自己破産すると車は没収される? 車を残す債務整理の方法を弁護士が解説
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借金の返済が難しくなっても債務整理をためらう理由に、車を手放したくない、車がないと生活ができないということをあげる方もいらっしゃるでしょう。自己破産をすると「一文無しになる」というようなイメージを持たれがちですが、そうではありません。
令和元年に愛知県内の地方裁判所に申し立てられた破産の件数は約3450件、個人再生の件数は約700件でした。愛知県だけでも年間3000人を超える方が裁判所で破産の手続きをとり、新たなスタートを切られています。
今回は自己破産をした場合に、自動車を保有している方に生じる影響を中心に弁護士が解説します。
1、自己破産をすると車や住宅などの財産はどうなる?
自己破産をすると「すべての財産を失う」というイメージを持たれることもあるようですが、実際にはそのようなことはありません。
個人の方が自己破産をする場合には、自己破産について定めた破産法が第1条において、その目的のひとつとして「債務者についての経済生活の再生の機会の確保を図ること」をあげていることからも分かるように、生活の維持や経済的再生にも重きを置いた運用が行われています。
まず、自己破産をした場合に財産がどのように扱われるのか、手続きの一般論から解説します。
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(1)自己破産は「同時廃止事件」と「管財事件」の2種類
自己破産を申し立て、裁判所により破産開始決定がなされた後の手続は、財産を換価して債権者に配当をする管財手続と、破産手続開始当時に負っていた債務について、法律上の責任(支払の義務)を免除するか否かを判断する免責手続に二分化することができます。
管財手続を行うためには破産管財人を選任する必要があり、費用として最低でも20万円が必要になります。
自己破産をする方の財産がそれほど多くない場合には、管財手続を行っても債権者にまったく配当できないばかりか、手続費用を用意できないために自己破産もできないという事態になることも考えられます。
そこで、財産が一定額以下の方が自己破産をする場合には、管財手続を行わない「同時廃止」という処理が行われます。
どのような場合に同時廃止を行うかのおよその運用は次のとおりです。
なお、この基準は、裁判所によって異なる場合があります。以下では、名古屋地方裁判所での運用について解説します。
① 同時廃止事件
名古屋地方裁判所では、- 20万円以上の財産がない
- 現金と預貯金の合計額が50万円に満たない
場合に原則として同時廃止として処理する運用になっています。
同時廃止事件として処理される場合、管財手続が行われないため、所有している財産はそのまま保有することができます。
しかし、抵当権などの担保権が設定されている住宅や敷地、自動車などは、担保権の実行により手放すことになります。
債務者の財産状況が不明な場合や、破産手続前に債権者の公平を害するような行為がある場合、破産の原因が浪費やギャンブル、FXなどによる借金であるなど免責されるか否かについて調査が必要な場合には、破産管財人を選任して経緯などを調査する必要があるため、同時廃止事件とはなりません。
② 管財事件
同時廃止の基準に適合しない場合は、破産管財人を選任して管財手続が開始されます。
管財手続では、所有している一切の財産が破産財団(配当のための財産)に組み入れられますが、個人の方は生活を維持して経済的再生を図るための財産も必要です。
そこで、一定の財産については破産財団から除外して引き続き保有できる「自由財産」が認められています(破産法34条ほか)。
なお、抵当権などの担保権が設定されている物件は、同時廃止の場合と同様に手放すことは避けられません。 -
(2)管財手続で認められる自由財産
自由財産とすることができる財産の範囲は破産法に規定がありますが、それだけでは生活の維持に十分とはいえないことも少なくありません。
また、裁判所は個別の申し立てを受けて自由財産の範囲を拡張することも可能ですが(破産法34条4項)、認められる自由財産の範囲を事前に予想できなければ、目先の生活設計にも支障をきたすことになります。
そこで、多くの裁判所では、一律に自由財産の拡張を認める基準を定めています。
① 破産法所定の本来的自由財産
破産法では、3か月分の生活資金と生活必需品を自由財産と規定しています。
具体的には、次のとおりです。- 99万円以下の現金(預貯金は含まない)
- 差し押さえが禁止されている財産(例:衣料品や食料品、洗濯機や冷蔵庫、パソコン、テレビ、エアコンなど電化製品、給料などの労働債権、年金や生活保護の受給権)
② 裁判所の運用により拡張される自由財産
基準は裁判所によって異なります。
名古屋地方裁判所では、次の財産を一律に自由財産として扱う運用が行われています。- 残高が20万円以下の預貯金(複数口座ある場合は合計額)
- 解約返戻金見込み額が20万円以下の生命保険契約
- 現時点で退職した場合に支給される見込みがある160万円以下の退職金(直近に支給された場合は80万円以下)
- 査定額が20万円以下の自動車やバイク
- 20万円以下の敷金返還請求権
なお、名古屋地方裁判所では、新車時の本体価格が300万円以下の国産車については、初年度登録から7年が経過したものは原則として無価値なものとして扱ってもよい運用とされています。
③ 個別の事情により認められる自由財産
①や②以外の財産を自由財産として維持したい場合は、個別に自由財産拡張の申し立てをして認めてもらう必要があります。
裁判所は公平性の観点から、運用基準の例外を認めることに慎重な態度を示すことがほとんどです。
単に通勤や買い物のために自動車が必要というような理由では、自由財産の拡張が認められる可能性は低いと考えられます。
ただし、例外として① 破産者の生活状況、② 破産手続開始時に破産者が有していた法定自由財産の種類及び額、③ 破産者が収入を得る見込み、④ その他の事情に照らして、当該財産が破産者の経済的再生に必要不可欠である、と特段の事情が認められる場合は、管財人の意見を聞いたうえで、個別に自由財産として認められることもあります。
2、自己破産をしても車を没収されないのはどういう条件?
ここまで自己破産手続をすると所有している財産がどうなるのか一般論を解説しました。
ここからは、自己破産をしたいけれども自動車は維持したい場合について、その可能性を解説します。
なお、自動車は必ずしも使っている方が所有しているとは限らず、カーローンやカーリースを利用している場合は自己破産による扱いも異なってきます。
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(1)自己所有の自動車
管財事件となった場合、査定額によって扱いが異なります。
査定額が20万円未満であるか、初年度登録から7年以上経過した国産車(新車時の本体価格が300万円以下)の場合には、自由財産としてそのまま保有が認められます(名古屋地裁の運用)。
自由財産とは認められない場合でも、自動車の査定額分の資金を用意できれば、自動車の代わりに資金を拠出して自動車を破産財団から除外してもらう方法も考えられます。
この方法は破産管財人が裁判所から許可を受けることが前提となりますので(破産法78条2項12号)、必ず認められるというわけではありません。 -
(2)ローン返済中の自動車
自動車を購入する際にディーラーのローンや販売店の自社ローンを利用した場合、ローンの完済まで自動車の所有権はディーラーなどが留保していることがほとんどです。
車検証を確認すれば、おそらく所有者がディーラーなどの名義になっているでしょう。
ローンの返済が滞ったり破産申し立てをしたりすると、契約内容にもよりますが、ディーラーなどは所有権に基づいて自動車を回収します。こうしたディーラーなどによる回収は、別除権という破産手続によらずに行使可能な権利として行われるものであるため、自己破産申し立てをした場合であっても回収を避けることはできません。 -
(3)リース中の自動車
車のリース契約はさまざまな態様がありますが、リース契約時の査定額とリース期間満了時の査定見込み額の差額に諸経費を加えた額を分割払いする形態が一般的です。
たとえばリース契約時100万円相当の自動車を3年間リースする場合、3年後の査定見込み額を60万円、諸経費を10万円として差額と諸経費の合計額50万円がリース料となり、これを3年間で分割払いするという考え方になります。
このようなリース契約による場合でも、ローンの場合と同様に、リース料の支払が滞った場合には、契約の内容にもよりますが、別除権を実行して回収されることになります。 -
(4)注意点
自己破産をすると、自動車は自分で所有していて自由財産と認められた場合に限り没収を免れることになります。
なんとか没収を避けたいという心情も理解できますが、自己破産は債権者の犠牲のもとに経済的再生を図る制度ですから、守らなければならないルールもあります。
次のような行為があると、免責不許可事由(破産法252条1項各号)に該当して、最悪の場合自己破産をしても借金の返済義務が免除されないということもあり得ます。- 破産手続前に自動車を家族などの名義に書き換える
- 返済が困難になった状況で新たな借金をする
- カーローンやカーリースのみ優先して返済する
3、任意整理・個人再生であれば自動車を保有できる?
債務整理は、裁判外の交渉による任意整理と、裁判所の手続による自己破産、個人再生の3通りの方法が主流になっています。
自己破産は財産の処分が原則となる制度なので、自動車を維持するためには条件を満たす必要がありますが、任意整理や個人再生はそのような条件はありません。
そのため、任意整理や個人再生で自動車の保有が問題となるのは、所有権留保や抵当権が設定されているケースに限られます。
任意整理と個人再生について自己破産と対比しながら解説します。
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(1)任意整理
任意整理は、債権者と直接交渉して借金の減額や返済方法の見直しについて合意を成立させて返済をしていく方法です。
自己破産のように、法的な強制力はありませんが、逆に自由度の高い方法ということもできます。
任意整理によって目指す解決方法は、将来発生する利息をカットして返済総額を固定し、3年から5年かけて分割で返済するというものが一般的です。
抵当権が設定された住宅ローンやカーローンは契約どおり返済して、住宅や自動車を維持する選択肢もあります。
なお、自動車の所有権を留保されているカーローンであっても、多少の返済条件の変更であれば任意整理に応じてもらえる可能性はあります。
個人の方が債権者と直接交渉することも可能ですが、弁護士が交渉する場合に比べて不利な条件を提示されることもあるようです。
また、弁護士が代理人として任意整理を受任すると、債権者は取り立てや催促を行うことが法律により禁止されることになります(貸金業法21条9号)。
これは弁護士が受任したことによる効果なので、自己破産や個人再生を依頼する場合でも同様です。
任意整理は弁護士などの専門家に依頼するメリットが大きく、実際にも弁護士などを介して行うケースがほとんどです。 -
(2)個人再生
個人再生は、財産を処分せずに債権を大幅にカットしてもらい、残った部分を3年から5年かけて返済する方法です。
自己破産と対比した場合のメリットは、- 財産の処分は必要ない
- 免責不許可事由があっても利用できる
- 住宅ローン特則により住宅を維持できる可能性がある
逆にデメリットは、
- 継続的な収入がなければ利用できない
- 債権者の人数にして半数以上、債権額にして過半数が不同意の回答をすると手続きが打ち切られる
というものです。
個人再生の大きな特徴は、抵当権が設定された不動産があっても、その不動産を失わずに住宅ローン以外の借金を整理できるという点にありますが、自動車のローンには適用されません。
そのため、留保された所有権や抵当権が設定された自動車は、それらの担保権が実行されることになります。
ただし、その自動車によって継続的な収入を得ている方の場合、自動車を失うことは再生計画が頓挫することを意味するため、そのような職種にある方は裁判所の許可を得て、自動車ローンの債権者と別除権協定を締結することが認められています。
別除権協定とは、自動車の査定額を支払う代わりに担保権を放棄してもらうという合意です。
債権者側に応じる義務はなく、容易な交渉ではありませんが、自己破産を避けたい場合には、選択肢のひとつとなるでしょう。
4、債務整理の第一歩は弁護士への相談から
借金の問題を抱えていても、誰に相談すればいいのか分からない、という心境になりがちですが、債務整理は着手が早いほど選択肢が多く、経済的な立て直しも容易になります。
借金の返済が苦しくて生活費が足りなくなってきた、利息を支払うのが精いっぱいで借金がなかなか減らない……。
このような状況は、債務整理が必要なサインといえます。
債務整理が必要かもしれないけど、法的な知識もないし何から手をつければいいのか分からないという場合は、まず弁護士に相談されることをおすすめします。
債務整理の経験が豊富な弁護士は、「自宅や自動車は手放したくない」「保証人に迷惑をかけたくない」「職場や家族には知られたくない」というようなご希望にも配慮して最適な債務整理の方法を提案することが可能です。
債務整理を弁護士に委任した場合、弁護士が相手方にその旨を連絡するため、取り立てや催促に煩わされることもなくなります。また、弁護士は債務整理の手続きのほとんどを代行可能です。
5、まとめ
今回は自動車を手放したくない方に向けて、自己破産を中心とした債務整理について解説しました。
自己破産するからといって必ず自動車を手放さなければならないわけではなく、自動車の価格や使用年数によっては、自己破産しても引き続き保有できる場合もあります。
もはや自己破産による債務整理は、誰もが利用する可能性があるセーフティーネットとして機能しているともいえるでしょう。
ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスでは、債務整理のご相談を電話やテレビ電話でしていただくことも可能です。
借金にお悩みの方はまずはご連絡ください。
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