プライバシーの侵害が成立する条件とは? 損害賠償請求のためにすべきこと
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2016年(平成28年)に名古屋高裁では、警察によるGPS操作が重大なプライバシーにあたるかどうかが争われました。窃盗グループのバイクや車に警察が捜査のために令状を取らずにGPSを取り付けたことがプライバシーの侵害にあたると原告が訴えたのです。第一審名古屋地裁、第二審名古屋高裁は共に「プライバシー侵害にあたる」という判決を下しています。
ただし、プライバシーの侵害についての判断は非常に難しく、たとえば、全国の同様の裁判では「プライバシー侵害にはあたらない」としているものも存在します。現状では、個別の事件をその都度判断している状態が続いているともいえるのです。
たとえば、平成31年に名古屋地裁では、マンションの建設を巡り、建設反対の住民の自宅等が映るようカメラを設置したことに対し、肖像権やプライバシー権侵害等の侵害を理由とする損害賠償請求をする裁判がありました。
この裁判では、設置した監視カメラのうち、ダミーカメラだった部分については、その設置行為が住民らの平穏な生活を害するという理由で、損害賠償請求が認められました。一方で、監視カメラの設置および撮影行為については、プライバシー権に対する制約が社会生活上受任の限度を超えるものとは言えないと判断して、プライバシー権侵害を認めませんでした。
一般的な私たちの暮らしに密着した「プライバシー侵害」は法律でどのように判断されるのでしょうか? ここでは、プライバシー侵害の概要や、条件、インターネットに個人情報が流出した場合の対処法を解説します。
1、プライバシーとは? あなたの個人情報はプライバシー?
「プライバシー」とは、個人の私生活の事実、公開されたくない事柄、未公開の事柄を指します。具体的には、名前、住所、電話番号や結婚離婚歴、職業や年収、体の特徴、犯罪歴などです。
これらのプライバシーはごく一例にすぎません。裁判になった事例を見ると無数の「プライバシー」が存在します。プライバシーをみだりに第三者に公開されない権利のことを「プライバシー権」と呼びます。
たとえば、インターネットに公開された個人を特定できる画像がプライバシーと認められる場合もあります。その場合は肖像権が侵害されたとみなされるケースもあるでしょう。プライバシー権の一部に、肖像権が含まれていると考えられます。
最高裁判所の判例によると「個人に関する情報をみだりに第三者に開示または公表されない自由」が、プライバシーの権利であると定義しています。ちなみに、「個人情報」と、プライバシーは似ているようですが異なるもので、個人情報とは「個人を特定できる情報」と解釈されています。
つまり、名前や写真は個人情報ですが、携帯電話の番号や住所だけでは個人情報とみなされません。「個人情報」イコール「プライバシー」とは言い切れない場合もあるので、注意しましょう。
2、どこからがプライバシー侵害になる? プライバシーの侵害の基準は?
プライバシー侵害は、自分が「公開されて嫌だった」というだけでは成立しません。以下3つの条件を満たしていなければ「プライバシー侵害」と判断されない可能性があります。
- 私生活上の事実
- これまで公開されていなかった
- 公開されて被害者が不快に感じた
裏を返せば、これらの条件をすべて満たしていると裁判所が判断できれば、プライバシー権が侵害されたとみなされ、相手の不法行為が認められる可能性があります。よって、損害賠償を請求できる権利があなたにある、ということになるのです。
たとえば、あなたを恨んでいる会社の同僚があなたの名前や住所、年収など、これまで非公開だった情報をインターネットに書き込んで、あなたが嫌な気分になった、という場合は、プライバシー侵害と判断される可能性が高いでしょう。
しかし、あなたが、自分で住所や名前、年収をインターネット上にすでに公開している場合は、第三者にあなたの情報を書き込まれても、プライバシーの侵害には該当しないと判断される可能性があると考えられます。
3、プライバシーの侵害をした相手を刑事罰に処することはできる?
プライバシーを侵害された場合、被害者は相手に対して「やめてほしい」、「消してほしい」、「罪に問いたい」と考えることがあるでしょう。ところが、プライバシーの侵害には刑法上の「刑事罰」が存在しません。
もちろん、プライバシーの侵害だけではなく、名誉毀損(きそん)も伴うと認められる状況であれば、名誉毀損罪が成立し、懲役刑や罰金刑に処されることはあります。つまり、プライバシーを侵害しただけでは、窃盗や強盗犯のように、「懲役○年」のような罰を受けさせることはできないのです。
ただし、プライバシーの侵害が不法行為として認められれば、「民事的責任」を負わせることができます。具体的には前述のとおり、「損害賠償請求」を行うことで、慰謝料を支払わせることもできるということです。つまり、相手のプライバシーの侵害が認められれば、慰謝料請求によって、相手を「懲らしめる」ことができる可能性はあるといえます。
なお、民事的責任を負わせるためには、被害にあったあなた自身が証拠をそろえる必要があります。「立証責任」と呼ばれるもので、相手の不法行為が存在したことを証明することが義務付けられているためです。
手続きや証拠集めが難しいときは、プライバシーの侵害事件に対応した経験が豊富な弁護士に相談してください。
4、名誉毀損(きそん)とプライバシーの侵害の違いとは?
