自己破産での財産隠しは詐欺罪につながる?裁判所が見逃さない財産チェックのポイントとは
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借金が多く返済できない場合、考えるのは自己破産。
しかし、自己破産では財産が没収されてしまうため、少しでも財産を残したいと考えるはずです。
このとき、不正に財産隠しを行うことだけは絶対にやめてください。自己破産の手続き中に財産隠しが発覚した場合は、自己破産が認められなくなってしまい、罪に問われる可能性もあるのです。
今回は、自己破産における財産隠しについて、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。裁判所・弁護士が行う財産チェックのポイントもご説明します。
目次
- 1、自己破産の手続きとは
- (1)自己破産には、2種類ある
- ①同時廃止手続き
- ②管財事件手続き
- (2)財産目録の提出が必要
- 2、調査されるのはどんな財産?
- (1)調査対象となるのはすべての財産
- (2)具体的な調査のポイント
- ①預金口座の調査について
- ②現金隠しの調査について
- ③車や不動産の調査について
- ④保険の調査について
- ⑤債権の調査について
- 3、自己破産で、財産隠しがばれたらどうなる?
- 4、自己破産しても、残る財産があるって本当?
- 5、自己破産を検討中の方は、弁護士に相談を
1、自己破産の手続きとは
自己破産の手続きについて簡単に解説します。財産隠しができない理由も一緒にご説明します。
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(1)自己破産には、2種類ある
自己破産には種類があるということをご存知でしょうか?
実は、自己破産には大きく2種類あります。それは、同時廃止手続きと管財事件手続きです。
それぞれ簡単にご説明いたします。
①同時廃止手続き
同時廃止手続きは、債権者に分配できそうな財産がない場合にとる手続きです。
より厳密にいうと、財産や相続財産、信託財産など債権者に弁済・分配できる財産がない場合にとる自己破産の手続きとなります。
②管財事件手続き
管財事件手続きとは、裁判所が破産管財人を選任し、管財人が債務者の財産を調査したり、財産を処分(換価)して債権者に分配したりする手続きをいいます。
管財事件の典型は、債務者に財産がある場合です。財産の有無は、主観的に決めるものではなく破産法上の定めに基づき判断します。
基本的には、20万円程度の予納金が支払えると判断される場合や、自己所有の家や車などの資産がある場合には「財産あり」と判断されます。
自己破産をして免責が許可されれば、債務者の債務全てが免除されることになります。
債権がなくなるという点で債権者は不利益を被るわけですが、他方債務者に財産が残っていては、債権者と債務者の間で不公平が生じます。
そこで、生活に必要な最低限の財産を除き、分配できそうな全ての財産を破産管財人が調査の上没収し、債権者に公平に分配される制度を作ったのです。
このように、自己破産には大きく2つの手続きがあります。
どちらの手続きで申し立てるか判断するためには、財産があるかどうかをチェックする必要があるのです。 -
(2)財産目録の提出が必要
では、どのように財産があるかどうかをチェックするのでしょうか。
自己破産手続きにおいては、申し立ての際に、財産目録を自己申告で提出します。
自己申告となると、「ごまかせるのでは?」と考えるかもしれませんが、そういうわけにもいきません。自己破産を行う場合、多くのケースで弁護士や司法書士が代理人となっており、申し立て前にきっちりとチェックを行うからです。
具体的には、依頼者からの自己申告に基づき調査を行うだけでなく、申告漏れがないように過去2年分の通帳、明細、課税証明書、過去2ヶ月分の給与明細などのチェックを行います。
これらの書類は、申し立て時に一緒に提出します。
自分で申立てを行うケースでも裁判所がこれらのことを必ずチェックしています。
お金の出入りについては、預金通帳をみれば、大体把握できます。
仕事で得た給与はもちろんのこと、副業の収入、家賃、光熱費、固定資産税などの支払いなどからどのような財産を保有しているのかは簡単にわかってしまうのです。
申し立て前に、同時廃止になるのか、管財事件になるのかという判断も必要です。
これを判断するためには、先に綿密な調査が必要となります。
このように、自己破産手続きを行う場合は、先に財産があるかどうかのチェックを行い、財産目録を作成します。
調査では必ずばれてしまいますので、記憶にある財産については自己申告してしまいましょう。その方が、事前準備の期間が短くなるはずです。
2、調査されるのはどんな財産?
次に、調査対象となる財産と調査のポイントについてご説明いたします。
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(1)調査対象となるのはすべての財産
では、どのような財産が調査対象となるのでしょうか?
先ほどお伝えした通り、財産目録の作成の際、漏れがないようにあらゆる財産をチェックすることになります。
調査対象となるのは、すべての財産です。
預金や不動産はもちろん車、現金なども調査の対象です。あなたが誰かに対し債権を有している場合は、これについても財産としてカウントします。
そうすると、「家族の財産も調査の対象になるの?」という疑問が生まれるかもしれません。
これについては、基本的には調査対象ではありません。家族名義の不動産や預金に関しては自己破産の処分の対象にはならないためです。あくまで申し立てを行った本人の財産のみ、処分の対象となることを理解しておいてください。
しかし、例外的に家族も調査の対象となるケースがあります。
それは、通帳や不動産名義などから自己破産前に家族名義の口座に預金が振り込まれていたり、名義が変更されていたりするケースです。このようなケースでは、財産隠匿の可能性があるため調査の対象となるのです。
自己破産申し立て後に不正が発覚すると、免責が認められない事態になってしまうため、自己破産申請者本人の通帳などに不審な点がある場合は調査する必要があるのです。
このように、基本的に調査の対象となるのはすべての財産です。
財産隠匿の形跡がある場合には、家族の財産についても調査対象となる可能性があります。 -
(2)具体的な調査のポイント
では、具体的にはそれぞれの財産についてどのような調査が行われるのでしょうか。
①預金口座の調査について
預金口座については、預金口座の入出金明細をみれば、現在の収入・支出の状況などがわかります。これについては、皆さんも簡単にわかると思います。
ですが、預金口座については複数作ることが可能です。財産隠しの事例では、預金が少ない通帳のみを弁護士に渡し、本口座については隠すというケースもあります。
このような財産隠しを見抜くのも実は簡単です。
公共料金やクレジットカードなどの支払い履歴が毎月コンスタントにあるかなどしっかりと利用している預金口座かどうかを見ていくことや給与口座等からの現金の動きを追うことで、別口座がないかどうかを判断することができるからです。
いくつか口座がある場合は、必ず最初に提出しておきましょう。
②現金隠しの調査について
現金は一番ばれにくいと考えている人が多いと思いますが、現代では一回も預金口座を経由することなく現金を手に入れることは難しいはずです。
預金口座から多くの引き出し金があれば、どのように使ったのかを質問することで申告していないお金かどうかを見抜くことができます。
③車や不動産の調査について
車や不動産を所有しているかについては、必ず調査が行われます。
自己申告で「ありません」と言ったとしても、こちらも調べれば簡単に見つけることができます。
たとえば、自動車については、年に1回自動車税を支払っているはずです。これについては記録が残っているため、調べるとすぐにわかります。
また、車検費用などでお金がかかった場合、預金口座やクレジットカードからの引き落としで発覚します。不動産を所有している場合も同様です。固定資産税の支払いを調べればわかりますし、登記名義などを調べることでもばれてしまうでしょう。
したがって、車や不動産についても自己申告しておくべきです。
④保険の調査について
保険は、自分で隠す意図がなくとも、「財産ではない」という認識から自己申告しない方もいらっしゃいます。
しかし、保険は解約すると解約返戻金というものが返ってきます。これは、自己破産では財産にカウントされるのです。
解約しなければいいと思うかもしれませんが、将来の財産として扱われてしまうため、解約を余儀なくされます。したがって、先に申告が必要となるのです。保険の調査は、給与明細をみればわかります。所得控除などの記載があれば、保険があっての控除であると認識できるからです。
また、保険の毎月の賭け金の引き落としなどでも簡単にわかります。
皆さん忘れがちな財産ですので、気に留めておいた方がいい項目です。
⑤債権の調査について
これも預金口座をみればわかります。
定期的に、特定の人物から振り込みがある例などは明らかでしょう。また、現金でのやりとりであったとしても、一度に多くのお金が引き出されている痕跡があれば、本人が隠したか誰かにお金を貸しているかなどを疑うことができます。
いくつか質問をしていけば、八方塞がりとなり自分から債権があることをお話しいただけることもあります。
このように、それぞれの財産については意外と簡単に調査することができます。
財産隠しがある場合には、すぐに発覚することが多いですので、安易に財産を隠そうと思わない方がよいでしょう。
3、自己破産で、財産隠しがばれたらどうなる?
自己破産手続き中に財産隠しがばれた場合にどうなるのかについてお話しいたします。
自己破産の許可が出たあとに、ばれてしまうケースについてもご説明します。
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(1)手続き中に財産隠しがばれると、免責不許可になる可能性がある
では、自己破産の手続き中に財産隠しがばれてしまった場合はどうなるのでしょうか。
まず、財産だとは気づかず、自己申告していなかったという場合は、特に問題となりません。
ミスで罰する法律は規定されていないため、安心してください。これは手続き前に代理人に申告していなかった場合でも同じです。
ただし、ミスであることを装うのはすぐにばれてしまうため、絶対にしないようにしてください。
次に、故意で財産隠しを行っていた場合についてです。
故意ではないと主張しても、隠されていた財産の経過などをみれば隠していたことはわかります。仮に、これが自己破産の手続き中に発覚した場合は、免責不許可事由にあたり、免責が認められません。
免責とは、裁判所が債務者の支払義務を免除することです。
誤解されている方が多いのですが、破産手続と免責手続は別もので、破産手続は債務者の財産を調査し、財産があれば換価して債権者に分配すればそれで終了します。
個人の方が破産申し立てをするのは、破産して財産をすべて吐き出すことが目的ではなく、破産手続と並行して行われる免責手続で支払義務を免除してもらうことにあります。
そして、裁判所が支払義務を免除するという強力な効果を認めるからには、どのような事情があっても必ず免責を許可するというのでは、債権者との関係で不公平となります。
そのため、破産法は、一定の事情がある場合には、免責を許可しないと定めています。
この事情のことを、免責不許可事由と言い、破産法252条第1項に規定されています。
財産隠しにあたる条文としては、
1号
「債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。」
というものと、
7号
「虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。」
というものがあります。
ご覧の通り、財産を隠匿すれば免責決定に影響が出ます。
裁判所で免責が不許可という判断が下された場合、借金はそのまま残ってしまうことになります。最終的には裁判所の裁量で許可・不許可が決定しますが、悪質なケースでは認められない可能性も十分にありますので、財産隠しは絶対に行わないようにしてください。 -
(2)自己破産許可後に、財産隠しが発覚したらどうなる?
では、自己破産手続きの末、裁判所から免責許可が出たあとに、財産隠しが見つかったらどうなるのでしょうか。
ご説明した通り、自己破産手続き中に発覚すれば、免責自体が認められません。
そうすると、「自己破産手続き中にばれなければ大丈夫?」と思うかもしれません。
しかし、自己破産手続き終了後、免責許可後に財産隠しが発覚するとさらに事態は悪化します。免責決定後に、財産隠しが発覚した場合、まずは詐欺破産罪に問われる可能性があります。
破産法265条では、詐欺破産罪を規定しています。具体的には、以下の通りです。
破産法265条
①債務者の財産を隠匿し、又は損壊する行為
②債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
③債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
④債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
これらの行為があった場合に、「破産手続開始の決定が確定」したときは、「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」される可能性があります。
財産隠し行為については、破産手続き申し立て前・申し立て後に関わりません。
財産隠匿をした上で、破産手続き申し立てをし、許可を得た場合には、罪に問われる可能性があるのです。
また、許可を得た自己破産手続きについても、取り消しが行われます。
破産法254条
「二百六十五条の罪について破産者に対する有罪の判決が確定したときは、裁判所は、破産債権者の申立てにより又は職権で、免責取消しの決定をすることができる。」
と規定されています。
詐欺破産罪に問われることが確定した場合には、免責許可も取り消しとなってしまうのです。
このように、自己破産手続き中・免責許可後、どちらであっても財産隠しがばれれば免責が許可されなくなってしまいます。
破産手続開始決定の確定後であれば、罪に問われる可能性すらあるのです。免責許可が下りるまでばれなければ大丈夫と考えている方は危険です。
正直に財産を申告するようにしましょう。
4、自己破産しても、残る財産があるって本当?
次に、自己破産手続きでも残すことが可能な財産についてご説明いたします。
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(1)自由財産は所有できる
では、管財事件手続きになってしまった場合、いかなる財産も所有することは許されないのでしょうか。
自己破産で、管財事件手続きになると、債権者に分配できそうな財産は、換価処分の上、平等に分配されることになります。
もっとも、どんな小さな財産でも全て自己破産申請者から奪ってしまうと、生活することもできなくなってしまいます。そして破産法は、多重債務者を救済し更生させることも目的の1つです。
そのため、管財事件になるケースでも、生活に必要な最低限の財産は残すように設計しています。これを自由財産といいます。
自由財産として扱われるのは、99万円以下の現金、破産手続き開始後に取得した財産や、差し押さえが禁止されている財産です。
また、これにあたらない場合であっても、必要であれば自由財産の拡張を申し立てれば、処分されない財産の範囲が広がる可能性があります。 -
(2)自由財産は拡張できる
では、自由財産の拡張はどのように行うのでしょうか。
自由財産の拡張とは、法律で定められている自由財産以外のものでも、裁判所の許可で自由財産にできるという制度(破産法34条4項)です。
これを行うためには、原則として申し立てを行う必要があります。
自由財産の拡張については、「破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮」した上で判断されることになります。
簡単に言うと、裁判所が「生活に必要不可欠なものだ」と判断した場合には、自由財産の拡張が認められるのです。
具体例としては、自動車やバイクなどがあります。通勤などで生活に必要であり、査定の結果20万円に満たないと判断された場合には、自由財産として認められる可能性もあるでしょう。
これ以外にも、残高20万円以下の預貯金・生命保険解約返戻金・退職金債権、家財道具などは、自由財産の拡張として認められる可能性があります。(※東京地方裁判所における財産換価基準ですので、地方によって異なります。)
自由財産の拡張は、債務者の申立てにより、破産管財人の意見を聴いたうえで裁判所が決定します。自由財産拡張の申立ては、破産手続きの申立てと同時に行うのが一般的です。
このように、自己破産であっても奪われない財産もあります。自由財産の拡張を申し立てれば、さらにその範囲は広がる可能性もあるのです。
自由財産の拡張を行うためには、最初に財産隠しを行わないことが大切です。ここを理解しておきましょう。
5、自己破産を検討中の方は、弁護士に相談を
自己破産を検討する場合、「なんとかして財産を少しでも残したい」と考えるのは仕方のないことです。一瞬、財産隠しが頭をよぎることもあるかもしれません。
そんなときこそ、弁護士にご相談ください。できる限り財産を残せるような対策を考えます。
自己破産をご検討中のケースでも、自己破産が必要ない場合もあります。
たとえば、借金の額は多いが、減額すればなんとか返済できる事例です。個人再生手続きという債務整理の手続きを選択すれば、車やマイホームなどは残すことができる可能性があります。
借金も大きく減額できるため、自己破産を希望だったが最終的に個人再生を選択したというケースもあります。債務整理には種類があり、どの債務整理の方法が適しているかについては実際のケースを見てみないことにはわかりません。
どれを選択すれば良いのか迷っている方はぜひ、当事務所までご相談ください。
また、自己破産を選択すべき場合でも、先にご説明したように財産を残せるケースかもしれません。ご相談いただければ、実際の手元にどれくらいの財産が残るのかなどもご説明させていただきます。債務整理は法律の知識が必要な手続きです。
自分1人で悩まずに、専門家である弁護士にご相談ください。
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