就活生からセクハラで訴えられたらどうなる? 逮捕される可能性はあるのか?

2020年02月28日
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就活生からセクハラで訴えられたらどうなる? 逮捕される可能性はあるのか?

令和元年12月、名古屋市内の大学教授が、学生や教員に対していわゆるセクシャルハラスメント(以下セクハラ)行為などをしたとして、停職3か月の懲戒処分を受けたという報道がありました。他にも、就職活動中の女子学生がOB訪問先の男性社員からセクハラを受けたという事件が報道されています。

あなたにとっては冗談やコミュニケーションのつもりであっても、相手の意に反して性的な言動をすることは、差別であり、人権侵害として許されないことです。場合によっては、逮捕や懲戒解雇に至ることもあるでしょう。名古屋オフィスの弁護士が、就活生に対するセクハラにより逮捕される可能性や、逮捕されたらどうなるのかについて解説します。

1、セクハラにあたる行為と問われる可能性がある罪

採用担当者になると、多くの就活生や就職希望者と接触する機会があります。そのような中、その立場を利用して就活生の意思に沿わない性的な言動や接触を行うことは、あってはならないことなのです。

では、どのような行為がセクハラにあたるのかを改めて確認していきましょう。刑法や条令に違反し、逮捕起訴のおそれがある行為には、以下のようなものが挙げられます。

  1. (1)セクハラの定義とは

    セクハラとは、前述のとおり、相手の意に反する形で相手に対して性的な言動を行うことを指します。性的嫌がらせと呼ばれることもあるでしょう。

    何をもってセクハラなのかは、被害者の主観だけで決まるものではありません。具体的には、性的な言動を拒むことによって以下の状況となる可能性があるとき、セクハラと呼ばれることになるでしょう。

    • 経済面や精神面で不利益がもたらされる可能性があると考えられるとき
    • 職場などの環境や雰囲気を悪くする可能性があると考えられるとき


    就活生が性的な言動を拒んだり拒否をしたりすることで、採用が見送られるなどの不利益がもたらされる可能性があったり、その場の空気を悪くすると相手が考えられる状況下にあればセクハラであるといえるでしょう。具体的には、「採用してあげるから触らせて」、採用担当者の立場を利用して「デートしたい」などと発言することはセクハラにあたると考えられます。

  2. (2)強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪・準強制性交等罪

    ただの発言だけでなく、実行に移してわいせつな行為に至っていた場合は、刑法犯として罪に問われる可能性があります。刑法における「わいせつな行為」とは、わかりやすく説明すると、胸やお尻、足、性器など、ふだん衣服に隠されているような部位を性的な意図をもって触るなどの行為を指します。

    強制わいせつ罪は、刑法第176条に定められている犯罪です。具体的には、「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者」、もしくは「13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者」が罪を問われます。法定刑は「6か月以上10年以下の懲役」で、罰金刑はありません。

    たとえば、就活生などを部屋やホテルに連れ込み、殴ったり、「断ったら内定を取り消すぞ」などと脅したりしてわいせつな行為をした場合は、強制わいせつ罪に問われる可能性があります。なお、当該行為が明らかに被害者の性的自由を侵害している場合は、加害者に性的意図がなかった場合でも、強制わいせつ罪が成立するという判例も出ています(最高裁大法廷平成29年11月29日判決)。

    続いて、準強制わいせつおよび準強制性交等罪は、刑法第178条に定められている犯罪です。相手の意識がない、抗うことができない状態にした上でわいせつな行為を行うと問われる罪です。法定刑は準強制わいせつ罪の場合は「6か月以上10年以下の懲役」、準強制性交等罪は「5年以上の有期懲役」です。いずれも罰金刑はありません。

    たとえば、話を聞く、相談に乗るなどの理由で居酒屋やバーに就活生を連れ込み、過剰に飲酒させ、泥酔させ抵抗ができない状態にしてわいせつな行為や性交をすると、脅していなくても準強制わいせつ罪・準強制性交等罪に問われる可能性があるでしょう。

    なお、もし暴行や脅迫を行った末に性交していれば、強制性交等罪となりえ、法定刑は「5年以上の有期懲役」です。罰金刑はありません。なお、刑法第180条の規定により、たとえ性交が未遂であっても強制性交等罪の未遂罪が成立することがあります。

  3. (3)迷惑防止条例違反

    セクハラは、各自治体が設けている迷惑行為防止条例に違反することもあります。「愛知県迷惑行為防止条例」第2条の2では、以下のような「卑わいな行為」を禁じています。

    ●公共の場や公共の乗り物において、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような方法での以下のような行為

    人の身体に直接または衣服などの上から触れること。
    衣服などで覆われている人の身体または下着をのぞき見したり、撮影したりすること。
    衣服などで覆われている人の身体や下着にカメラなどを向けること。
    人に対し、卑わいな言動をすること。


    断っても、もしくは拒めない状況下で何度も性的な質問をしてくる、肉体関係を誘ってくるなどした場合や、電車やタクシーで送るときに、不必要に密着したり、触ったり、胸や下着を盗撮したりするなどした場合も該当する可能性があるでしょう。

    平成31年1月1日施行の条令改正により、卑わいな行為の罰則が引き上げられています。有罪になると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。なお、常習者に対しては2年以下の懲役または100万円以下の罰金という処罰が科せられることになります。

2、就活生からセクハラ行為で訴えられたとしたら

実際に、セクハラ行為をされた就活生が、警察に相談した場合はどうなるのでしょうか。

  1. (1)被害届の提出

    被害者が警察に被害届を提出したとしても、いきなり逮捕されるわけではありません。被害届は、犯罪の被害にあった事実を捜査機関に申告するための書類という位置づけであるためです。

    また、告訴状が提出されている場合では、被害者が捜査機関に対して加害者の処罰を求める意思表示を行った状態であるといえます。令和2年1月現在、先述の強制わいせつ罪や迷惑防止条例違反は告訴状が必要な親告罪ではありません。告訴されていてもいなくても、犯行が明らかになれば処罰を受ける可能性があります。

    いずれにしても、被害届や告訴状の提出により犯罪捜査が始まるケースが多いでしょう。

  2. (2)警察での任意の事情聴取

    社名や氏名が明らかである場合、警察を通じて、任意の事情聴取の要請がある可能性が高まります。強制力はないため断ることもできますが、何度も断ったり、協力を拒んだりしていると「逃亡や証拠隠滅のおそれがある」として、逮捕状の請求に及ぶ可能性もあります。

    したがって、心当たりがあってもなくても、この時点で弁護士に相談することを強くおすすめします。冤罪であれば、冤罪の証拠を集めておく必要がありますし、もし事実であれば、弁護士を通じて被害者と示談交渉に入ってもらい、被害届を取り下げてもらえるよう働きかけを始めたほうが良いためです。

    弁護士に、事情聴取への対応の相談や、同行を依頼することによって、強引な取り調べや身柄の拘束を回避できる可能性が出てきます。

  3. (3)逮捕されたら、警察での取り調べ

    もし、任意同行を拒み続けていた状態であったり、犯行が悪質であると判断されたりしたら、十分な証拠が集まった時点で警察は裁判所に逮捕状の請求をします。裁判所から逮捕状が発布されると、それを持った捜査官が被疑者のところに来て、罪状を読み上げて身柄を拘束します。

    その後、警察で48時間以内の取り調べを受けます。この間、原則として家族と電話で話をすることや面会が制限されます。ただし、依頼を受けた弁護士であれば、いつでも何回でも接見することが可能です。事前に弁護士を依頼しておくことで、逮捕後すぐに今後について相談したり、示談を急いでもらったり、外部や家族との連絡を依頼したりすることができるでしょう。

  4. (4)検察への送致・在宅事件扱いの判断

    警察での取り調べの結果、たとえ罪を犯した事実があっても、検察へ身柄が送致される場合と、釈放される場合があります。

    捜査機関と事実関係を争わない場合や、逃亡や証拠隠滅のおそれがない場合などは、在宅事件扱いとなり帰宅できる可能性があるでしょう。報道などでは「書類送検」と報じられる措置です。

    検察に身柄ごと送致された場合、24時間以内で検察からの取り調べを受けます。検察はその間に、身柄拘束を続けたまま取り調べを行う「勾留(こうりゅう)」を裁判所に請求するか判断します。

  5. (5)勾留・起訴・裁判

    裁判所に勾留請求をして、それが認められた場合は、最長で20日間身柄拘束が続きます。検察は勾留期間内に起訴か不起訴かを判断します。(在宅事件扱いの場合は、起訴・不起訴を決める期限はありません)

    起訴の場合は、裁判で有罪か無罪か争いますが、日本の司法では起訴された事件の99%以上が有罪判決となっています。

3、逮捕回避や不起訴には迅速な示談が重要

示談とは、被害者と加害者の当事者間で、問題の解決を図るということです。この場合は、罪を認め謝罪し、賠償を約束する代わりに、被害者は罪を許し、罰を望まないと示談書で示してもらうことを目的とします。

セクハラ行為で取り調べを受けたとしても、示談が成立すれば、逮捕を回避することは可能です。また、逮捕されたとしても、不起訴となる可能性が高まります。なぜなら、捜査機関は被害者の被害回復と処罰感情を非常に重視するためです。

ただし、捜査機関は加害者側に被害者の情報を開示することはありません。そもそも、セクハラは立場を用いて性的な被害を与えるものです。したがって、加害者本人やその家族が示談交渉をしようとしても、事態が悪化してしまう可能性が高くなります。そのため、第三者である弁護士に示談交渉を依頼したほうが、示談交渉に応じてもらいやすくなるでしょう。

示談は早ければ早いほど、逮捕・起訴を回避できる可能性が高まります。一刻も早く示談に向けて動き出してください。

4、まとめ

就活生のセクハラ問題は、今まで以上に声が上がる可能性があります。逮捕起訴を回避するには、迅速に示談をまとめる必要があり、それには示談金の相場なども熟知している弁護士の知見が不可欠です。

重すぎる刑罰が科されないためにも、疑いがかけられた時点ですぐに弁護士に依頼してください。取り調べへの同行も可能です。わいせつ系の刑事事件に対応した経験が豊かな弁護士が、示談交渉も含めて対応にあたります。ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスまでご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています