根抵当権の相続は難しい? 抵当権との違いや相続における注意点を弁護士が解説
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銀行などの金融機関から融資を受ける際の不動産担保は「抵当権」と「根抵当権」が多く用いられています。抵当権は住宅ローンなど個人向け融資の担保としても利用されていますが、根抵当権は事業資金のために用いられることが多く、あまりなじみがないかもしれません。
根抵当権は事業者にとって利便性が高い一方で、仮に相続が発生した場合、やや面倒な対処が必要となることもあります。
本コラムでは、根抵当権が設定された不動産を所有している方や、相続を受けた方に向けて、根抵当権と相続について弁護士が解説します。
目次
1、根抵当権とは? (普通)抵当権との違いについて
抵当権や根抵当権についてあまりなじみがない方に向けて、法律の規定や抵当権と根抵当権の違いについて解説します。
なお、根抵当権は抵当権のひとつの形態であり、両者をまとめて抵当権ということもあれば、抵当権と根抵当権を対比する際に、抵当権を「普通抵当権」をいうこともあります。
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(1)銀行取引や企業間取引における根抵当権の役割
抵当権といって個人の方が真っ先に思い浮かぶのは住宅ローンではないでしょうか。
抵当権は、設定した不動産に住み続けたり、事業所として利用したりしながら返済できる担保で、利便性が高いことから広く利用されています。
しかし、継続的な運転資金の貸し借りや商品の売買を繰り返す事業者の場合、1回の取引ごとに普通抵当権を設定するのでは時間も手間もかかってしまいます。
そこで、将来発生する債権債務のために、限度額を定めてあらかじめ抵当権を設定する根抵当権の利用が広がりました。
銀行など金融機関と事業者間の取引や事業者同士の取引における不動産担保は、普通抵当権よりも根抵当権が設定されることが多いでしょう。 -
(2)根抵当権設定契約の要素
根抵当権は、抵当権のひとつの形態として規定されています。
民法398条の2第1項
抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
根抵当権は次の事項を取り決めて設定します。これを「根抵当権設定契約」といいます。
① 根抵当権者
根抵当権で担保される債権の債権者です。根抵当権で担保される債権は、必ずしも根抵当権設定契約時に発生している必要はありません。
② 根抵当債務者
根抵当権で担保される債権の債務者です。
③ 根抵当権設定者
根抵当権を設定する不動産の所有者です。
会社が債務者となり、会社の代表者個人が所有する不動産に根抵当権を設定するような例もあり、債務者と根抵当権設定者は必ずしも一致しません。この場合、「物上根保証人」として、根抵当債務者と区別して呼ぶ場合があります。
④ 債権の範囲
根抵当権が担保する債権は、特定の継続的取引や一定の種類の取引などにより発生するものに限定されており(同条3項)、登記によって明示しなければならないことになっています。
「○年○月○日付け当座貸越契約」や「銀行取引」などと特定します。
⑤ 極度額
根抵当権により担保される上限の金額です。元本に利息や遅延損害金を含めた総額です(民法398条の3第1項)。
根抵当権を第三者に対抗するためには、当該抵当権が根抵当権である旨の登記をして、①から⑤の事項を記載しなければなりません(不動産登記法59条、同83条1項、同88条2項)。 -
(3)普通抵当権と根抵当権の違い
普通抵当権は、特定の債権を担保するために設定されることから、被担保債権が弁済や時効により消滅すると、普通抵当権も消滅します。この関係を「付従性」といいます。
また、被担保債権が譲渡されたり、保証人が弁済したりした場合、普通抵当権は被担保債権とともに移転します。この関係を「随伴性」といいます。
一方、根抵当権には付従性や随伴性がなく、この2点が普通抵当権との大きな違いといえるでしょう。
そもそも根抵当権は、普通抵当権にある付従性を排除して、抵当権を与信枠として繰り返し利用するという特性があります。
そのため、根抵当権が被担保債権の権利関係変動に影響されないのは、制度の特性からして当然ともいえます。 -
(4)根抵当権を抹消する方法
根抵当権を抹消したい場合、担保されている借金を弁済するだけではなく、別途抹消のための手続きが必要です。その手続きは2通りの方法があります。
① 合意による解除
根抵当権者(債権者)に根抵当権設定契約の解除を申し入れて合意に至れば、根抵当権を抹消することが可能です。
最も簡便な方法ですが、根抵当権者側の思惑にも左右されることから、確実な方法ではありません。
② 元本の確定
抵当権設定契約時に、確定期日が定められている場合には、確定期日の到来により、元本が確定します。(民法398条の6第4項)
確定日付が定められていない場合であっても、根抵当権により担保されている借金が残っている場合、元本確定請求をすることにより、根抵当権は普通抵当権として扱われることになります。(民法398条の19第1項、同2項)
元本が確定すると、さらなる融資を受けることはできなくなりますが、被担保債務を完済すれば根抵当権設定登記の抹消を求める権利が生じます。
根抵当権設定者が元本確定請求をできるのは、根抵当権設定から3年経過した以降となり、元本確定請求をして2週間経過後に元本確定の効力が生じることになります(民法398条の19第1項)。
また、根抵当権者側の元本確定請求(民法398条の19第2項)や差し押さえ(民法398条の20第1項1号)などによっても元本確定の効力が生じます。
2、根抵当権が設定されている不動産を相続した場合の選択肢
相続財産に根抵当権が設定された不動産がある場合の対処法を解説します。
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(1)遺産分割の一般原則
不動産と金銭債権では遺産分割の方法が異なるため、根抵当権の相続はやや複雑な面がありますので、まず遺産分割の一般原則を抑えていきましょう。
なお相続では、亡くなって財産を遺す方を「被相続人」、遺産を引き継ぐ方を「相続人」と呼びます。また、被相続人が亡くなって相続が発生することを「相続の開始」といいます。
① 不動産の所有者・根抵当権設定者としての地位
根抵当権は不動産に付着する権利義務であることから、その不動産を相続した人が根抵当権設定者としての地位も引き継ぐことになります。
不動産は、相続の開始により相続人全員が共有する状態となり、遺産分割協議によりその不動産を取得する相続人を決めなければなりません。
法律の規定により相続人となるのは配偶者と次の親族です。
優先順位 相続人となる親族 法定相続分
(複数人の場合は均等割り)配偶者の法定相続分 第1順位 直系卑属
(子ども・孫)2分の1 2分の1 第2順位 直系尊属
(親・祖父母)3分の1 3分の2 第3順位 兄弟姉妹 4分の1 4分の3
② 被担保債務(借金)
金銭債権は、相続人が法定相続分に応じて返済義務を引き継ぎます。
遺産分割協議により、特定の相続人が借金もすべて引き継ぐような取り決めをすることも可能ですが、債権者の承諾が必要です。
③ 根抵当権の元本確定
根抵当権について相続が発生した場合、何の対処もしなければ相続開始から6か月経過することにより相続開始の時に元本が確定したものとみなされるという独特のルールがあります。(民法398条の8)
根抵当権を抹消する方向であれば特に問題はありませんが、事業や根抵当権を承継したい相続人がいる場合は注意が必要です。
根抵当権などを承継したい場合の手続きは次章で詳しく解説します。 -
(2)不動産を相続したい場合
不動産を相続して根抵当権を抹消したい場合は、
- 遺産分割協議により不動産を取得
- 根抵当権の元本を確定させる
- 被担保債務を完済して根抵当権設定登記を抹消
という手順を踏む必要があります。
被担保債務(借金)は各相続人が法定相続分に応じて相続するのが原則ですが、根抵当権の実行による競売を避けるために、被担保債務の弁済についても遺産分割協議でよく話し合う必要があるでしょう。 -
(3)不動産も借金も相続したくない場合
一切の財産や借金を引き継ぎたくない場合は、家庭裁判所で相続放棄の申述を行うことを検討しましょう。
相続放棄の申述をすると、初めから相続人ではなかったことになります。
また、相続の対象となる財産で借金を清算して残った財産のみを相続したい場合は、限定承認の申述をすることも考えられます。
限定承認は相続人全員で行う必要があり、他の相続人の協力が得られない場合は利用することができません。
相続放棄や限定承認の申述は、相続の開始を知った時から3か月以内に行う必要があります。 -
(4)事業を引き継ぐ相続人に相続させたい場合
特定の相続人に不動産や借金を相続させたい場合は、遺産分割協議によりそのような取り決めをするか、他の相続人が相続放棄をする方法が考えられます。
なお、不動産を取得した相続人が代償金を支払うことにした場合、遺産分割協議により代償金を明示しなければ、贈与税が課税される可能性もあります。
3、根抵当権の債務者を変更する登記手続き
被相続人の事業や根抵当権を承継したい場合に必要な登記手続きを解説します。
① 相続による所有権移転登記
遺産分割協議により当該不動産を相続することになった人へ登記名義を変更します。
これは根抵当権の有無に関係なく、不動産を相続する場合には必ず行う必要がある手続きです。
② 根抵当権の債務者を変更する登記
根抵当権で担保される借金は、プラスの財産とは違い、相続開始により各相続人が法定相続分に応じて相続します。遺産分割の対象にはなりません。そのため、根抵当権設定登記の債務者を各相続人に変更する登記手続きを行います。
