泥酔状態で駅員の首を絞めて逮捕! 暴行事件を示談で解決する方法は?
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平成30年6月、名古屋市内の近鉄名古屋駅の構内で、酒に酔った三重県職員の男が駅員の首を絞めるなどの暴行をはたらき現行犯逮捕される事件が発生しました。男は、電車内でも大声をあげるなどの迷惑行為をはたらいており、泥酔状態だったようです。警察でも、「身に覚えがない」と証言しているという報道がありました。
しかし、たとえ酔っていたとしても、この事例のように、他人の首を絞めるなどの行為は「暴行罪」に問われることがあります。
今回は、どのような行為が暴行罪に該当し、どのような処罰を受けるのかといった基礎知識のほかに、思いがけず暴行の犯人になってしまった本人や家族が、事件解決のためにできることなどを解説します。
1、暴行罪の定義について
暴行といえば、殴る・蹴るなどの暴力行為をイメージする方が多いかもしれません。しかし、意外な行動が「暴行」に該当するケースがあるのです。
「暴行罪」がどのような場合に成立する犯罪なのかを解説します。
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(1)暴行罪の法的根拠
「暴行罪」は、刑法第208条にて、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」と規定されています。
つまり、加害者が暴行を加えた結果、相手が負傷したときは「暴行罪」に該当せず、「傷害罪」として捜査され、罪を問われることになります。暴行により相手を負傷させてしまったり、死亡させてしまったりした場合は、問われる罪が異なってくることになり、より重い処罰が科され得ることになります。 -
(2)「暴行」とは?
暴行罪でいう「暴行」とは、ケガをしない程度であることが大前提です。法学的には、「有形力の行使を指す」とされています。さらに、身体への接触の有無は問いません。相手に対して身体的な影響を及ぼす可能性がある行動が、暴行とみなされる可能性があると考えてよいでしょう。
つまり、暴行罪といえば誰もがイメージする「殴る・蹴る」などの明確な暴力以外にも、次のような行為が「暴行」とみなされる可能性があります。- 首を絞める
- シャツの襟首をつかむ
- 髪の毛を切る
- 塩や水を投げつける
- 狭い室内で太鼓を大音量で鳴らし続ける
- 脅す目的でわざと足元に向かって石を投げつける
- 狭い室内で日本刀やゴルフクラブを振り回して脅す
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(3)暴行罪の罰則
暴行罪の罰則は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と、刑法第208条で明文化されています。
つまり、暴行罪で有罪判決が下ると、以下の範囲の刑罰が処されることになります。- 「懲役(ちょうえき)」……2年以下、刑務所で服役する身体刑
- 「罰金(ばっきん)」………30万円以下の罰金を支払う財産刑
- 「拘留(こうりゅう)」……1日以上30日未満、身柄を拘束される身体刑
- 「科料(かりょう)」………1000円以上1万円未満の罰金を支払う財産刑
「拘留」や「科料」は、もっとも軽い刑罰の種類といわれています。しかし、有罪になれば前科がついてしまう事実に変わりありません。
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(4)暴行罪の時効
時効とは、正しくは「公訴時効」と呼びます。公訴時効とは、事件発生の日から起算して、検察官が公訴を提起できるタイムリミットを指します。
暴行罪の時効は3年です。
つまり、暴行罪の場合は、事件が発生してから3年が経過してしまうと刑事裁判を提起することができなくなります。
刑事ドラマなどでは、時効の完成直前に犯人が逮捕されるシーンが描かれることがあります。ところが、実際には時効の直前に犯人を逮捕しても起訴するために必要十分な捜査ができないため、時効完成が切迫した事件の逮捕は、「実務上不可能」といえるでしょう。
「ならば逃げ続けたほうがよい」と思ってしまうのは、早計です。暴行事件は友人や知人、夫婦や恋人、勤務先の同僚や上司部下、行きつけの店舗の顔見知りなど、何らかの人間関係がある中で発生することが多いものです。冒頭の例のように、見知らぬ人が相手だったケースにおいても、防犯カメラなど動かぬ証拠が残っていることが多々あります。
たやすく逃走を続けられるものではありません。罪を認めて刑罰を受けるか、または被害者に対して謝罪して許しを乞うことをおすすめします。
2、暴行罪で逮捕された場合の流れ
暴行事件の多くは、被害者や目撃者の通報によって現場に駆けつけた警察官によって現行犯逮捕されることによって、事件化します。事件発生から時間が経過しても被害者が後日になって被害届を提出したときや、事件現場へ警官が駆けつけたものの犯人が逃走してしまったときは、事件を警察が認知することになり、捜査がはじまります。その場合は、逮捕状が発行され、後日、通常逮捕される可能性もあるでしょう。
そもそも、「逮捕」とは、捜査のために留置場などで身柄を拘束するという特別な措置です。そのため、知人間で発生した暴行事件で、犯人が任意の取り調べに応じれば、「逮捕」はされず、自宅に居ながらにして捜査を受ける「在宅事件扱い」となるケースも少なくありません。そのときは、仕事や学校を突然、長期間休むという事態に陥ることなく、捜査を受けることができます。
冒頭の事例のように無差別的な暴行であれば逮捕される可能性が高くなります。また、被害者が処罰を強く望んでいるときや、暴行の内容が計画的など悪質なとき、反省せず、示談が成立していないとき、身元を保証する人物がいないときも、逮捕される可能性があるでしょう。
暴行罪の容疑に限らず、逮捕された場合は、次のような流れで捜査を受けることになります。
- 逮捕による身柄拘束(逮捕から48時間以内)
- 検察官送致
- 勾留請求(送致から24時間以内)
- 勾留(原則10日間、延長によって最長20日間)
- 起訴
- 被告人勾留(刑事裁判が結審するまで)
もし、暴行事件を起こして現行犯逮捕された場合、逮捕から勾留請求が決まるまでの72時間は、家族に連絡を取ることも、会うこともできません。また、勾留延長を含めて起訴まで最長で23日間の身柄拘束を受ける可能性があります。この間、もちろん仕事や学校へ行くことはできません。
さらに、公判請求という形で起訴された場合は、判決が下るまでは被告人として勾留されることになります。保釈手続きが認められない限り、長期間の身柄拘束を覚悟する必要があるでしょう。
3、暴行事件と示談の関係
暴行事件を刑事手続きによらず解決する方法として有効なのが「示談(じだん)」です。
示談とは本来、事件の当事者同士が和解と解決を目指すための話し合いを指します。暴行事件において示談を成立させることは、被害者加害者双方にとって大きなメリットがあります。
示談で解決するメリットと、示談の方法について解説します。
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(1)示談で解決するメリット
暴行事件における示談では、「加害者が謝罪するとともに示談金を支払うと同時に、被害者が加害者を許してもらうこと」を目指すことになります。被害者が加害者を許すという意味を示す言葉のことを、「宥恕(ゆうじょ)文言」といわれています。
刑事事件において、示談書に宥恕(ゆうじょ)文言を入れることは、大変重要なことです。「被害者が、犯人の処罰を求めない」という意思表示をしたとみなされ、警察や検察もこれを重視するためです。
もし警察に被害届が提出される前のタイミングであれば、被害届を提出しないことで事件化を回避することができます。被害届が提出された後でも、被害者が被害届の取り下げを願うことで捜査は終結します。
もし逮捕されてしまった後でも、検察官が勾留を請求する前なら勾留請求の回避、勾留中でも即時釈放が期待できます。起訴されてしまった後でも、被害者に対する謝罪と弁済が完了していることが評価されて刑罰の減免が期待できるでしょう。
もし、通常の流れのままで刑事手続きを受けて身柄を拘束されれば、勤務先の長期欠勤は免れません。会社の規定などによっては解雇の対象になることもありえます。また、冒頭の事例のように公務員であれば懲戒基準にのっとって免職されるおそれもあります。
示談金を支払う必要はありますが、罰金刑を受ければ同じく金銭の支払いが発生します。どちらにしても金銭の支払いが発生するのであれば、示談を選択して身柄拘束や前科がついてしまうリスクを少しでも避けることをおすすめします。 -
(2)示談の方法
暴行事件の示談は、知人間であれば暴行した本人やご家族で全て完結させたいと考えるかもしれません。しかし、少しでもスピーディーにかつ、示談にするためには弁護士に一任することをおすすめします。
暴行事件に限らず、犯罪の被害者は犯人と直接会うことを嫌う傾向があります。被害者との面識がないケースであればなおさらです。たとえ加害者の家族であっても、加害者側の人間として嫌悪感情を持たれる可能性が高いものです。無理に押しかけるなどすれば余計に被害者の感情を逆なでしてしまうおそれもあります。公平中正な立場である弁護士に任せるほうがスムーズな交渉になる可能性が高まります。
弁護士が示談交渉をすることによって、暴行事件の示談金として妥当な金額を提示して、相場程度の支出で解決を目指すことができます。もし、相手が示談を拒んだとしても、示談を行ったという記録を弁護士であれば提出できるため、無意味にはなりません。刑事事件の解決経験が豊富な弁護士にお任せするのが最良の手段だといえるでしょう。
4、まとめ
暴行罪の概要や罰則、時効、暴行罪と逮捕の関係や逮捕後の流れ、示談をするメリットや示談の方法について解説しました。
誰しも頭に血が上ってつい暴力的になりそうになることはあるでしょう。しかし、実際に暴力をふるったとなれば、暴行罪の容疑で逮捕されてしまう可能性もあり、刑罰を受けるだけでなく、長期間の勾留などによって職を失ってしまうリスクを背負う場合もあります。人生が大きく変わってしまう事態になるのです。
家族が暴行事件を起こしてしまった場合は、早急に弁護士に依頼して、示談交渉を行い、事件化を回避しましょう。ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスでは、暴行罪の弁護・示談に精通した弁護士が、暴行事件を起こしてしまった方々を強力にバックアップしていきます。ぜひお気軽にご相談ください。
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