介護離婚とは? 義親の介護を理由に、離婚は可能か弁護士が解説
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日本でも、離婚する夫婦が年々増えています。名古屋市の2018年(平成30年)の離婚件数は、4,294組、前年比で70組増加しました。愛知県全体の離婚件数は12,653組(前年比181組増)と、2年連続で増加。離婚率は人口1000人当たり1.73、全都道府県中第8位となっています。
名古屋市における離婚原因の内訳は不明ですが、介護離婚によるものも含まれているかもしれません。
介護離婚とは、多くの場合「妻が義親の介護に疲れ果てて離婚すること」という意味合いで使われている言葉です。離婚に至る原因としては、もともと夫婦仲が悪かった、介護をきっかけに決定的な亀裂が入ったなどのパターンなどがあるでしょう。
「介護は嫁の務め」と考えている方もいるかもしれませんが、実は法律上は嫁に直接の介護義務はありません。民法第877条1項条では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と明言しています。本当は夫や兄弟などが介護をしなければならないのです。
しかし、夫婦間にはお互いに助け合うべき「相互扶助義務」(民法第752条)もあります。
夫が仕事などで介護をするのが難しい場合は、代わりに妻がある程度支えることも必要です。夫が妻だけに介護を押しつけて話もろくに聞いてくれない場合には「お互いに助け合っている」ことにはならないでしょう。この辺りの線引きは難しいので、弁護士に相談することをおすすめします。
今回は介護離婚について、ベリーベスト弁護士事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、妻が介護離婚を考える4つの原因
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(1)夫が非協力的である
本来妻の強い味方にならなければいけないはずの夫が、まったく助けてくれないケースです。たとえ義親や義兄弟と折り合いが悪くても、パートナーである夫さえ味方になってくれたら「何とか我慢できる」という女性もいらっしゃるでしょう。
にもかかわらず、夫は介護について文句を言うばかりで、実際には手伝わないというケースが絶えないのが日本の現状です。妻が求めているのは、実際に介護を手伝ってくれることや、話し合いや、ねぎらいの言葉です。しかし多くの場合、夫は妻の話に一切耳を傾けず、自分の意見だけを押しつけてしまいます。このような夫婦間の認識の差が、徐々に修復不可能な亀裂にまで発展し離婚に至ることがあります。 -
(2)もともと夫と険悪だった
もともと夫婦仲が悪かった場合、介護が離婚の引き金となる場合があります。介護が直接の原因というよりは、熟年離婚に至る原因が蓄積されていたパターンです。
たとえば、夫の長年にわたる不倫・DV・モラハラなどに散々苦しめられてきた女性にとって、さらに夫の親の介護までやらなければならないというのは途方もない苦痛でしょう。
このような状況下では、義親を介護する意義を見いだせないのも当然です。 -
(3)義理の兄弟姉妹も手伝ってくれず、文句ばかり言う
義理の兄弟姉妹やその配偶者が手伝ってくれず、文句ばかり言ってくることもあります。冒頭で述べたように、本来、法律的に介護義務を負っているのは実子です。しかし、妻ひとりだけに押しつける事例は枚挙に暇がありません。せめてねぎらいの言葉だけでもあれば救われるというものですが、実際はそれすらない場合もあるでしょう。
そんな義兄弟たちの態度に「私は住み込みの無料介護要員じゃない!」と気持ちが爆発し、離婚に至る場合があります。 -
(4)義親からつらくあたられていた
自分をいじめていた人を献身的に介護しなければならないとなると、ほとんどの人は耐えがたい苦痛と屈辱を感じるのではないでしょうか。自分に愛情をかけて育ててくれた肉親であっても、介護をするのはとても大変です。そのような過酷な労働を、今までつらくあたってきた人たちのためにやりたいとは思えないのも無理はありません。
2、介護を理由に離婚することは可能か?
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(1)夫の合意があれば、どんな理由でも離婚できる
日本の離婚制度には、話し合いによる離婚と、裁判による離婚の大きく2種類があります。もっとも一般的なのが話し合いによる「協議離婚」です。協議離婚では、配偶者の合意さえあれば、どんな理由でも自由に離婚できます。「義親の介護をするのがもう限界なので離婚したい」と申し出て、夫が合意すれば、離婚自体は成立します。
しかし、熟年離婚を考えるにあたっては、財産分与など金銭的な面もしっかり考えなければなりません。財産分与とは、結婚生活で夫婦が協力して作った財産を離婚時に分け合うことです。結婚生活が長いほど財産分与の金額も大きくなり、話し合いで揉める傾向にあります。
熟年離婚をするなら、離婚後の生活資金やライフプランもしっかりと準備しておくべきです。衝動的に協議離婚をすると、離婚後に金銭的な面で困ることになるかもしれません。 -
(2)夫が拒否している場合は「法定離婚事由」が必要
配偶者が離婚を拒否している場合には、離婚調停で話し合い、それでもまとまらなければ、裁判で強制的に離婚をする必要があります。
この「裁判離婚」では、以下の民法770条が認めた5つの「法定離婚事由」がなければ強制的に離婚をすることはできません。
第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
- 1 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 2 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 3 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
- 4 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- 5 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
世の中には多種多様な夫婦トラブルがありますから、1~4に当てはまらないケースは「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたるかどうか、裁判所が個別の事情をかんがみて判断します。「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の例としては、義親からの虐待やドメスティックバイオレンスやモラルハラスメントなどがあげられます。義親の介護を理由にした離婚についても、この5つ目に該当する可能性があります。
3、介護離婚をする前に考えておきたいこと
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(1)財産分与・慰謝料
前述の通り、離婚する場合には「財産分与」をすることになります。先ほども述べましたが、「財産分与」は、結婚生活の中で夫婦が共同で築いた財産を分け合う制度です。
「夫が働きに出て妻は専業主婦」の場合は、妻は家事・育児・介護などを通して夫婦の財産形成に貢献したことになりますから、当然の権利として「財産分与」を請求できます。
一方で財産分与の対象外となるものもあります。それは、「婚前から持っていた財産」や「実親からの相続財産」です。これらは結婚生活と無関係に手に入れた財産なので、分ける必要はありません。
また、財産分与で注意したいのは、夫による財産隠しです。結婚生活が長ければ長いほど、財産分与の金額は大きくなる傾向があります。そこで、少しでも自分の取り分を多くするため、財産隠しをする方もいらっしゃいます。離婚をお考えなら、切り出す前に夫の所有財産を徹底的に調査しておくことをおすすめします。
さらに、介護離婚をするにあたって何らかの精神的苦痛を受けた場合には、慰謝料が請求できるケースもあります。その場合には証拠が必要ですので、その収集方法については弁護士にアドバイスを受けましょう。 -
(2)年金分割
「年金分割」とは、配偶者が婚姻期間中に支払った年金保険料の納付実績を、分割して受け取れる制度です。対象となるのは、「厚生年金または共済年金」です。「国民年金」については対象外なので、配偶者が自営業・農業従事者の方は注意が必要です。
年金分割は「合意分割」と「3号分割」の2種類に分かれます。
1つ目の「合意分割」は名前の通り、夫婦の合意により分割割合を決める方法です。案分割合は最大2分の1までとなっており、平成20年3月31日より以前の婚姻期間が対象です。
2つ目の「3号分割」は、「3号被保険者(会社員・公務員に扶養されている専業主婦など)」を対象に、案分割合を2分の1として自動的に分割する方法です。平成20年4月1日以降の婚姻期間が対象です。
つまり、専業主婦の方が介護離婚する場合、結婚してから平成20年3月31日までは「合意分割」、平成20年4月1日から離婚までは「3号分割」をすることになります。
また、年金分割は自動で処理される訳ではなく、年金事務所に行って自分で手続きをしなければなりません。また期限は「離婚日の翌日から2年以内」ですので、もし合意分割の割合が決まっていなければ、相手との話し合いを早めに進める必要があります。 -
(3)新しい住居や仕事について
離婚に当たっては、財産分与・年金分割で夫に金銭をしっかりと請求しつつ、できれば収入源も確保したほうが良いでしょう。離婚が成立するまでの間に資格取得・就職活動など準備を進めておくと安心です。
また、新たな住居も探さなければなりません。治安の良さや利便性と、家賃価格のバランスを見ながら慎重に探しましょう。
なお、離婚が成立する前に別居を始めた場合、「婚姻費用」として生活費の一部を請求できる可能性があります。たとえ別居するほど夫婦仲が悪くても、離婚が正式に成立するまでは「相互扶助義務」があります。夫は別居する妻に生活費を支払う法律上の責任を負っているのです。「婚姻費用」の詳しい請求手続きについては、ぜひ弁護士にご確認ください。 -
(4)介護親族の金銭請求権とは
今までは、義親の介護を行いみとったとしても、相続人ではないからという理由で、相続財産を受け取ることはできませんでした。
しかし、2019年7月1日以降、被相続人である義親が死亡した場合、無償で療養看護その他労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした被相続人の親族は、「死亡を知ったときから6か月以内、または死亡時から1年以内」(民法1050条1項)であれば、金銭請求をすることができるようになりました。これを特別寄与料の金銭請求権といいます。
寄与料の請求対象は、夫や義兄弟などの法定相続人たちです。請求後、話し合いでまとまらない場合には、家庭裁判所に請求手続きを行うことになります。この請求権を使う場合、タイムリミットがかなり短いため、なるべく早めに弁護士に相談することをおすすめします。
4、介護離婚をする3つの方法
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(1)協議離婚
離婚手続きは、まず当事者間の話し合いからスタートします。ここで、夫が合意すれば離婚は成立しますが、財産分与・慰謝料など金銭支払いについての合意はしっかりと書面(これを「離婚協議書」といいます)に残しておきましょう。
「離婚協議書」は、できれば「公正証書」という形で残すのが望ましいです。公正証書とは、公証人の立ち会いのもと、公証役場で作成する公文書です。たとえば、金銭支払いについて公正証書上で約束した場合、「もし支払いを怠れば強制執行を受けて構いません」(強制執行認諾文言)と記載していると、裁判を起こさなくても夫の財産に強制執行をかけることができます。
離婚協議書・公正証書の作成手続きについても、やはり弁護士が頼りになります。当事者同士で冷静な話し合いが成立しない場合は、弁護士を介して話し合いをすることを検討しましょう。 -
(2)離婚調停
協議離婚が難しい場合は、まず「離婚調停」を起こすことになります。離婚調停とは、家庭裁判所にて調停委員と裁判官の立ち会いのもと、離婚について話し合いをすることです。
日本では「夫婦間のトラブルはなるべく話し合いで解決すべき」という価値観があるので、いきなり裁判を起こすのではなく、まずは必ず調停をしましょうというルールがあります。これを調停前置主義といいます。(家事事件手続法257条)
家事事件手続法
第257条 第244条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
調停で離婚が成立すると、離婚の事実や条件について「調停調書」にまとめられます。この「調停調書」は確定判決と同じ効力を有するため、もし約束を守らないと強制執行を受けることもあります。
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(3)離婚裁判
調停が不成立に終わった場合には、裁判を起こすことになります。この場合には、前述の通り、民法第770条に定める5つの「法定離婚事由」のいずれかを満たしていなければ離婚裁判をすることはできません。
高度な法律知識が必要な裁判手続きを自力で行うのは困難なため、裁判を見据えて離婚を考えていらっしゃるなら、早めに弁護士にご相談されることをおすすめします。
5、まとめ
熟年の介護離婚は、夫に離婚の意思を伝えるかなり前の段階から、よく準備しておくことが大切です。離婚後の第二の人生を少しでも豊かで平和なものにしたいのなら、衝動的に行動するのは得策ではありません。まずは「離婚にまつわるお金の知識を身につける」「仕事を探す」「夫の財産を全て把握する」「夫や親族から受けたDVやいやがらせの証拠を集める」などの地道な行動から始めることをおすすめします。
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