配偶者がアルコール依存症なら離婚できる?  名古屋の弁護士が解説

2020年11月30日
  • 離婚
  • アルコール依存
  • 離婚
配偶者がアルコール依存症なら離婚できる?  名古屋の弁護士が解説

司法統計によると、平成29年度中に名古屋の家庭裁判所で取り扱われた家事審判や調停のうち、婚姻に関する事件は4164件ありました。

しかし、一口に婚姻関係事件と言っても、その実態は多種多様です。最高裁判所が公表している「婚姻関係事件数―申立ての動機別」によると、申立人が妻の場合、離婚の理由としては「性格が合わない(1万8846件)」「暴力を振るう(1万311件)」「異性関係(7978件)」の順になっています。

離婚の要因としてよく挙げられる浮気や暴力に比べると少ないものの、「酒を飲み過ぎる(2964件)」が入っていることも見逃せません。数は少ないですが、「妻が酒を飲み過ぎる」ことを原因に夫が離婚を申し立てた事件も435件ありました。

今回は、配偶者の飲酒が原因で離婚を考える時のポイントを、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。

1、アルコール依存症とは

アルコール依存症とは、お酒がないと、いてもたってもいられなくなる精神疾患です。アルコール依存症の患者は、お酒が抜けるとイライラや体の震え、発汗、動機、不眠などの「離脱症状」が出てきます。このような苦しい症状を抑えるためにまたお酒を飲むので、次第に日常生活がまともに送れなくなっていきます。そうなると、アルコール依存症の人の配偶者も多大な影響を受けることになっていきます。

もし、アルコール依存症になった配偶者がいても「夫婦なら助け合うべき」と思い、サポートされている方もいらっしゃるでしょう。しかしアルコール依存症は実は「否認の病」とも言われており、本人が病気にかかっていると認めたがらない傾向があります。

どんなに一生懸命説得して病院での治療を勧めても、本人がかたくなに拒絶すればどうしようもありません。そんな時は心が折れてしまい、離婚の二文字が頭をよぎるかもしれません。

2、配偶者の「アルコール依存症」を理由に離婚できる?

それでは、アルコール依存症を理由として離婚することはできるのでしょうか。ここでは、配偶者のお酒の問題で離婚できるのかについて解説していきます。

  1. (1)「お酒の飲みすぎ」の場合

    結論から言いますと、「配偶者がお酒を飲みすぎている」という理由だけでは原則として一方的に離婚できません。

    もちろん夫婦双方の合意があればどんな理由でも離婚はできますが(これを協議離婚といいます)、裁判所に訴えて離婚する場合には、法律で認められた離婚事由が必要であり、「お酒の飲みすぎ」だけではその理由にあてはまらないのです。

    ただし飲酒が原因で暴力を振るうなど、二次的な問題が「法定離婚事由」に該当する場合には離婚が認められる場合があります(これについては次項で詳しく解説します)。

  2. (2)アルコール依存症の場合

    単なる「お酒の飲みすぎ」ではなく「アルコール依存症」と正式な病名が診断され、症状も深刻になっている場合は、さらに事情が複雑になっていきます。アルコール依存症の配偶者と一方的に離婚するのは、困った時に支え合う「夫婦の扶助義務(第752条)」に反する可能性があります。

    結婚式では多くの夫婦が「健やかなる時も病める時も」助け合うことを誓いますが、アルコール依存症は「病める時」に該当するということです。配偶者がアルコール依存症になってしまったら、できる限り治療をサポートすることが夫婦には求められます。

    しかしどんなに献身的に支えても、一向に回復する見込みがないこともあるでしょう。そのような状況でも離婚を認めないのは酷なので、さまざまな事情が考慮されて離婚が認められることがあります。

3、DV、悪意の遺棄……法的に離婚が認められる条件

それでは「お酒の飲みすぎ」や「アルコール依存症」と合わせて、どのような条件があれば離婚可能なのでしょうか。

  1. (1)法定離婚事由に該当することが必要

    裁判所に離婚を申立てる場合、裁判所に認められるためには「法定離婚事由」に該当することが条件となります。

    民法770条の「法定離婚事由」とは

    • 「不貞行為」
    • 「悪意の遺棄(注:夫婦の扶助義務を放棄していること)」
    • 「3年以上の生死不明」
    • 「回復の見込みがない強度の精神病」
    • 「その他婚姻を継続し難い重大な事由」


    の5つです。
    この条件を満たす場合のみ「離婚の訴えを提起することができる」と定められています。

    大量の飲酒だけでは「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当しない可能性があるため、飲酒が原因で発生した二次的な問題をあわせて離婚を申立てることが一般的です。

  2. (2)暴力や働かないことは、法定離婚事由にあてはまる

    たとえば酒乱による暴力は「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当てはまり、DVによる離婚として認められる可能性があります。

    昼間から飲酒し働かない、飲み歩いて帰ってこないといったケースも「悪意の遺棄」または「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして離婚が認められるかもしれません。

    なお「回復の見込みがない強度の精神病」は「統合失調症」「そううつ病」など深刻な精神疾患に限られており、アルコール依存症はここに含まれないとされています。

4、アルコール依存症が原因の離婚で慰謝料請求はできるのか

アルコール依存症による離婚の場合には、慰謝料の請求はできるのでしょうか。本章ではアルコール依存症の離婚と慰謝料について解説します。

  1. (1)DVや「悪意の遺棄」があれば慰謝料を請求できる可能性あり

    「お酒の飲みすぎ」や「アルコール依存症」のみが原因では、慰謝料を請求できる可能性は低いと考えられています。ただしDVや暴言、悪意の遺棄など、飲酒に付随する法定離婚事由があれば慰謝料を請求できる可能性が出てきます。

    「精神的苦痛に対する損害賠償」である慰謝料の金額を算出する際、加害者側の責任や落ち度も考慮されます。配偶者が「アルコール依存症」の場合は、その症状によっては責任が軽減され、慰謝料低くなる可能性あります。

    ただ、病気であればいかなる状況でも責任が軽減されるのかというと、決してそうではありません。「きちんと治療を受けなかった」など本人に落ち度があれば、減額されにくくなる傾向があります。

  2. (2)もし子どもが配偶者から暴力を受けていたら

    ●子どもの代理人として慰謝料請求できる可能性あり
    未成年の子どもが配偶者から暴力を受けていた場合は、「未成年者の法定代理人」として片方の親が慰謝料を請求できる可能性があります。

    未成年者は知識や判断能力が未熟であるため、単独で法律行為ができないと法律に定められています(民法第5条)。そこで未成年者の代わりに法律行為をするのが、法定代理人です。通常は親権者が法定代理人となりますので、離婚時に子どもの親権者となれば、その後は親権者である親が単独で慰謝料を請求することができます(ただし、時効には注意をしてください)。

    ●婚姻費用の支払いを求めることも可能
    子どもを配偶者から守るために、離婚前の別居を検討されている方もいらっしゃるかもしれません。配偶者との合意なく突然別居を始めると、民法第752条「夫婦の同居義務」に違反するとして離婚の際に不利になるのではないかと心配される方もいますが、家族に対するDV・暴力など相応の理由があれば、正当性があると判断される傾向にありますので、身の安全を第一に考えてください。

    暴力がひどい場合には、事前に最寄りの配偶者暴力相談支援センターに指定されている機関や警察などに相談して、安全に別居できるよう準備しておくことも大切です。

    離婚する前に別居を開始した場合、収入の多い方の配偶者は別居中の生活費(婚姻費用)を支払う義務を負います。たとえ別居していても、夫婦である間は「配偶者に自分と同レベルの生活をさせる義務(生活保持義務)」があるからです。婚姻費用の金額は、子どもの有無・人数によっても異なります。

    婚姻費用の請求に配偶者が応じない場合は、調停・審判で決定することになります。配偶者のDV・暴力が原因のケースでは、当事者間でまともに話し合うのが難しいことが多々あるでしょう。きちんと話し合いを進めるためには、弁護士に依頼することをおすすめします。

    自分で調停などを申し立てる場合にも、調停期日の前後に暴力を振るわれる危険性があれば、事前に裁判所に相談をして、待ち伏せなどされないように配慮してもらうことをおすすめします。

5、まとめ

配偶者の飲酒が原因で離婚を検討している場合は、DVや悪意の遺棄について証拠を集めておくことをおすすめします。

また、離婚や婚姻費用の話をするときは、相手が酔っ払っていない状態であることが大切ですが、そもそも相手がアルコール依存症となっている場合には四六時中飲んでいて話し合いにならないということもあるかと思います。そのような場合には、無理に自分だけで進めようとするよりも、調停などを利用して第三者を介入させたほうが良いでしょう。

法定離婚事由の証拠保全や調停の進め方、慰謝料・養育費についてわからないことがあれば、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士までぜひご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています