離婚するとき退職金は財産分与される? 熟年離婚で知るべき基本と年金分割
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名古屋市の発表によると、令和4年の1年間で受理された離婚件数は3717組でした。結婚生活が10年以上など長い方が離婚を検討するとき、避けて通れないのがお金の問題です。「離婚時にいくらもらえるのか」という点が重要で、熟年離婚ともなれば特に大きなお金のやりとりが財産分与で発生すると考えられます。
では、夫がもらうことになる退職金は財産分与の対象になるのでしょうか。結論から申し上げますと、財産分与の対象となりえます。そこで本コラムでは、財産分与の中でも計算が複雑で、忘れられがちな退職金と、併せて注意したい年金分割について、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、退職金は財産分与の対象になりえるか?
退職金は果たして財産分与の対象になるのでしょうか? 結論から述べると、退職金は財産分与の対象になる可能性はあります。
給与が財産分与の対象となるように、退職金も「給与の後払い」という性質があるため、財産分与の対象となる場合があります。退職金がすでに支払われて手元にある場合は、分与可能です。しかし、まだ支給されていない場合には問題があり、特に、支給がかなり先になるケースなどでは財産分与の対象にならないケースもありますので注意が必要です。
2、退職金が財産分与に含まれる場合とその計算方法
次に、退職金を財産分与の対象にできるケースとその計算方法について解説します。
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(1)退職金がすでに支払われ手元にある場合
まずは相手方に退職金がすでに支払われているケースを考えてみたいと思います。退職金がすでに支払われている場合は基本的に財産分与の対象になると考えて良いでしょう。
退職金は給与の後払いという性質を持っています。そして、それがすでに支払われて相手の財産となっている場合は「夫婦の共有財産」とみなされるケースが多いと考えられます。そのため、財産分与の対象になるというわけです。
財産分与の対象となる退職金額を求める方法として、一般的には以下のとおり計算されることが多いでしょう。
- 退職金額 × 婚姻期間(※後述のとおり、厳密には同居期間です) ÷ 勤続期間 = 財産分与の対象となる退職金額
婚姻期間が長ければ長いほど財産分与の対象となる退職金額は大きくなります。婚姻期間に、別居期間は含めないので、同居した結婚期間のみを計算してください。
退職金の金額は、雇用契約書や就業規則などで確認しましょう。 -
(2)退職金が支払われていない場合
前述のとおり、まだ退職金が支払われていない場合、「現時点で退職金の支払いがほぼ確実である場合」は財産分与の対象となる判断される可能性が高いでしょう。
退職金の支払いが確実であるか否かは、下記の点から総合的に判断される傾向にあります。
- 会社の規定に退職金の支給は定められているか
- 会社の経営状況
- 相手方の勤務状況
- 退職金が支払われるまでの期間
会社の規定に退職金の支給が定められていない場合、退職金が支払われない可能性が高いでしょう。また、会社に倒産の危険性がある場合も退職金の支払いが「ほぼ確実」とはいえません。
さらに、相手方が転職を繰り返しているような場合も退職金が支払われる確率は低いと判断されます。あわせて、今から換算して退職金が支払われるまでに10年以上要するような場合、退職金の支給が現実的というわけにはなりません。これらの基準をクリアした場合、退職金が財産分与に含まれる可能性があります。
まだ支払われていない退職金の計算方法は明確に定められていませんが、代表的な2つの方法をご紹介します。
●現時点で退職したと仮定して計算する場合
別居した時点、別居がなかった場合は離婚した時点で、退職したとみなして退職金を計算する場合もあります。退職金は、就業規則や雇用契約書を確認しながら計算します。
財産分与に含まれる退職金額は、前述のとおり以下の計算式で計算できます。
- 退職金額 × 婚姻期間÷ 勤続期間 = 財産分与の対象となる退職金額
たとえば退職金額が3000万円、相手方の勤続期間が30年、そして勤続期間に対する婚姻期間が10年と仮定した場合、下記のような計算になります。
- 3000万円 × 10年 ÷ 30年 = 1000万円
この場合、1000万円が分与される財産に含まれます。
また、婚姻期間中に別居期間がある場合は、下記のように計算することが多いでしょう。
- 退職金額 × (婚姻期間 - 別居期間) ÷ 勤務期間
別居といっても単に会社の命令による単身赴任などは別居に含まれないとされる可能性が高いでしょう。ここでいう別居期間は、夫婦関係悪化による別居の場合と考えていただけると分かりやすいでしょう。
●定年退職時に受け取る予定の退職金で計算する場合
定年まで働き、退職した場合に受け取ることができる退職金を計算して、財産分与の対象となる退職金の金額を計算する場合もあります。
定年時の退職金から、結婚期間以外の労働分と中間利息を差し引くと計算可能です。中間利息(将来の一定額の金銭支払いを目的とする債権について現在の価額を算定する場合に、その債権額から控除されるべき中間の利益)とは、わかりやくいえば、本来受け取るべき期間より先にもらっているため、早くもらった分だけ発生する利息のことです。
