夫や息子が痴漢容疑で逮捕!? 冤罪のとき家族が取るべき手続きを弁護士が解説
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名古屋市のサイトによると、名古屋市営地下鉄東山線は毎年度20件以上の痴漢申し出がある路線であるという報告があります。
痴漢冤罪を題材にした映画「それでもボクはやってない」(周防正行監督・平成19年公開)をご存じでしょうか。被疑者となった男性と弁護士が痴漢冤罪を晴らそうとする苦闘が描かれています。
ある日突然、警察から痴漢の被疑者として夫や息子を逮捕したと突然の連絡を受けたら、妻や母として、この先どうなるのかと不安にかられることでしょう。思わぬ長期間の身柄拘束を受けるなど、最悪の場合、冤罪であるにもかかわらず職を失う事態となることもありえます。
今回は家族が突然痴漢で逮捕された場合を想定し、痴漢冤罪にどう対処すべきか名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、痴漢の冤罪はどのように起きるのか
家族が痴漢で逮捕……にわかには信じがたいことでしょう。痴漢は、卑劣な性犯罪であることは間違いありません。しかし、痴漢の誤認逮捕や冤罪は後を絶たず、決してひとごととは言えないのです。
- 満員電車で身体が密着しただけだが、痴漢をされたと被害者が勘違いした
- 別の人と誤認して犯人扱いされた
- 犯人扱いされてその場から逃げようとするなど不適切な行動をとってしまった
このように、痴漢冤罪は、通勤ラッシュ時の混雑した車内など、面識のない人間が複雑な位置関係で密集する場合には、十分に起こりうるものと考えられます。
2、痴漢被疑者として逮捕された際の流れ
では、痴漢として逮捕されてしまった場合、どう対応したらよいのでしょうか。まずは逮捕されたとき、どのような手続きをとられるのかを知っておきましょう。
逮捕による身柄拘束については、刑事訴訟法により身柄拘束の期限や、その手続きが厳密に定められているのです。
「逮捕」とは、原則的に捜査機関が犯罪の証拠とともに裁判所に令状発布を申請し、これが許可されたときのみ可能となります。しかしながら、刑事訴訟法212条1項にいう現行犯人に当たる場合には、令状なしに逮捕することが認められています(刑事訴訟法第212条、第213条:いわゆる現行犯逮捕)。痴漢事件は、被害者や周囲の人々によって現行犯として逮捕される場合もあります。
逮捕後の対応を考えるための基礎知識として、手続きの流れを解説します。
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(1)逮捕と警察での取り調べ
痴漢で逮捕された場合、以降は警察で取り調べを受けます。警察は逮捕後48時間以内に、検察官へ事件を送致するか決定しなければなりません(刑事訴訟法第203条)。この段階で、弁護士を依頼する権利があることが警察官より告げられるでしょう。
逮捕から、検察官へ送致されてからの72時間は、証拠隠滅などを防ぐため、家族であっても面会ができないことが通常です。しかしながら、弁護士であれば自由に接見をすることが許されています。こちらに不利な調書を作られないためにも、弁護士と対応を相談しながら取り調べを受けることが重要です。弁護士が到着するまでは、一切答えないで待つことも一案です。
犯罪の事実がないと分かれば、嫌疑なしとして釈放されます。嫌疑が晴れないときは、検察官へ送致されます。 -
(2)検察官への送致
警察は事件を検察官へ送致する際、証拠隠滅や逃亡のおそれがある場合は被疑者の身柄ごと送致します。一方、これらのおそれがない場合は、「在宅事件扱い」として身柄は解放し、事件の捜査資料のみ送致するケースがあります。
検察官は被疑者の身柄送致を受けた後、24時間以内に、留置の必要があるかどうか判断しなければなりません。留置の必要があると判断した場合は、裁判官に対して「勾留(こうりゅう)請求」を行います(刑事訴訟法第205条)。 -
(3)勾留
裁判官に対して勾留請求がなされ、これが認められると10日間身柄を拘束され、取り調べや捜査が行われます。やむを得ない事由があると裁判官が認めるときは、勾留は検察官の請求により、10日間延長が可能であるため、最長20日間勾留される可能性があります。勾留決定後は、家族との面会が許可されるケースが多いと考えられます。
痴漢事件においては、逮捕はされても勾留が却下される事例が増えています。 -
(4)起訴・不起訴の判断と裁判へ
その後、成人の場合は、勾留期間内、もしくは取り調べが終わったとき、起訴か不起訴かの判断が下されます。起訴には、公判請求と略式請求がありますが、否認している場合には略式請求は考えられないでしょう。勾留中に公判請求をされたときは引き続き身柄が拘束され続ける(起訴後勾留)ことになります。しかし、起訴後は、保釈請求が可能です。
未成年であれば全件が家庭裁判所に送られ、その後の処遇が判断されます。
3、痴漢の冤罪を晴らすためには
たとえ冤罪であっても、それを証明することは一筋縄ではいきません。
弁護士は、まずは勾留を回避し、在宅事件扱いとなるよう目指します。在宅事件扱いとなれば、自宅に帰り日常生活を送りながら取り調べに応じることになるため、仕事や学業への影響は限定的となるでしょう。
引き続き、以下のような情報を集めたり、捜査機関に提示を求めたりすることで、無罪の主張、身柄釈放を求めていきます。
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(1)客観的な証拠を探す
誰が見ても明白な客観的証拠があるかどうかは、冤罪を晴らす上で非常に重要です。証拠として扱われるものには以下のようなものがあります。
●犯行の映像
犯行の映像があれば、非常に重要な証拠となります。バスの車内における痴漢事件で、防犯カメラの映像が無罪の重要な証拠となった事例もあります。電車であっても被害者や周囲の乗客がスマートフォンなどで動画を撮影している可能性もあります。
●付着物のDNA鑑定
被害者の着衣に被疑者のDNAが付着しているかどうかを調べることも可能です。もっとも、捜査機関により付着物のDNA鑑定が実施されていることがほとんどですし、弁護側で被害者着衣の付着物を入手することは実際には難しいと思われます。
●繊維鑑定など
被疑者の手もしくは指から被害者が着用していた衣類の繊維片が発見された場合、これも証拠となり得ます。ただし、捜査機関により繊維鑑定が実施されていることがほとんどですし、これが発見されなかったとしても、痴漢をしていない証拠にはならないとされることも少なくありません。
警察との取り調べがどのように行われているか、弁護士と確認しつつ対応を検討していくべきでしょう。物証は、検出されないことだけでは無罪の決定的な証拠とはなりえないのが、冤罪を晴らすことの難しさのひとつといえます。 -
(2)被害者や目撃者の供述妥当性を検証する
被害者は故意に触られたと感じたが、被疑者は偶然当たっただけだったり、痴漢の腕をつかんだつもりが、無関係な被疑者の腕をつかんでいたりする可能性も少なからず存在します。
そのため、関係者の供述が本当に正しいかどうか、具体的に当時の立ち位置を再現するなどの検証を求めていきます。
4、まとめ
家族が痴漢冤罪で逮捕という事態となれば、気が動転するのも無理はありません。しかし、逮捕されて身動きがとれない夫や息子を早期の身柄釈放に導くには、すぐに弁護士を依頼することが非常に重要です。
痴漢の冤罪を晴らすには、弁護士の知識と経験による綿密なサポートが必須です。近年は痴漢冤罪が社会問題化し、容疑を否認していても弁護士の適切なサポートによって勾留を免れるケースも増えてきています。
ご家族が痴漢冤罪にあってお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスにご相談ください。状況に応じ、迅速に対応策をご提案します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています