あおり運転して暴行罪で逮捕!? 規制強化が進む交通違反
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無理な車線変更や、強引な追い越し・追い抜き、あおり運転など、愛知県名古屋市周辺でみられる悪質な運転のことを世間では「名古屋走り」と呼ばれていることをご存じでしょうか。その結果か、愛知県の交通事故死者数15年連続全国ワースト1位という不名誉な記録は、残念ながら平成30年現在も引き継がれています。
あおり運転によるトラブルは、以前より多発していましたが、全国的に大きくなった問題視する声に応えるべく、平成30年1月より取り締まりが強化されています。その結果、実際の事故にはならなくても、あおり運転によって免許停止処分が下されたり、刑法の暴行罪で逮捕されたりするおそれもあります。
ここでは、あおり運転によって逮捕されてしまった場合、逮捕後はどのような流れが待ち受けているのか、どうすれば前科がつくことを回避できるのかなどを、名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、あおり運転が規制強化された背景
「あおり運転」とは、周囲の車を威嚇したり、嫌がらせをしたりすることや、進路を譲るように強要するような運転、行為を指します。あおり運転は他のドライバーに恐怖を与えるだけではありません。ドライバー同士のトラブルを招き、重大な死亡事故につながる「危険運転」とみなされます。
以前より問題視されていたあおり運転が改めて注目されたのは、平成29年6月に発生した東名高速での死亡事故です。大きくニュースで取り上げられ、あおり運転に対する規制強化の議論が加速するきっかけとなったため、覚えている方も多いでしょう。
あおり運転規制強化の声に応え、平成30年1月、警察庁が全国の警察に対し、あおり運転の厳罰化を求める通達を出しました。これにより、悪質で危険な運転行為をした者に対して、これまで以上に厳しい取り締まりと捜査をする流れが生まれたのです。
2、あおり運転の具体例を知っておこう
あおり運転が危険運転であることは前述のとおりです。具体的には、次のような運転があおり運転とみなされることがあります。
- 前方の車にピタッと張り付いて車間距離を詰めて接近し続ける
- 何度もクラクションを鳴らす
- ヘッドライトのハイビームやパッシングをする
- 走行を妨害するため急な割り込みや幅寄せをする
- 前車に向かって窓から怒声を浴びせ続ける
法定速度を守って安全に走行していれば、あおり運転とみなされることはないでしょう。運転するときは、常に時間の余裕をもって心穏やかに運転できるように心がけることが大切です。
もし、逆にあなたがあおり運転をされてしまったときは、「絶対に相手をせず、安全な場所に停止したら110番通報をするように」と、愛知県警は呼び掛けています。その際、相手がいくら威嚇しても、警察が来るまでは車から出ないことも重要なポイントです。また、相手の車のナンバーや特徴をスマホなどに控えておくとよいでしょう。
3、あおり運転をすると問われる罪とは?
これまでも、あおり運転に該当する行為は「道路交通法違反」として取り締まりを受けてきました。
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(1)道路交通法違反
道路交通法違反として取り締まりの対象となっている、主なあおり運転行為と罰則は次のとおりです。なお、事故に至らず、その他道路交通法によって点数制度の処分を受けない状態であっても、「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき」と警察が判断したときは、運転免許の停止処分が行われるようになりました。
●前車に極端に接近して速度を上げるなど進路を譲るよう威嚇する
道路交通法第26条で車間距離不保持義務違反と定められており、高速自動車国道や自動車専用道路では3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金、一般道路では5万円以下の罰金となります。
●急な割り込みや幅寄せ、急な進路変更など、妨害を目的とする危険な運転
道路交通法第26条の2によって、急な進路変更は「進路変更禁止違反」として取り締まられています。罰則は、5万円以下の罰金です。さらに、急ブレーキも、道路交通法第24条「急ブレーキ禁止違反」に該当し、3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科されます。そして、妨害を目的とする危険な運転すべてが、道路交通法第70条「安全運転義務違反」として、3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科されることになります。
●進路を譲るよう強要する目的や嫌がらせ目的でのハイビームやパッシングをする
道路交通法第52条の減光等義務違反(5万円以下の罰金)に該当します。
●しつこくクラクションを鳴らす
道路交通法第54条の警音器使用制限違反(5万円以下の罰金)で取り締まりの対象となります。 -
(2)暴行罪など、刑法犯として罪に問われる可能性は?
平成30年1月の警察庁の通達を受けて、あおり運転を道路交通法違反だけでなく危険運転致死傷罪や暴行罪など重い罰則の犯罪として扱う方向性が強まりました。特に暴行罪が適用された事例が増えています。
●暴行罪に該当する理由は?
「直接殴るなどの暴力をふるったわけでもないのに、なぜ暴行罪?」と思う方もいるでしょう。暴行罪は、刑法第208条において「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」罪を問うことを規定しています。
ここで示す「暴行」は、法学的には「不法な有形力が人の身体に対して加えられたとき」と解されているものです。ごく簡単な言い方をすると、殴る蹴るなどの直接的な暴力だけでなく、相手の身体を負傷させる可能性がある行為すべてが該当すると考えられます。よって、「相手に当たらないように石を投げる」「水をかける」などの行為はもちろん、大事故につながりかねない「あおり運転」でも、暴行罪に問われる可能性があると解釈できます。
暴行罪で有罪になったときに科される罰則は、条文に記されたとおり「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。逮捕されれば、状況によっては一般の傍聴人も傍聴できる環境下で刑事裁判を受けた末、刑務所に入らなければならない可能性もある犯罪なのです。
なお、暴行罪の適用はあくまでも、「傷害するに至らなかったとき」のみです。つまり、あおり運転によって事故が起きたり、相手が死傷したりすれば、暴行罪どころの話ではありません。より罪が重い、「危険運転致死傷罪」や、刑法の「傷害罪」、さらには「殺人罪」に問われることになります。
実際に、平成30年4月には、極端に前車との車間距離を詰め、進路妨害目的で蛇行運転を続けた男性が暴行容疑で愛媛県警によって書類送検されています。該当行為によって事故が発生したわけではありませんが、重大な事故につながりかねない危険な運転行為であったため、暴行罪による適用が行われたのです。
また、平成30年7月、大阪府内で起きたあおり運転による死亡事故では、運転手に殺意あったとみなされ「殺人罪」として起訴されたことで、大きな話題となりました。
※令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
>あおり運転が厳罰化! 令和2年創設の妨害運転罪について詳しく解説
4、あおり運転の証拠とは?
暴行罪が適用された愛媛県の事例では、あおり運転を目撃していた周囲の車による通報により、事件化した末、加害者の男性が書類送検されました。また、殺人罪で起訴された大阪府内の死亡事故でも、周囲を走行していた車や、被疑者本人の車に搭載されたドライブレコーダーに残されていた映像が、起訴の決め手となっています。
あおり運転によって逮捕されるケースは、現行犯逮捕のこともあります。実際に、大阪府内の死亡事故でも、逮捕は「現行犯逮捕」だったと報道されています。しかし、周囲からの通報などによって事件化し、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像が証拠となるケースも少なくありません。当然ですが、証拠があれば、警察もあおり運転をした疑いがある「被疑者」を特定しやすいものです。最近では、あおり運転対策でドライブレコーダーを搭載している車が増えていることや、ヘリコプターに搭載した高性能カメラを使った捜査によって、道路交通法違反や暴行の疑いで検挙されるケースが多くなっています。
つまり、あおり運転をした日に、何事もなく帰宅できたとしても、逮捕されない保証はどこにもないということです。後日、警察から事情聴取のために任意出頭するよう求める連絡が来た末、被疑者として取り調べを受け、起訴されることになるか、逮捕状が発行される「通常逮捕」が行われる可能性が大いにあるでしょう。
5、あおり運転で逮捕されたらどうなる?
もし、あおり運転をした結果、暴行罪の疑いで逮捕されてしまったら、どのような流れが待っているのでしょうか。
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(1)逮捕
警察官に逮捕された被疑者は、そのまま警察署に連行されて取り調べを受けます。警察は、取り調べを通じ、被疑者と事件を釈放するか、検察へ送致するかを逮捕後48時間以内に判断します。
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(2)勾留
身柄が検察に送られたら、次は検察で取り調べを受けます。検察は24時間以内に、引き続き捜査のために身柄を拘束する「勾留(こうりゅう)」が必要かどうかを判断します。必要なときは「勾留請求」を裁判所に対して行い、身柄の拘束をしなくても捜査ができると判断したときは、「在宅事件扱い」とし、身柄は釈放されます。
なお、逮捕から勾留が決まる72時間のあいだは、家族と連絡を取ったり、会って話をしたり、差し入れを受け取るなどの接見はできません。自由な接見が許されるのは、弁護士のみとなります。
勾留が決定したときは、最大20日間の取り調べのあいだ、身柄が拘束されたままになります。留置場か拘置所で寝泊まりすることになり、もちろん、仕事や学校へ行くことはできません。 -
(3)起訴から裁判まで
検察は、勾留中であれば勾留期間内に、在宅事件扱いのときは捜査が終わったタイミングで、起訴か不起訴処分かを判断します。不起訴処分となった場合は、刑事手続きが終了し、自由の身に戻ることができます。前科もつきません。
「起訴」が決定すると、裁判所で刑事裁判を受けることになります。裁判官は裁判の内容を検討して、無罪または有罪の場合の量刑を判断しますが、日本の検察は十分な証拠をそろえたうえで起訴するため、刑事裁判の99%が有罪判決となっています。
検察が「公判請求」したときは、公開された刑事事件で裁きを受けることになります。出廷の必要もあるため、勾留されていた場合は、保釈手続きが認められない限り、裁判が終わるまで引き続き身柄を拘束されることになります。なお、裁判は最短で数ヶ月、長ければ1年程度かかることもあるでしょう。
検察が「略式請求」したときは、略式裁判と呼ばれる、書類手続きの身で行われる裁判を通じて、量刑が決まります。略式請求のときは、自宅に帰ることもできますが、たとえ罰金刑でも犯罪者として罰せられるという結果になるため、前科がついてしまう点に注意が必要です。
このように、あおり運転によって暴行罪容疑で逮捕されてしまうと、起訴されるかどうかが決まるまでのあいだだけでも最大23日間、身柄を拘束されることになります。当然、仕事や家庭にも多大な影響が発生することでしょう。
弁護士に刑事事件の弁護を依頼したときは、まずは早期に身柄拘束が解かれるよう働きかけると同時に、起訴を回避できるような弁護活動を行います。前科がついてしまったときはもちろん、身柄を拘束されて日常生活を送れない期間が長引けば長引くほど、将来に受ける影響が大きくなるためです。
6、まとめ
今回は、あおり運転とは何か、どのような法令違反や刑罰を受ける可能性があるのかについて、ポイントをご紹介しました。あおり運転の取り締まり強化が進む中、暴行罪が適用される可能性が増えています。逮捕されてしまった場合はできるだけ弁護士のサポートを受けることが望ましいといえるでしょう。
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