平成11年に東京地方裁判所で争われた事例では、夫が6年後に受け取る退職金は財産分与の対象と認められました。それに勤続期間に対する婚姻期間の割合額を算定し、中間利息(年率5%)を複利で控除して、その半分を分与するべきと判断された裁判例があります(東京地裁平成11年9月3日)。
3、退職金の分割割合を決める方法
退職金を分割できることがわかっても、財産全体の分割割合について互いに合意できないケースも少なくないでしょう。では、どのように決めていくべきなのでしょうか。
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(1)夫婦の「寄与度」を考えつつ分割割合を決める
財産分与の対象となる退職金の総額がわかったら、次はその額から、夫婦それぞれの取り分を決めましょう。
財産分与の割合は、調停や裁判になった場合は原則として2分の1で分割します。しかし、裁判や調停ではなく、話し合いで割合を決める場合は、自由に割合を決定できますが、その場合は、「寄与分」といって、お互いの貢献度によって決めるケースもあります。
分割割合の合意ができたら、公正証書にまとめましょう。公正証書にしておくことで、相手が合意した内容を守らなかったとき、執行受諾文言(債務を履行しなかった場合には、直ちに強制執行に復する旨の文言)が記載されていれば、裁判などの面倒な手続きをせずに差し押さえ等の手続きをとることが可能な場合が多く、万が一、相手が約束を守ってくれなかったとき、非常に役に立ちます。ただし、公正証書に記載する文言等については、よく検討しておく必要があります。 -
(2)話し合いがまとまらなければ調停を申し立てる
分割割合についてお互い一歩も譲らない、という状況になってしまったら、調停を利用しましょう。
調停では、調停委員を介すため、相手と顔を合わせることなく話し合いを進めることができます。また、調停委員からの客観的な意見を聞くことで、財産分与の相場などを冷静に理解することができます。
調停が成立すれば、合意の内容は「調停調書」として残されます。もし、約束を守ってもらえなかった場合は、調停調書に基づいて差し押さえ等が可能です。 -
(3)調停でまとまらなければ裁判
調停でも分割割合を合意できなければ、裁判を検討しましょう。当事者の合意を重視する調停とは違い、最終的な判断は裁判官にゆだねられていますので、証拠が非常に重要な意味を持ちます。
ただし、裁判になった場合は、財産分与の割合は2分の1になることがほとんどでしょう。裁判にもメリット・デメリットがあるので、弁護士と相談のうえ裁判をするべきか否かを判断することをおすすめします。
4、年金分割にも注意を
熟年離婚をする際に特に気を付けなければならないのが、年金分割制度です。
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(1)年金分割とは
年金分割制度とは、年金を払っていた会社員や公務員の夫とその妻が離婚した場合に、妻の受け取れる年金が少なくなってしまう問題を解決するために作られた制度です。
日本の年金制度は、3つの年金を組み合わせて作られた制度です。ベースは国民年金、国民すべてが入る年金です。次に厚生年金保険(統一化された旧共済年金を含みます)、会社員や公務員が入る年金です。そして、自分の勤めていた会社や業界で独自に設立された年金保険となる厚生年金基金(国民年金基金)があります。
このうち、年金分割制度の対象となるのは、厚生年金保険(旧共済年金を含む)のみであり、国民年金や国民年金基金、厚生年金基金などは適用外であることには注意が必要です。 -
(2)年金分割の種類
年金分割の制度は、2種類あります。ひとつは、合意分割制度、もうひとつは3号分割制度です。
それぞれ、対象となる期間や配偶者に扶養されていたかどうかなどによって分けられます。
合意分割制度とは、婚姻期間中に納めていた厚生年金を、最大2分の1で分割できる制度です。夫婦間でまず分割割合を話し合いますが、合意ができない場合は、裁判所がその割合を決定します。
3号分割制度とは、平成20年4月1日以降の婚姻期間中に夫(や妻)の扶養に入っていた期間がある場合、その期間の厚生年金を2分の1に分割する制度です。合意分割と違って自分で請求すればよく、相手の同意は必要ありません。ただし、相手に扶養されていた方でも、平成20年3月31日までの分は合意分割の対象となりますので、相手の同意が必要となります。 -
(3)年金分割についての注意点
年金分割は、離婚するときに必ず決定すべきことではありませんが、請求の期限は離婚が成立した日の翌日から2年と決まっているため、離婚した際に年金分割を行わなかった方は、期限前に手続きをしなければなりません。
5、まとめ
離婚における財産分与の計算は非常に煩雑です。特に結婚生活が10年以上、20年以上にも及ぶ場合、退職金も財産分与の対象となりえます。請求する側としても請求される側としても、適切な計算を行うべきですが、その計算は非常に難しいものです。さらに、それ以外の財産が財産分与の対象になるかどうかも判断が分かれることがあります。
その他、離婚する理由によっては慰謝料や養育費などの問題もあります。ご自身が自分が受け取るべき権利があるお金なのか、ご自身が支払わなければならないお金なのかについてきちんと主張したい場合は、弁護士に相談すべきでしょう。離婚問題についての知見が豊富なベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士であれば、離婚における相手方との交渉や説得はもちろんのこと、あなたの今後の人生を考え、親身になってアドバイスを行います。
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