「プライバシーの侵害」と「名誉毀損」は類似のものに感じられがちですが、刑事罰が科されるかどうかという点において大きな差があります。両者の具体的な違いについても、知っておく必要があるでしょう。
「プライバシーの侵害」とは、これまで説明したとおり「未公開の私生活の情報を望んでいないのに第三者に開示、公開されること」です。
他方「名誉毀損」は、「他人の名誉を傷つける不法行為や犯罪行為」を指します。たとえば「あの人は部長と不倫をしている」と言い触らす行為は、不倫をしていることが事実であろうとなかろうと、言い触らされたことにより社会的地位や名誉が低下したことが明らかであれば、名誉毀損罪が成立します。
名誉毀損罪という刑事罰が存在しますので、有罪となれば「3年以下の懲役」または「禁錮」、もしくは「50万円以下の罰金」の刑罰が科されます。さらに、民事事件として訴えれば慰謝料を請求することも可能です。
なお、多くのケースで、プライバシー侵害とともに、名誉毀損に該当する行為がなされていることが少なくありません。たとえば、インターネットに被害者の住所や名前、年収などのプライバシーを公開すると同時に誹謗中傷を書き込むケースが想定できるでしょう。具体的には、「○○に住んでいる××(フルネーム)は会社のお金を横領している」などの書き込みはプライバシー侵害とともに名誉毀損罪が成立する可能性があります。
5、ネット上に個人情報が流出! あなたがやるべき対処法とは
あなたの個人情報やプライバシーにあたる情報がインターネット上に公開され、拡散されてしまった場合の対処法を説明します。まずやるべきことは、プライバシーが侵害されている証拠をスクリーンショットや魚拓サイトなどで保存することです。慰謝料請求のためには証拠は必須なので、必ず保存してください。
それから、発信者本人に「削除依頼」をします。「プライバシーが侵害されているので、削除してください」と依頼しましょう。発信者本人が特定できない匿名掲示板の場合や、削除依頼に応じない場合はサイトの運営者に削除依頼をします。
もし、それでも削除に応じてくれないときは、書き込みがされている掲示板などの運営者や、プロバイダに対して削除依頼を行うことになります。削除依頼は各サイトのお問い合わせフォームから行いましょう。すると、郵送で「送信防止措置依頼書」が郵送されてきますので必要事項を記入して返送します。管理者は、届いた「送信防止措置依頼書」の内容を確認の上、投稿者に削除を求め、削除に応じない場合は管理者の判断によって、書き込みは削除されます。
インターネットの書き込みによってプライバシーの侵害を受けた被害者は、プロバイダ責任制限法によって書き込みの削除依頼を行う権利「送信防止措置請求権」が認められています。しかし、表現の自由などの理由によって業者が削除に応じない場合には、裁判所に削除依頼の仮処分を申し立てるなどの法律的な手続きが必要になるでしょう。
削除依頼が完了しても、確かな証拠があれば「損害賠償請求」を行うことができます。削除請求を行う前から損害賠償請求をしたいと考えているときは、当初より弁護士に依頼するか相談しておくことをおすすめします。
6、プライバシーの侵害事件を弁護士に依頼する3つのメリット
冒頭で述べたとおり、プライバシー侵害の判断は状況によって異なります。さらに、削除依頼、慰謝料請求まで応じない発信者が少なくないだけでなく、発信者の特定も難しいものです。あなた自身が「プライバシーの侵害をされた」と感じたら、まずは、弁護士に確認し、相談したほうがよいでしょう。
プライバシー侵害が発覚したらやるべき手続きはどれも簡単ではなく、特にサイト管理者とのやり取りや、相手への慰謝料請求は個人の手に負えなくなるケースが少なくありません。話がこじれたら長期化してしまう可能性もありますし、発信者の特定を個人で行おうとしても、個人情報保護法を理由に開示してもらえず泣き寝入りすることが多い傾向にあります。さらに、証拠を押さえる前に隠滅されてしまう可能性もあるでしょう。
速やかに個人を特定して、削除依頼、慰謝料請求を行いたいと考えている方にとっては、弁護士に依頼するメリットは大きなものとなります。具体的には、被害者個人では難しい、発信者特定、削除依頼、慰謝料請求の手続きをスムーズに運ぶことができるのです。また、個人からの申し入れは無視をしても、弁護士からの連絡には速やかに対応する発信者は少なくありません。
プライバシーの侵害をされてしまうと、大変な心労を抱えてしまうことでしょう。ひとりで悩まず、弁護士に相談することからはじめることをおすすめします。
7、まとめ
プライバシー侵害が発覚したら、相手を特定して削除依頼をした上で、慰謝料請求をしなければなりません。個人では、相手を特定することすら困難な場合も少なくないので、弁護士に対応を依頼することをおすすめします。
まずはベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスに相談してください。インターネット上のプライバシー侵害事件、削除請求の対応実績が豊富な弁護士が、適切な対応をアドバイスします。
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