愛知でも事件が報道された、外国人技能実習制度の問題点の数々を弁護士が解説!
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日本では労働力不足により、外国人技能実習制度を利用した企業が外国からの労働者受け入れを進めています。今後も外国人技能実習制度を利用してのその傾向は増加していくでしょう。
しかし、多くの外国人労働者を受け入れる上で、問題点が多いことはニュースでよく報じられているとおりです。外国人技能実習制度では労働者が起こす問題だけではなく、雇用側の問題点も増えてきています。たとえば、平成30年5月、愛知県の自動車会社が実習生に対して、技能実習法に違反する不法行為をしていた疑いがあるという報道がありました。
実際に外国人技能実習制度を利用して日本へやってきた友達がいると、さまざまな雇用側の問題点を耳にすることもあるでしょう。しかし、どうアドバイスすればよいのかわからないと悩んでいる方も多いようです。今回は、外国人技能実習制度の問題点について、ベリーベスト法律事務所・名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、外国人技能実習制度とは?
外国人技能実習制度はもともと昭和30年代後半から海外の現地法人で社員教育として行われていた実習制度を原型として、平成5年に制度化されたものです。その後、平成28年、「外国人の技能実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」が公布され、平成29年11月に施行されました。
新しい外国人技能実習制度は、開発途上地域などへの技能や知識の拡充を図り、その経済発展を担う人材育成に協力することを目的としたものです。ブローカーなどが暗躍しないように、実習生の送出機関にはさまざまな条件が定められました。また、こうした送出機関の規制強化のほかにも、技能実習法では技能実習計画の認定制や監理団体の許可制、これらに関する事務を行う外国人技能実習機構の設立などのさまざまな制度が、適正な技能実習実施のために規定されました。
適正な技能実習を実施し、優良と認められる監理団体、受け入れ先企業には、技能実習期間の延長を認めるなどの優遇措置がとられています。入管法の改正による新たな在留資格の導入も相まって、今後ますます外国人技能実習制度の利用が活発になり、特に、介護分野など人手不足問題を抱える業界で利用が増えることが予想されます。
ところが、受け入れ機関によっては、この外国人技能実習制度を誤解したり、よく理解しないまま受け入れていたりするなどの問題点が浮き彫りになった状態といえるでしょう。
2、外国人技能実習制度の問題点
外国人技能実習制度には、数々の問題点がありますが、その最たるものが賃金や残業代の未払い問題でしょう。その点について解説していきます。
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(1)外国人技能実習制度の賃金や残業代の未払いという問題点
平成30年11月、外国人技能実習生として働いていた中国人女性から、茨城県内の農家で残業代未払いなどの不当な行為があったとして、未払い分の支払いや損害賠償を求めた訴訟の判決が出ました。判決の中で、水戸地裁は農家に対し、未払い分と付加金の合計約199万円を中国人女性に支払うよう命じています。
この199万円の金額の中には付加金も含まれていますが、労働基準法上、残業代を支払わない上に悪質な事業所などには制裁の意味を込めて付加金の支払いを命じられることがあります。付加金の金額は未払い賃金と同額で、判決確定の翌日から支払いが終わる日まで年5%の遅延損害金を付して支払わなければならないとされているものです。
似たようなケースは全国で報告されており、同時に低賃金で過酷な労働を強いられる、苦しい状況の外国人技能実習生の実態も明るみになりつつあります。 -
(2)外国人技能実習制度の賃金未払い以外の問題点
賃金や残業代の未払い以外にも、外国人技能実習制度にはさまざまな問題点が浮上しています。
たとえば、実習中にケガをしても「労災扱いしない」といったケースです。またパスポートを取り上げられたケースや強制帰国されそうになったケース、セクハラを受けたケースなどがあります。上記の茨木の裁判でも、セクハラは訴訟の中に入っていましたが、請求は棄却されています。
賃金の問題以外にも、時給設定が最低賃金を下回っている、外国人技能実習生に安全な環境で仕事をさせないなどの、違法行為も見受けられるようです。
このため、外国人技能実習生を含む外国人労働者の死者数自体が増加している状態で、国会でも問題点として取り上げられました。
友人に外国人技能実習生がいれば、もっとひどい現場の話を聞いたことがあるかもしれません。日本人労働者の労働問題事件同様、あくまで表に出てくるものは、証拠がそろっているものが中心です。したがって、実態はそれ以上に劣悪な可能性があるといえるでしょう。
3、外国人技能実習制度の労働問題における解決の手順
労働問題における解決の手順について、簡単に説明します。
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(1)任意交渉
「任意交渉」は強制力を伴う裁判所の手続きを通さずに交渉することを指します。具体的には相手の会社と交渉を行うことです。
ただし、一般的には、いきなり口頭で話し合うわけではなく、交渉に際して内容証明郵便を出すなど、こちら側の要求や主張を書面で相手の会社に伝えることからスタートすることが多いでしょう。内容証明郵便を使用するのは、その後行われる交渉にあたって非常に重要な証拠を残しておくための手続きと思ってください。口頭では「言った・言わない」というトラブルが生じることがありますが、内容証明郵便を使うことで証拠を残すことができます。
内容証明郵便を発送した後は、相手方の反応や主張に応じ、交渉が行われることとなります。労働問題は一般の方には難しい法律の用語や交渉があります。また、個人を雇用する企業側は弁護士を雇っているケースが少なくありません。労働問題に対応した実績が豊富な弁護士にすべてを任せることで、スピーディーな解決を目指すことができるでしょう。 -
(2)労働審判
内容証明を使った上でスタートした任意交渉が不調に終わった場合は、裁判所を使った手続きを検討する必要があります。まず、「労働審判」について解説します。
労働審判とは、裁判官である労働審判官1名と労働関係に関する専門的な知識を有する労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、労働者と使用者との間の紛争について、適宜調停を試み、調停がまとまらない場合は事案の実情に応じた労働審判をする手続きのことです。
原則として3回以内の期日で審理を終わらせるものとされているため、おおおよそ2~3ヶ月程度(平均70日ほど)での解決が期待できるでしょう。交渉による解決が難しい場合、この労働審判を利用することにより、会社との間で話し合いをし、第三者である労働審判委員会の判断を求めることが可能となってきます。
労働審判をするにも、証拠の準備や申立書の提出などの必要がありますので、弁護士に依頼するのがよいでしょう。 -
(3)訴訟手続き
労働審判に異議申立てがあった場合や、事実関係や争点が複雑であり労働審判による解決が見込まれない場合は、会社に対し訴訟提起することを検討します。労働審判に異議申立てがあった場合にも、事件は訴訟移行することとなります。
つまり「労働裁判」です。裁判になると、法的根拠のある主張と立証を行う必要があります。訴訟は長期戦になることが多く、半年から1年以上かかる可能性もあるでしょう。一般の日本人であっても法律知識が乏しいために、ひとりで労働裁判を進めるのは難しいものです。まして、海外からやってきた方であればなおさらでしょう。そのようなときだからこそ、労働問題の解決実績が豊富な弁護士に依頼することをおすすめします。
裁判を通じて会社と和解をした場合や、裁判所が判決を下した場合は、その内容に従って解決が図られます。会社側が判決に従わずに、未払い残業代・慰謝料・和解金などの支払いを拒否した場合には、「強制執行」により、会社の資産を差し押さえることができます。雇用される側だからといって、外国人技能実習生だからといって、泣き寝入りすることはありません。
4、外国人技能実習制度の問題点を弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼することのメリットは、前述のとおり多々あります。
たとえば、労働問題を解決するためには、何よりも証拠が重要視され、残業代の請求であれば残業時間を証明する証拠が必要とされます。裁判で証拠がない場合は、たとえ事実であろうとその要求は認められないケースがほとんどです。
しかも、裁判での知識がなければ、証拠になると思っているものも、それが裁判では通用しない場合があります。そのような裁判に有効な証拠を集める段階からも弁護士に依頼することが、勝訴に向けての準備となるでしょう。
また、今まで個人での訴えを無視してきた会社も弁護士の介入により、態度をがらりと変える場合もあります。法律の専門家である弁護士をつけることで、交渉のテーブルにつこうとしない会社に対してプレッシャーを与えることができます。
日本語に不慣れな外国人の方のために、弁護士が代理で交渉ごとにあたることも可能です。以上のことを考えましても、早めに弁護士へと相談することをおすすめします。
5、まとめ
外国人技能実習制度には、数多くの問題点があることを解説しました。この問題点は、今後も増えていく可能性が高いと考えられます。その一方で、外国人技能実習生には言語の壁があることから、賃金・残業代が未払いになっていても、なかなか裁判まで持ち込めない可能性も指摘されているのです。
しかし、賃金や残業代の未払いで困ったときはベリーベスト法律事務所
名古屋オフィスで相談してください。周りで支援されている方であれば、外国人技能実習生本人をサポートしていただければと思います。親身になって、本人にとってベストな結果となるよう尽力します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています