退職届の受理を拒否されても、退職することは可能?
- その他
- 退職届
- 拒否
転職先が決まり、上司に退職届を提出したものの、「人手が足りないから少し待ってほしい」などと言われ、退職届の受け取りを拒否されるケースがあります。
会社(使用者・雇用者)が退職届を拒否できるかどうかは、民法で定められる退職要件を満たしているかどうかによって決まります。もし退職要件を満たしているにもかかわらず、会社に退職届を拒否された場合は、1人で悩まず弁護士へ相談することをおすすめします。
今回は、退職届の法的性質や、会社が退職届を拒否することの可否、さらに会社が退職届を受け取らない場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、会社が退職届を拒否することは可能?
会社が退職届を拒否できるかどうかは、民法に定められた退職要件を満たしているかによって決まります。
-
(1)退職の要件を満たしていれば、拒否はできない
退職届は、以下の退職の要件を満たしていれば、労働契約を終了させる法的効力を有します。
民法上、労働者側から労働契約を終了させる(退職する)ための要件は、契約期間の定めの有無によって異なります。<契約期間の定めがない場合>
退職日の2週間以上前に通知を行うことで、労働者はいつでも労働契約を解約できます(民法第627条第1項)。
なお就業規則等で、2週間よりも長い通知期間が定められているケースもありますが、そのような就業規則等の有効性には疑問が呈されています(東京地裁昭和51年10月29日判決等)。
<契約期間の定めがある場合>
原則として、契約期間が満了するタイミングを除き、労働者側から一方的に労働契約を解約することはできません。
ただし、以下のようなやむを得ない事由がある場合には、労働者は直ちに労働契約を解除できると考えられます(民法第628条)。- 心身の障害や病気
- 親族の介護
- 違法な業務命令
-
(2)退職の要件を満たしていない場合
反対に、退職の要件を満たしていない場合は、退職届が提出されたとしても、直ちに労働契約終了の法的効果は発生しません。この場合、会社は退職届を拒否することも可能です。
ただし、実質的に退職の要件を満たさないケースとして想定されるのは、契約期間の定めがあり、かつやむを得ない事由がない場合に限られるでしょう。
なお、退職要件を満たしていない場合でも、会社の判断で退職届を受理して、労働契約を合意解約することはできます。
2、退職届と退職願の違い
退職届と退職願は、どちらも退職を希望する労働者が会社に提出する書面ですが、法的性質は別と解すべきケースが多いです。
退職届とは、労働者が会社に対して、退職する旨の意思表示をする書面です。
これに対して退職願は、一般的に、労働契約の合意解約の申し込みであると解されます。
つまり、会社に対して「退職してもよいですか」と打診し、会社が「いいですよ」と応じることによって、初めて労働契約が終了するということです。
したがって、すでに退職時期を決めている場合には退職届を、会社と相談して退職時期を決めたい場合には退職願を提出するのが適切でしょう。
3、退職届が会社に受理されない場合でも、退職はできる?
労働者の側に視点を移して、会社に退職届が受理されなかった場合でも、会社を退職することはできるのかどうかを検討してみましょう。
-
(1)退職要件を満たしていれば、自動的に退職できる
退職要件を満たした状態で退職届を提出すれば、(通知期間の経過によって)自動的に労働契約が終了します。
この場合、会社が退職届を拒否していたとしても、労働者は会社を退職することができます。 -
(2)退職要件を満たすまで労働契約は存続する
これに対して、契約期間の定めがあり、かつやむを得ない事由がない場合には、以下のいずれかに該当するまでの間、労働契約が存続します。
- 契約期間が満了する
- やむを得ない事由が発生する
労働契約が存続する場合、会社の同意がない限り、労働者が一方的に会社を退職することはできません。
-
(3)労働契約の存続中は、無断欠勤すると懲戒処分の対象になる
退職要件を満たさずに労働契約が存続する場合、労働者は引き続き、会社の指揮命令下に置かれることになります。
この場合、会社を無断欠勤したり、合理的な業務指示に従わなかったりすると、会社から懲戒処分を受けるおそれがあります。特に、諭旨解雇や懲戒解雇になった場合、退職金の全部または一部が支給されないことがあるので気を付けましょう。
4、退職届が会社に受理されない場合の対応
退職届を会社に拒否された場合、早期に退職を実現するには、以下の対応をとることが考えられます。
-
(1)配達証明付内容証明郵便で退職届を郵送する
内容証明郵便は、郵便局によって差出人・受取人・差出日・内容の証明が行われるため、正式な退職届の提出に適した方法といえます。
また、会社が受領する意思を有しているかどうかにかかわらず、退職の意思表示を会社に到達させることができる点も、内容証明郵便で退職届を送付するメリットです。
なお、意思表示は到達時点で効力を生じるため、内容証明郵便が会社に配達された日が重要になります。配達日を把握するためには、オプションで配達証明を付けておくとよいでしょう。
なお、内容証明はオンライン(e内容証明)で送ることもできます。形式が郵便局で送る場合と少し異なるため、詳しくは郵便局のサイトをご参照ください。 -
(2)総合労働相談コーナーに相談する
都道府県労働局や労働基準監督署には、労働問題全般について、労働者からの相談を受け付ける「総合労働相談コーナー」が設置されています。
参考:「総合労働相談コーナーのご案内」(厚生労働省)
退職届の受け取り拒否を含めたあらゆる種類の労働問題について、一般的な対応方針等のアドバイスを受けられます。ただし、労働者に代わって会社との話し合いを行ってもらうことはできません。 -
(3)弁護士に相談する
弁護士は労働者の代理人として、労働問題に関する会社との折衝を全面的に代行します。
会社が不当に退職届の受理を拒否しているケースでも、弁護士が法的な観点から説得を行うことで、会社の態度が変化するケースも多いです。退職届を受理してもらえずに悩んでいる方は、まずは一度弁護士へご相談ください。
5、まとめ
退職届を会社が拒否できるかどうかは、退職要件を満たしているかどうかによって決まります。
特に、期間の定めのない労働契約の場合は、2週間以上前の通知(退職届の提出)によって、労働者側からいつでも解約ができます。そのため、会社による退職届の拒否は違法である可能性が高いです。
ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスには、労働問題の解決を得意とする弁護士が多数在籍しております。会社に退職届を受け取ってもらえない場合でも、迅速に退職を実現に向けて弁護士がサポートします。
退職に関して会社とトラブルになっている方は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています