酔って駅員を殴り暴行罪で逮捕! 量刑や示談の必要性を弁護士が解説
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平成30年6月、愛知県名古屋市名東区を走る市営地下鉄東山線の改札内で、駅員を殴ったとして自称会社員の男が現行犯逮捕されるという事件がありました。被疑者の男は酒に酔っていた状態で、容疑を否認していると報道されています。
酒を飲みすぎると、自分でも自分の行動が制御できなくなる方がまれにいます。酔った勢いでなにかを思い込んだ末、思わず殴ってしまう……などのトラブルが起きることもあるでしょう。しかし、逮捕されてしまえば、酒による失敗というエピソードでは終わりません。状況や、対応の仕方によっては、前科がついてしまうなど、将来にわたり影響を残す結果となってしまうことも、じゅうぶんにあり得るでしょう。
今回は、暴行罪と逮捕・勾留や裁判などについて、名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、暴行罪で逮捕されるとどうなる?
冒頭の事件のように、暴行罪で逮捕されてしまったとしたら、その後、どうなってしまうのか、ご存じでしょうか。
逮捕後の流れは、刑事訴訟法で定められています。成人した大人であれば、問われる犯罪の内容に関係なく、同様の流れで刑事手続きが取られることになるのです。まずは、刑事事件の流れを知っておきましょう。
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(1)逮捕とは?
罪を犯した容疑がある者は「被疑者」と呼ばれます。暴行の容疑で警察官に逮捕された被疑者は、まずは警察暑へ連行され、取り調べを受けることになります。
そもそも「逮捕」とは、捜査のために一時的に被疑者の身柄を拘束する強制処分のひとつです。つまり、逮捕によって身柄が拘束できる時間は、刑事訴訟法によって「最大48時間」と定められていて、超過することはできません。警察は、逮捕から48時時間以内に事件の内容を検討して、事件や被疑者の身柄を検察に送致して処罰を検討するか、「微罪処分」として釈放するかの判断を下すのです。
なお、逮捕された被疑者は、取り調べが終了して何らかの結論が出るまでは、主に留置場で寝泊まりすることになります。外に出ることはもちろん、家族とも連絡を取ることや、会って話をすることも許されません。逮捕中の被疑者との、自由な「接見」が許されているのは、唯一、国家資格をもつ弁護士だけとなります。
なお、「接見」とは、身柄の拘束を受ける被疑者が、捜査関係者以外の人物と面会したり、差し入れなどを受け取ったりできる権利を指します。 -
(2)勾留されたらどうなる?
逮捕後、警察の取り調べによって、「微罪処分」としてそのまま釈放された場合は帰宅できます。罪も問われないため、前科がつくこともありません。
一方、検察への送致が決定した場合は、引き続き、検察官の捜査を受けることになります。ただし、身柄を拘束されたまま送致されるのか、事件書類だけが送致されるのかによって、状況が異なります。
事件だけが送致されるときは「在宅事件扱い」となり、被疑者の身柄は解放され、帰宅できます。今後は、検察の呼び出しに応じることによって捜査が進むことになります。
身柄ごと送致されたときは、検察は取り調べの内容に基づいて、引き続き身柄の拘束を行ったまま捜査をする「勾留(こうりゅう)」を行うべきかどうかを、逮捕から72時間、もしくは、送致から24時間以内に判断します。
検察の判断により、「在宅事件扱い」となることもあるでしょう。しかし、勾留が必要と判断したときは、検察は裁判所に対して「勾留請求」を行います。裁判所が、勾留を認めれば、最大20日間ものあいだ、被疑者は拘置所などで寝泊まりすることになり、身柄を拘束され続けることになります。
なお、被疑者は、送致から勾留までのあいだも、弁護士以外の人物との接見は制限されますが、勾留が決まると、家族との接見が許されます。しかし、逮捕から少なくとも2週間以上、会社や学校へ行くことができなくなるため、今後の日常に影響が出る可能性が高まるでしょう。刑事事件は逮捕から72時間が勝負といわれるのは、このためです。 -
(3)起訴から裁判までの流れ
検察は、被疑者が勾留中であれば、勾留期間内に起訴するか、不起訴処分にするかを判断します。在宅事件扱いであれば、起訴までの期限は決まっていません。捜査が終わり次第判断されることになります。
「不起訴処分」となったときは、直ちに自由の身となります。前科がつくこともありません。
「起訴」されたときは、被疑者は「被告人」と呼ばれる立場になり、刑事裁判によって罪を裁かれることになります。開廷される刑事裁判の形式にも種類があります。
起訴された際、検察が「公判請求」したときは、公開された刑事裁判が開廷されます。傍聴人が自由に立ち入れる裁判において、罪を裁かれるということです。もちろん、被告人自身の姿も傍聴人から隠されることはありません。出廷の必要もあるため、被告人となった被疑者は、保釈が認められない限り、引き続き身柄が拘束され続けることになります。裁判は早ければ数ヶ月で終了することもありますが、状況によっては1年を超えることもあるでしょう。
起訴の際、検察が「略式請求」したときは、捜査書類のみに基づいて罪が裁かれることになります。この場合は、身柄の拘束は直ちに解かれます。
2、「暴行罪」の基礎知識
では、どのような行為をすると、「暴行」容疑として逮捕されてしまうのでしょうか。暴行罪に該当する「暴行」は、一般的に考えられている「暴行」という言葉の意味とは異なる部分もあります。前段で説明した事態に陥らないためにも、改めて知っておく必要があるでしょう。
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(1)暴行罪に該当する行為とは?
暴行罪とは、刑法第208条に規定された罪です。条文で示されているとおり「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」暴行罪に問われることになります。
なお、刑法で示される「暴行」とは、殴る・蹴るをはじめとした、いわゆる「暴力」だけではありません。法的には、「人の体に対して加えられた不法な有形力」が「暴行」行為と解釈されています。つまり、特定の行為によって相手が負傷する可能性がある行為すべてが、「暴行」ととらえられる可能性があります。
具体的には、以下の行為が「暴行」とみなされる可能性があります。- 殴る・蹴るなどの暴力
- 胸ぐらや腕をつかむ、肩を押す
- 突然、着衣を強く引く
- 耳元に大音量のスピーカーを近づける
- バットやゴルフクラブを相手の近くで振り回す
万が一、上記のような「暴行」によって相手が負傷したときは、暴行罪ではなく、さらに罪が重い「傷害罪」が適用されることになります。
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(2)暴行罪で科せられる量刑
暴行罪の量刑、つまり、暴行の罪で起訴され、有罪となった場合の刑罰についても、刑法第208条に定められています。
具体的には、次のいずれかの刑罰に処すると定められています。- 2年以下の懲役(ちょうえき)
- 30万円以下の罰金(ばっきん)
- 拘留(こうりゅう)
- 科料(かりょう)
「懲役」とは、定められた期間、刑務所で刑務作業を行うことです。暴行罪においては、示談が成立していたり、悪質なケースでなければ、たとえ有罪判決が下されても「執行猶予(しっこうゆうよ)」がついたり、罰金刑もしくは科料になったりする傾向があります。ただし、初犯であっても暴行行為に悪質性が見られると判断されたケースや、反省していないとみなされたときは、執行猶予なしの実刑判決になることもあるでしょう。
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(3)逮捕されないこともある?
「逮捕」には、通常逮捕と現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類があります。前述のとおり、基本的に「逮捕」という行為そのものが強制処分であるため、被疑者が現時点で暴れているなど、身柄を抑えるしか手段がないときや、逃亡したり証拠隠滅したりする可能性があるなど、特別なケースで「逮捕」されることになります。
暴行罪で逮捕されるときは、基本的には「通常逮捕」か「現行犯逮捕」されることになります。緊急逮捕は、殺人などの重大事件にかかわっているケースでのみ適用される逮捕方法です。容疑が「暴行」だけであれば「緊急逮捕」される可能性はないと考えてよいでしょう。
●通常逮捕
犯行当日ではなく、犯行後日になって、逮捕令状をもった警察官が訪れ、逮捕されることがあります。逮捕状をもって逮捕に至るケースは、刑事訴訟法に定められた正式な逮捕方法であるため、「通常逮捕」と呼ばれています。
目撃者が多数いる場所で暴行し、警察に質問されたものの「自分はやっていない」と容疑を否認して逃亡した場合や、その場は逃走したものの防犯カメラなどの画像や映像など、証拠がそろっているようなとき、後日逮捕に至る通常逮捕となるケースもあるでしょう。
後日逮捕の場合、警察官は自宅や勤務先などに逮捕状をもって訪れます。
●現行犯逮捕
冒頭で紹介した事件のように、その場ですぐ被害者や目撃者に取り押さえられ、警察官に連行された……などのケースが該当します。現行犯逮捕は、犯行中もしくは犯行直後であれば被疑者が罪を犯したことが明らかであるため、認められた、ある意味特別な措置ともいえるでしょう。
なお、刑事訴訟法上で示す「逮捕」は行われなくても、警察が事件を認知し、被疑者を検挙することがあります。たとえば、被害者から警察に被害届が出されたとして、警察から連絡が来て、任意出頭を求められるケースなどが該当します。出頭し、罪を認めれば、逮捕はされないまま、「在宅事件扱い」として捜査や取り調べが進められることもあるでしょう。
任意出頭の依頼が来たときなど、ひとりで対応することに不安があるときは、弁護士に同行してもらえるよう依頼することをおすすめします。
3、示談がなぜ重要なのか?
暴行事件においては、被害者との示談が成立していることによって、不起訴になったり、逮捕されたとしても早期に釈放されたりする可能性が高くなります。
なぜ、示談にこのような効果があるのかについて解説します。
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(1)暴行事件における示談とは?
そもそも「示談(じだん)」とは、事件の当事者同士が話し合うことで、事件の解決を図ることを指します。被害者がいる刑事事件では、警察や検察が刑罰を求めるシーンにおいて、行為の悪質度や前歴や前科の有無などを確認していきますが、そのほかに、被害者の感情を非常に重視します。被害者が加害者を許し、刑罰を処すことを求めていなければ、前科がつかなくなる可能性が高まるということです。
そこで、多くの刑事事件においては、加害者が被害者に賠償を行い、被害者が加害者を許すことを明言する「宥恕(ゆうじょ)文言」を成立した示談書に入れてもらうことを目的に「示談」が行われます。
示談交渉において、もっとも話し合われる内容は、やはり示談金の額です。暴行罪では、実際に負傷しているわけではないため、精神的な苦痛に対する慰謝料という意味合いが強くなる傾向があります。行為の悪質度や被害者の心情によって、提示される示談金の額はさまざまであり、実際の状況や交渉によって金額が変わるといってもよいでしょう。
本来、当事者同士の話し合いという性質をもつ「示談」の交渉は、加害者本人や加害者の家族や友人などが行うこと自体は禁じられていません。しかし、状況によっては被害者の個人情報を知らないなどの理由でそもそも示談交渉できなかったり、被害者が示談を拒んだりするケースが多々あります。
円満かつ早急に示談を成立させたいのであれば、刑事事件の対応経験が豊富な弁護士に、示談交渉そのものを依頼することをおすすめします。弁護士は、示談交渉も仕事のひとつです。刑事事件における示談金の相場も熟知しており、たとえ被害者からの不当な要求があったとしても決然と対応することができます。 -
(2)示談を成立させるメリット
加害者が被害者へ示談金を支払い、「宥恕(ゆうじょ)文言」を盛り込んだ示談書を作成して、互いにサインをすれば、示談が成立します。
示談が成立するタイミングは、早ければ早いほど、大きなメリットを得ることができます。具体的には以下のとおりです。
<示談が成立するタイミングと、受けられる可能性があるメリット>- 逮捕前……被害届の提出を思いとどまってもらえる可能性が高く、そもそも事件化しない。被疑者として捜査対象になることを避けられれば、前歴もつかない。
- 逮捕から勾留が決まるまでの72時間……「微罪処分」として釈放される。もしくは「在宅事件扱い」として帰宅できる可能性が高まる。
- 起訴が決まる前……不起訴となる可能性が高まる、もしくは求刑が軽くなる
- 起訴後……執行猶予つき判決が出る可能性が高まる
4、まとめ
気持ちよく酔うまでは個人の自由です。しかし、酔った勢いで暴行行為をしてしまうと、刑法犯として罪に問われる日々がやってくることになります。酔いが覚めて現実に気づいたとき、どうしたらいいのか、本人は不安になることでしょう。おそらく、家族はもっと、どうすべきなのか、不安にさいなまれるとともに、ショックを受けるのではないでしょうか。
万が一、暴行罪で逮捕されても、しっかりと反省の意を示したうえで、正しい刑事手続きの知識を踏まえて警察や検察に対応したり、示談交渉を進めたりすれば、早期解決に導くことは十分に可能です。
ただし、実際の手続きや交渉は、関連する知識や経験が欠かせません。特に、逮捕されてしまえば、本人が動けなくなるうえ、家族とも面会ができません。早急に弁護士に相談し、示談を依頼することをおすすめします。
あなた自身や家族が暴行の容疑で逮捕されてしまったときや、容疑をかけられているのであれば、まずはベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスへ相談してください。名古屋オフィスの弁護士が、状況に適した弁護活動を通じて、将来にわたる影響を最小限に抑えるためのサポートを行います。
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