③ 指定債務者合意の登記
根抵当権を相続人が引き続き利用して銀行取引等を行うためには、特定の相続人を「指定債務者」とする登記手続きをする必要があります。(民法398条の8第2項)
指定債務者の合意は、抵当権者(銀行等)と①で登記した所有者との間で行います。
指定債務者合意の登記手続きを行うことにより、相続開始後に生じた指定債務者の債務が根抵当権により担保されることになります。
①から③までの登記を相続開始から6か月以内に行わなければ、相続開始時点で存在した債務によって元本が確定したものとみなされ、根抵当権として利用することはできなくなります(民法398条の8第4項)。
④ 相続開始前の債務を指定債務者が引き受ける場合
①から③までの登記により、根抵当権は次の債務を担保する状態となります。
- 相続開始の時点で存在し、各相続人が負担する債務
- 相続開始後に指定債務者が負担する債務銀行等との合意では、相続開始前の債務
銀行等との合意では、相続開始前の債務も指定債務者が負担することとされるのが一般的です。
しかし、各相続人が負担する相続開始前の債務を、指定債務者が引き受けると債権の性質が変わることから、根抵当権では担保されなくなります。(民法398条の7第2項、
そのため、②の登記について、債務者を指定債務者に変更するとともに、根抵当権が担保する債権の範囲も変更する必要があります。
4、根抵当権を相続する際の注意点
根抵当権について、次世代への引き継ぎを意識した対策方法や、実際に相続を受けた場合の注意点について解説します。
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(1)根抵当権を承継する場合は6か月の期限に注意
相続開始から6か月の間に指定債務者合意の登記をしなければ、相続の開始にさかのぼって被担保債権の元本が確定します。
いったん元本が確定すると、同じ条件で根抵当権を設定し直すことができない場合もあり、事業の継続にも支障が出ることも考えられます。
6か月というと余裕があるようにも感じられるかもしれませんが、遺産分割協議や根抵当権者との調整など、他人の協力を取り付けながら手続きを進めていかなければなりません。
また、相続の開始後は葬儀や遺品の整理などするべきことも多く、相続に関して遺族同士で意見が対立する可能性もあります。
指定債務者合意の登記にこぎ着けるのは必ずしも容易ではないことから、話がこじれる前に専門家のサポートを受けることも視野に入れたいところです。 -
(2)遺言書の作成も選択肢のひとつ
経営者の方が相続を意識した場合、遺族の生活とともに事業の将来についても気掛かりになるのではないでしょうか。
事業の承継者がいる場合は、親族も含めてよくコミュニケーションを取ることも方法のひとつですが、さらに進んで遺言書を作っておくことにより、誰がなにを相続するのかを指定しておくのも賢明な選択です。
相続では遺言者の遺志が最大限に尊重されるため、遺言書がある場合、遺族の遺産分割に関する負担が大きく軽減されます。
しかし、遺言書は法律や相続税制に関する知識を踏まえた上で作成しなければ、かえって相続が紛糾することにもなりかねません。
遺言書の作成を検討している場合や遺言についてよく知りたいという場合は、相続に関する経験が豊富な弁護士に相談されることをおすすめします。 -
(3)配偶者居住権との関係
令和2年4月より、遺族となった配偶者がそれまで居住していた住宅に住み続けることができる「配偶者居住権」という制度がスタートしました。
配偶者居住権には
- ① 相続開始後、最低でも6か月間居住を続けられる短期居住権(民法1037条)
- ② 長期間居住を続けられる居住権(民法1028条)
の2種類があります。
①の短期居住権は遺産分割協議が調うまでの暫定的な権利ですが、②の居住権は登記をすることも可能で、効力はあらかじめ設定した期間または配偶者が亡くなるまで続きます。
しかし、すでに自宅に根抵当権が設定されているなら、配偶者居住権は根抵当権に劣後する権利となってしまい、根抵当権が実行されると居住権を主張できなくなります。
自宅に根抵当権が設定されている場合、このようなリスクも認識しておきたいところです。
5、まとめ
根抵当権は利便性が高い反面、相続が発生した場合、個人の方が対処するのはややハードルが高いものになってしまいます。
また、円滑な事業承継や遺産分割のためには、生前の対策も大きなポイントになるといえます。
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相続について不安があるという方はぜひお気軽にご相談ください。
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