残業代カットと言われたら、確認すべきことと未払い残業代の請求方法

2021年03月15日
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残業代カットと言われたら、確認すべきことと未払い残業代の請求方法

あなたは、ご自身に支払われている残業代が、正当な金額であるかどうかを確認したことがあるでしょうか。仕事量が多くて残業続きなのに、なぜかお給料は残業が少ないときと変わらないというときは、注意が必要です。

平成30年には名古屋高裁にて、「役職手当の支払いをもって固定残業代の支払いとしていた会社の規定が違法である」と判断された事件もあります(名古屋高裁 平成30年4月18日判決)。

あなたが正当な残業代を受け取っていないときは、上記のように残業代を請求することができるかもしれません。「そもそも残業代とはどのようなときに発生するのか」ということから、確認していきましょう。

1、残業代はどのようなとき発生する?

残業代とは、法定労働時間を超えて働いた場合に支払われる割増賃金のことです。時間外手当とも呼ばれています。

労働基準法上の時間外労働や休日労働に対しては、割増賃金を支払わなくてはなりません。時間外労働の場合は1時間あたりの給与の125%、休日労働の場合は135%の割増賃金が発生します。

●労働基準法上の時間外労働とは
労働基準法上の時間外労働とは、次の法定労働時間を超えた労働をいいます。

使用者は、労働者に、休憩時間を除いて、1週40時間を超えて労働させてはならず、かつ、1日8時間を超えて労働させてはなりません。この「1週40時間・1日8時間」を超えた労働は、原則として時間外労働になります。

●残業代が発生しない場合・する場合
このため、たとえ所定時間(労働契約で取り決めた始業~終業時刻)を超えた労働であっても、法定労働時間を超えていない場合には、残業代は発生しません。

たとえば、勤務時間が午前9時から午後5時まで(休憩時間1時間)とされている会社に勤務していたときに、午後7時まで残業した場合を見てみましょう。

午後5時から午後6時までは1日8時間を超えていないので、割増賃金は発生せず、午後6時から午後7時までの1時間分だけ125%の割増賃金が発生することになります。もっとも、午後5時から6時までの1時間も、会社との間で決められた時間より余分に働いているのですから、1時間分の賃金(100%の割合)は請求できます。

また、時間外労働の割増賃金は1分単位で発生するので、たとえ10分単位であっても時間を切り捨てるのは労働基準法違反です。

例外的に、残業時間の1か月の合計時間に1時間未満の端数が出た場合に、30分未満は切り捨て、それ以上は1時間に切り上げる運用は認められていますが、あくまで1か月の合計で端数が出た場合ですので、日々の残業時間について10分未満は切り捨てるような運用は許されません。

2、「残業代カット」は違法! 本当は発生するケース

管理職だから、在宅勤務だから、という理由で残業代がカットされた場合、違法である可能性が高いです。それはなぜか、以下で解説していきます。

  1. (1)管理監督者であることを理由とする不払い

    勤務先で管理職に就いた場合に、残業代がつかなくなるケースをよく耳にします。

    これは、労働基準法41条で、労働時間、休憩、休日に関する規定を適用しない労働者として、「監督若しくは管理の地位にある者」(2号)が規定されているためです。
    労働時間に関する規定が適用されないので、法定労働時間を超えて働いても割増賃金を支払う必要はありません。

    では、この「管理監督者」とは、どのような立場の人をいうのでしょうか。

    裁判例においては、管理監督者とは、「経営方針の決定に参画しあるいは労務管理上の指揮権限を有する等、その実態からみて経営者と一体的な立場にあり、出退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量を有する者」とされています。(静岡地裁昭和53年3月28日判決より)また、一般の従業員に比して、その地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇が与えられている者であることも重要な判断要素です(昭和63年3月14日付け基発第150号より)。

    裁判で「管理監督者であるかどうか」がポイントになった場合には、裁判所はさまざまな要素を勘案し、上記のような管理監督者にあたるかを判断しています。

    単に名前だけの管理職で、給与も一般従業員と比べて大きく変わらないような場合には、「管理監督者」とは到底言えず、残業代が請求できるケースといえるでしょう。

  2. (2)在宅勤務であることを理由とする不払い

    新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、在宅勤務形態が急速に普及しつつありますが、
    在宅勤務を理由として、使用者側が残業代の支払いを拒否することもあるでしょう。

    労働時間を法定時間内に収めることができればよいのですが、仕事が忙しく残業した場合に、残業代を請求することはできるのでしょうか。

    結論から言うと、在宅勤務の場合でも、残業代を請求できる可能性があります。勤務場所がオフィスであろうと自宅であろうと、使用者の指示により、法定労働時間を超えて働いた場合には残業代は発生するものなのです。

    ただし、オフィス以外の場所で業務を行うにあたり、会社が事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)を導入している場合には注意が必要です。事業場外労働のみなし労働時間制とは、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事し、かつ、労働時間の算定が困難な場合には、所定労働時間だけ労働したものとみなすという制度です。みなし労働時間制が適用されると、実際に何時間働いたかは問題とならず、みなし時間だけが労働時間として計上されるので、残業代が発生しないことになります。

    もっとも、昨今ではITが発展しており、メールやチャットツール、Web上の勤怠管理システムなどで勤務状況を把握することが比較的容易にできるため、「労働時間の算定が困難」とは言いにくいといえます。

    厚生労働省は、在宅勤務に事業場外みなし労働時間制を導入するには、次の条件を満たす必要があるとしています。

    • 当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
    • 当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
    • 当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと

    (厚生労働省サイトより抜粋)


    つまり、在宅勤務であっても、随時会社からメールなどで指示がなされ、これに即応しなければならないような状態であれば、会社が事業場外みなし労働時間制を根拠に残業代の支払いを拒むことはできません

    以上より、在宅勤務であることのみを理由として残業代を支払わないことは、違法である可能性が高いでしょう。

    在宅勤務は、通常勤務に比べ、残業時間の立証が困難なケースも少なくありません。
    会社が申告どおりに残業代を払ってくれない場合に備え、メールやチャット、電話の通話記録、パソコンのログイン・ログアウトの履歴、業務日報など、自分で保存できるものはしっかりと証拠として残しておくようにしましょう。

3、残業代が請求できない職業と時効に注意

本当は残業代が発生しているケースを上記でご紹介しましたが、実は残業代がそもそも発生しない職業もあります。また残業代の請求には時効があることにも注意が必要です。以下で見ていきましょう。

  1. (1)残業代が発生しない職業がある

    労働基準法第41条は、以下に定める労働者には労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されないと定めています。なお、これらの労働者であっても、深夜割増賃金についての規定は適用されます。

    ●労働基準法 第41条
    1. 1 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
    2. 2 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
    3. 3 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

    ●労働基準法 別表第1
    1. 6 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
    2. 7 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業


    労働基準法41条1号に定められている労働者とは、具体的には、農業(林業を除く)、畜産・養蚕・水産業の業務に従事する者のことです。

    天候や季節に作用されやすい事業であるため、性質上一律に同労時間を規律することができないためです。

    2号前段の管理監督者は先ほどご説明したとおりです。
    2号後段の「機密の事務を取り扱う者」とは、社長の筆頭秘書のような労働者を指します。

    3号の「監視又は断続的労働に従事する者」とは、全体としてみた場合に、通常の労働者よりも労働密度の薄い監視業務や断続的業務に従事する人のことです。

    「監視労働」とは、「一定部署に在つて監視するのを本来の業務とし常態として身体又は精神緊張の少い」労働をいいます(昭和22年9月13日付け基発第17号より)。

    「断続的労働」とは、実作業が間欠的に行われて手待ち時間の多い労働のことです。
    工場の警備員や、マンションの管理人などが、「監視又は断続的労働に従事する者」にあたります。

    これらのような業務は労働密度が薄いため、仕事による心身の疲労度合いが低く、時間外手当の定めを適用しなくても、労働者の保護に欠けることはないとされています。

    ただし、使用者の勝手な判断によって、時間外手当の給付を免れることを防ぐために、行政官庁の許可を得ることが必要です。

  2. (2)賃金請求権には時効があることに注意

    労働基準法の規定による賃金請求権には時効があり、2年間のうちに行わなければなりません。時間外労働、休日労働、深夜労働に対する、割増賃金の支払請求権の時効も2年であり、それ以上前の残業代を請求することはできないことに注意が必要です。

    なお、法改正により、2020年4月1日以降に発生した賃金請求権については、当分の間、時効が3年になりましたが、これはあくまで同日以降に発生した賃金等については3年に延びたというだけですから、請求する日が同日以降であっても、2020年3月31日までに残業をした分の割増賃金を請求する場合には、時効は2年のままですので注意してください。

4、3つの残業代請求の相談先について解説

残業代の支払いを求める手段は、いくつかありますので、ここでご紹介しましょう

  1. (1)労働組合に相談する

    ひとつは、労働組合に相談して、使用者側との団体交渉を求めるという手段です。ただし、会社によっては労働組合がないところもあります。また、労働組合の、使用者に対する事実上の影響力がほとんどないという場合もあり、効果が期待できるかはケース・バイ・ケースでしょう。

  2. (2)労働基準監督署に行く

    二つ目に、労働基準監督署に相談に行くという方法があります。労働基準監督署は、労働関係の法律に基づき、企業に対して改善指導・安全衛生の指導や労災保険の給付などを行う機関です。労働基準監督署は、労働者から残業代未払いについて相談を受け関係法令違反があると判断した場合には、使用者側に対して、改善を求めるように指導をしてくれます。

    ただし、労働基準監督署は、あくまで行政上の権限および特定の事項について警察権を行使する機関ですから、使用者側が指導に応じない場合には、労働基準監督署としてそれ以上の民事上の手段(労働審判や民事訴訟)をとることはできません

  3. (3)弁護士に相談する

    三つ目は、弁護士に相談するという手段です。弁護士は、労働者の代理人として、企業側に対して残業代を請求します。一般的には、使用者側との交渉に始まり、交渉が決裂すれば、労働審判や民事訴訟を起こして残業代を請求します。

    弁護士は、労働組合と異なり完全に使用者側から独立した立場なので、使用者側との癒着のために行動がとれない、などということはありません。また、労働基準監督署と異なり、裁判を起こさないと請求が難しいような場合であっても、最後までしっかりとサポートをすることができます

5、まとめ

正当な残業代を支払わない、いわゆる「ブラック企業」で働くこと自体、精神的に疲れてしまいますが、そのうえでさらに残業代をめぐって(元)職場と戦うということになると、精神的に追い詰められてしまうこともあるかもしれません。

そのため、残業代請求にあたっては、なるべく早く頼れる人を見つけ、早期解決を目指すことが好ましいでしょう。

ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスでは、法律を無視する使用者側と戦おうとする労働者の決断を全力で応援いたしますので、ご自身の残業代に疑問を感じた場合には、ぜひご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています