚前に別居している妻に会いにいった子どもを、妻がそのまま連れ去ってしまい帰ってこない」など、面会交流中に連れ去りの問題が生じることも、残念ながら少なくありません。
このような場合には、警察に連絡すれば子どもを連れ戻してもらえるのではと思うかもしれません。当然、暴力的に子どもが監禁されているようなケースにおいては、警察が介入して積極的に子どもを連れ戻すために動いてくれるでしょう。
しかし、子どもの身に危険が及んでいるというような緊急を要する事態でなければ、警察が介入するのは難しいケースも多く、一般的にはそのほかの方法で子どもの引き渡しを求めていくことになります。
なお、離婚調停中などに連れ去りを行えば、親権者の指定や今後の面会交流の内容において、連れ去った親は基本的に不利な立場に置かれるでしょう。
3、面会交流中の連れ去りへの対応方法とは?
では、面会交流中に子どもを相手に連れ去られた場合には、どのような対応を取れば良いのでしょうか。
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(1)家庭裁判所に調停や審判を申し立てる
相手が話し合いに応じない場合、連れ去られた子どもを取り返すためには、家庭裁判所に調停や審判を申し立てるのが一般的です。
具体的には、家庭裁判所に「子の監護に関する処分」として「子どもの引き渡し」を相手に求める調停または審判を申し立てます。
この手続は、離婚している、していないにかかわらず、別居中で子どもの引き渡しについて話し合いで合意できないような場合に利用できます。ただし、離婚前と離婚後で、あわせて行う必要のある手続が異なります。●離婚前
たとえ別居をしていても離婚していなければ、父母双方が共同親権を有している状態です。そのため、同時に「子の監護者指定」の調停を申し立てましょう。監護権とは、簡単にいうと子どもの日常的な世話や教育を行う権利です。
●離婚後
親権者が引き渡しを求める場合は、追加で行うべき手続はありません。しかし、親権者でない者が子どもの引き渡しを求める場合においては、原則として同時に親権者変更調停を申し立てます。
なお、調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続きが開始されて裁判官が一切の事情を考慮して審判が行われます。審判が出ても、相手が任意の引き渡しに同意しない場合には、裁判所が説得や勧告を行う履行勧告や、強制執行をすることができます。
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(2)家庭裁判所に審判前の保全処分を申し立てる
家庭裁判所の「子どもの引き渡し」の審判の結論が出るまでには、時間がかかります。
子どもに差し迫った危険があるなど緊急性が高いときには、審判の申し立てのほかに審判前の保全処分を申し立てることができます。保全処分とは、仮で処分を下すことです。つまり、審判の結論が出るまでの間、申し立てをした親に子どもを仮に引き渡すように命じる処分を裁判所に下してもらうことができます。
保全処分を申し立てた場合には、家庭裁判所は指定した期日に父母双方を呼び出すなどの方法で、審判前の保全処分を行う要件を満たしているかを審理して処分を判断します。
保全処分が命じられた場合には、この処分に基づく強制執行が可能になります。 -
(3)地方裁判所に人身保護請求を申し立てる
地方裁判所に対して、人身保護請求を申し立てることも考えられます。人身保護請求は、違法な拘束状態にある人を救済するための強力な手続きです。
ただし、請求が認められる要件は厳しく、拘束の違法性が顕著で、他の方法では救済できない場合といった限られた事案でしか認められない傾向があります。 -
(4)訴訟の提起・刑事告訴する
訴訟の提起や刑事告訴で、子どもを連れ戻す方法もあります。
離婚前であれば離婚訴訟を提起して、その中で子どもの引き渡しを併せて求めることができます。また、連れ去りの態様によっては、連れ去った相手を刑法上の未成年者略取・誘拐罪で刑事告訴して、子どもを連れ戻す方法もあります。
しかし、刑事告訴が受理されるには事件性が必要なこと、仮に刑事告訴でき裁判になったとしても、最終判断が出るまでに時間がかかるため、現実的には難しいケースも多いでしょう。
4、強制執行の流れ
前述したように、審判や調停で子どもの引き渡しを命じられても相手が応じない場合は、強制執行をすることになります。強制執行には、直接強制と間接強制があります。
子の引き渡しに応じない親に対して、間接強制金を支払うことを命じます。間接強制金とは、いわゆる罰金のようなものをイメージしていただければわかりやすいでしょう。
支払わない場合は、財産の差し押さえも可能です。
●強制執行
裁判所の執行官が、実際に子どもを引き取る手続きです。
確実に子どもを引き取れる手続きですが、これまではルールが明文化されておらず、スムーズに引き渡しが行えないという問題もありました。そういった問題に対応するため、令和元年5月10日に成立した改正民事執行法によって、強制執行による引き渡しのルールが明確化されました。
これまでは、執行官が子どもを引き取る際、原則として引き渡しを拒んでいる親が共にいるときにのみ引き渡しを行えるとしていました。そのため、あえて不在にして引き渡しができないようにする、引き渡し時に親同士がもめてトラブルになってしまうといった問題が生じていました。
改正された民事執行法では、引き渡しを拒んでいる親が不在でも、引き渡しが可能としています。ただし、原則として引き渡しを求めている親が、その場にいることが求められます。
また、改正民事執行法では、強制執行の申し立てに関する規律も明確化されました。具体的には、下記の要件を満たす場合において強制執行が可能となります。
- 間接強制の決定が確定して2週間を経過したとき
- 間接強制を実施しても、債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき
- 子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があるとき
なお、改正民事執行法は、令和2年4月1日に施行されました。
5、弁護士に相談するメリットとは
面会交流中に子どもを連れ去られた場合、まず相談したいのは弁護士です。弁護士に依頼することで、以下のようなメリットを得られる可能性があります。
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(1)最適な方法で子どもの引き渡しを求められる可能性
面会交流中の連れ去りといっても、「連れ去りの相手に親権があるのかどうか」、「早期に連れ戻さなければならない緊急性があるのかどうか」など各ケースにおいて事情は異なります。また、各事情によって、取るべき方法も異なるため、それらを判断して対応する必要があります。
しかし、お子さんを連れ去られた状況で冷静に、どのような対応方法を採れば良いかを判断することは非常に難しいものです。
そういった場合でも、弁護士は豊富な知識と経験を基に最適な方法をアドバイスすることができます。また、感情も絡むセンシティブな問題ですが、あなたの味方となって解決への道筋を二人三脚で考えてくれるので、落ち着いて対応を検討することができるでしょう。 -
(2)引き渡しを実現できる可能性
調停では、弁護士は調停委員などを説得できる主張をするのはもちろんのこと、証拠の提出なども行うので、有利な結論が得られる可能性も高くなります。
また、どのようなケースで保全処分が認められやすいかなども弁護士は熟知しているので、申し立てが認められる可能性を高めることができるでしょう。
6、まとめ
本コラムでは、面会交流中の子どもの連れ去りへの対応方法を解説していきました。
面会交流にあたっては、連れ去りを未然に防ぐような内容で実施することが望ましいものです。しかし連れ去りが起きてしまった場合には、早期に弁護士に相談して迅速かつ適切な対応を取ることが大切です。
ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士は、お子さんの連れ去り問題や離婚問題などを早期に解決できるように尽力します。ぜひお気軽にご相談ください。
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