侮辱してくる上司を訴え、慰謝料を請求できるか否かを弁護士が解説
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平成31年3月、名古屋市の地域政党「減税日本」の議員が、自民党市議から侮辱的な発言を受けて名誉を傷つけられたなどとして、計200万円の損害賠償を求める訴訟を名古屋地裁に起こしたという報道がありました。
名古屋市内でお勤めの方の中にも、職場内で上司などから侮辱的な発言を受け、刑事告訴や慰謝料請求を検討している方がいらっしゃるかもしれません。暴力の場合は違法だと分かりやすいですが、侮辱行為の場合は、どこからが犯罪になるのか、民事訴訟で慰謝料を請求できる問題なのか、疑問に感じる点が多いでしょう。
そこで今回は、一例として、職場の上司から侮辱的な発言を受けている方に向けて、侮辱行為の刑事責任および民事責任について解説します。
1、侮辱罪とは
侮辱罪は刑法第231条で規定されており、「事実を摘示し」ないで、「公然と」「人を侮辱した場合」に、罪にあたるとしています。それぞれ具体的な内容を解説します。
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(1)事実を摘示しないで
これは、人の社会的評価を害するような「事実」の表示がないこと指します。たとえば、バカ野郎やデブなどとののしる、仕事ができないとウワサする、性格が悪い人間だと陰口を叩くなどの行為です。
バカやデブなどの言葉はただの悪口ですし、仕事のやり方や性格の良し悪しは、見る者によって変動する単なる評価です。したがって「事実の摘示」にはあたりません。 -
(2)公然と
これは、不特定または多数の人が認識できる状態をいいます。また、特定または少数の人に対してであっても、表現内容が他者へと広まり間接的に不特定または多数の人が認識できるおそれがある場合(伝播可能性がある場合)も公然といえます。
たとえば次のようなケースです。- 他の社員たちが見ている前で侮辱する
- インターネット上で誹謗中傷する
- 職場の掲示板に悪口を書いた紙や写真を貼る
一方、誰も見ていない場所や、自分しか確認できないメール、LINEなどの個人向けチャットツールが用いられたような場合には、原則として公然という要件は充たしません。もっとも、例えば、多人数が参加するグループLINEやメーリングリストなど、多数の人が認識しうる状況であれば、公然の要件を充たす可能性があるでしょう。
さらに、SNS上でのツイートやチャットなど、少人数で始まったものであっても、次第に拡散され、不特定または多数の人が認識できるおそれがある場合には、公然性の要件を充たす可能性があるといえます。
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(3)侮辱行為
侮辱行為とは、他人に対する軽蔑の表示をいいます。実際に評価が低下したか否かは問わず、侮辱行為が行われた時点で犯罪が成立します。
2、名誉毀損罪やその他の犯罪との違い
侮辱罪とよく似た犯罪に、刑法第230条の名誉毀損(きそん)罪があります。これは、「公然と」「事実を摘示し」「人の名誉を毀損した場合」に成立する犯罪です。公然と他人の社会的評価を低下させる犯罪である点は、侮辱罪と共通しています。
しかし、侮辱罪と違い、名誉毀損罪の成立には「事実を摘示する」ことが求められます。
たとえば、次のような内容は「事実」に該当します。
- 部長は部下の○○と不倫している
- ○○は風俗嬢として働いていた
- ○○は前科者である
- ○○は△△にセクハラをしていた
ここでいう「事実」は「真実」である必要はありません。つまり、発言内容の真偽を問わず、名誉棄損罪が成立します。
なお、侮辱罪の場合はそもそも事実の摘示がないため、事実の真偽を確認する必要性がありません。
その他、上司からの暴言で成立し得る犯罪としては、次のようなものがあります。
- 脅迫罪……「殺すぞ」「このまま帰れると思うなよ」などと、身体や自由に害悪を告知するようなことをいわれた。
- 強要罪……「土下座しないと殴るぞ」など、義務のないことを強要された。
- 業務妨害罪……ウソの書き込みによって業務を妨害された。
3、侮辱罪の刑罰と逮捕
侮辱罪の刑罰は「拘留または科料」です。
拘留とは、1日以上30日未満の間、刑事施設で身体を拘束される罰です。科料とは、1000円以上1万円未満の金銭を徴収される罰です。いずれも、刑法上は非常に軽い罰ですが、刑罰なので前科がつきます。
しかし、実際のところ、侮辱罪で逮捕にまでいたるケースはかなり少ないといえます。理由のひとつとして、侮辱罪は親告罪であり、被害者の告訴がなければ起訴されない犯罪であることが考えられます。
相手が職場の上司の場合に刑事告訴することは、今後の仕事や職場内の人間関係を考えても、非常に勇気がいることです。結果的になかなか告訴に踏み切れないという事情も影響しているのでしょう。
また、仮に告訴したとしても、刑罰がごく軽い犯罪です。捜査がされたとしても逮捕まではされないことが多いでしょう。証拠隠滅、逃亡の恐れがなければ逮捕の要件をそもそも充たしません。
もっとも、侮辱行為とともに殴る蹴るなどの暴行を受けている場合は話が別です。速やかに警察へ通報してください。
4、侮辱行為と慰謝料請求
前述したように、侮辱罪の容疑で相手が逮捕されるにいたることは稀かもしれません。
では、上司からの侮辱行為に対して泣き寝入りするべきかといえば、そうではありません。慰謝料を請求できる余地がありますので、以下に具体的な方法などを紹介していきます。
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(1)刑事上の責任と民事上の責任の違い
告訴は、上司の刑事上の責任を追及し、刑事罰を求める行為です。上司が逮捕されて有罪になれば罰を受けて前科がつきますが、罰を受けたからといってご自身に対して何かしらの賠償がされるものではありません。
一方、慰謝料請求は、上司に対し、侮辱行為によってはずかしめられ、名誉を侵害されたことによる神的苦痛に対する賠償を、民法に基づき求める行為です。刑事上の責任を追及する行為とはまったく性質が異なります。 -
(2)証拠を集める
慰謝料を請求するには、客観的に侮辱行為があったと証明できる証拠が必要になります。
メールやLINEの履歴、誹謗中傷された画面などを撮影する、プリントアウトするなどして残しておきましょう。侮辱されている様子をICレコーダーで録音したり、同僚に協力を仰いで動画を撮影してもらったりするのも有効です。
なお、先ほど説明したように、侮辱罪が成立するためには、公然性の要件を満たす必要がありますので、どのような証拠が意味を持つかについては、弁護士にご相談ください。
また、上司と思われる者からネット上で誹謗中傷を受けているならば、犯人を特定するための発信者情報開示請求や、情報が拡散しないためにサイト管理者へ削除請求を行うことなども検討する必要があるでしょう。 -
(3)侮辱行為をやめるように求める
上司へ直接やめるように訴える、内容証明郵便を使って通知書を送り中止を求める、会社の人事部やコンプライアンス部門へ相談する、労働局へ相談するなどの方法があります。
なお、昨今はパワハラやモラハラが社会的な問題となっていますので、会社への相談は証拠があれば動いてくれる可能性があります。社内で解決できれば一番スムーズですし、ご自身の負担も少なくて済むかもしれません。
一方で、上司の侮辱行為が明らかなのに会社が何の措置もしなかった場合は、会社に対して使用者責任を問うことも考えられます。 -
(4)話し合いや訴訟で慰謝料を求める
慰謝料を請求することが、侮辱行為に対して一定の抑止力となる可能性もあります。したがって、最初から慰謝料を請求する方法も考えられます。
この場合、まずは話し合いによる解決を求めることが多いでしょう。書面をもってこちらの要望を伝え、話し合いの場を設けるとよいでしょう。
ご自身で相手方に法的な要求をすることは、なかなか難しい部分もあるかもしれません。また、相手が自分を侮辱してきた上司であれば、ご自身で対応すること自体が精神的な負担になることも考えられます。このような場合には、弁護士へ相談することをご検討ください。
これまで侮辱行為を続けてきたような上司であれば、話し合いに応じない可能性もあるでしょう。そのような場合には、損害賠償請求訴訟を起こし、裁判での決着を目指すことも考えられるでしょう。
5、まとめ
侮辱行為は、どこからが犯罪にあたるのか、慰謝料の請求対象となるのかなど、判断が難しいケースが多いものです。また、告訴状の作成や損害賠償請求をする場合、法的な権利侵害を明らかにしなければならず、一般の方が行うには難しい面が多くあります。
そこで、侮辱行為を受けた場合は、弁護士にすぐに相談することをおすすめします。どのような行為が具体的に何の犯罪にあたるのか、慰謝料請求に際して何に気をつけるべきか、証拠の集め方なども、弁護士ならば法律的な観点からアドバイスをすることができます。
ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスでも、民事・刑事事件の経験豊富な弁護士が相談を承ります。ぜひ気軽にご連絡ください。
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