利息の代わりに性交渉「ひととき融資」は有罪? 個人間融資の違法性
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- ひととき融資とは
令和2年7月、愛知県内で複数のヤミ金業者が逮捕されたという報道がありました。「ひととき融資」もヤミ金業者が用いる手口のひとつとされうるもので、さまざまな違法性をはらんでいます。ツイッターなどのSNSや個人融資掲示板を用いて「ひととき融資」を安易に行うと、後日刑事・民事上の責任を負うことになりかねません。
本コラムではひととき融資で問われる可能性のある罪、および逮捕されてしまう可能性や、逮捕された際に取るべき対応についてベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、ひととき融資とは?
ひととき融資とは、あくまでもインターネット上の隠語であり、法律にこれを定義する条文等はありません。しかし、一時的な性交渉を行う代わりにお金を貸し付ける行為とされていることから、「性交渉を条件に行われる個人間の融資」といえるでしょう。
また、単純な個人間融資が全面的に禁止されているわけではないことは確かです。しかし、個人による融資を無登録で「業」として営んでいるとみなされれば、罪に問われます。「業として」とは、事業とみなされる状態と考えてよいでしょう。
さらに債務者(お金を借りている人)との性交渉を融資の条件としていた場合、刑事・民事ともにさまざまな責任を問われる可能性が高いといえます。
2、問われる可能性がある刑事上の責任
ひととき融資に対して問われる可能性がある、刑事上の責任について解説します。
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(1)貸金業法違反
日本で貸金業を営むためには、貸金業法第3条の規定により財務局や都道府県に登録する必要があります。同第11条の規定により無登録業者は貸金業の営業、いわゆる「闇金」行為は行ってはならないとされています。
もし登録をしていないのに「業として」貸金業を営んでいた場合、あるいは不正の手段で貸金業の登録を受けた場合は、同第47条の規定により10年以下の懲役もしくは3000万円以下(法人の場合は同第51条の規定により1億円以下)の罰金または併科となります。
また、取り立てに際して借り手と性行為があったことを第三者に知らせるような行為は、貸金業法第21条違反に該当します。有罪になったときは、同第47条の三の規定により2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が科されます。 -
(2)出資法違反
性交渉のほかに債務者から法外な金利を取り立てていた場合は、出資法違反に問われることになります。
仮に貸金業者ではない立場でお金を貸していたとしても、債務者と年109.5%(うるう年は109.8%、1日あたり0.3%)を超える契約を行っていた場合は、5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金が科されます。 -
(3)強制性交等罪
性交渉を拒否している債務者にそれを強制すると、刑法第177条に規定する強制性交等罪が成立する可能性があります。
強制性交等罪に科される量刑は5年以上の懲役であり、未遂にも適用されます。 -
(4)強制わいせつ罪
性交渉に至らない場合でも、わいせつ目的で債務者の体を触るなどの行為をすれば、刑法第176条に規定する強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
強制わいせつ罪に科される量刑は6か月以上10年以下の懲役であり、強制性交等罪と同様に未遂にも適用されます。 -
(5)売春防止法違反、淫行勧誘罪
融資を受けるために性交渉をすることを、売春の一環とみなすこともできます。売春防止法は、当事者たちを罰する法はありませんが、融資を受けることを条件として第三者との性交渉を仲介あるいは斡旋をした場合は、売春防止法第6条「売春の周旋」に該当する可能性が考えられます。
これに該当した場合は、2年以下の懲役または5万円以下の罰金、また、情を知って売春を行う場所を提供すれば、3年以下の懲役または10万円以下の罰金、さらにこれを業とした者には7年以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
さらに、営利目的で淫行(不特定の人との性交渉)の常習のない女性を勧誘して、性交渉をさせた場合も罪に問われます。具体的には、刑法第182条に規定する淫行勧誘罪が成立し、3年以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになるでしょう。 -
(6)児童買春・ポルノ禁止法違反、各都道府県の青少年育成保護条例違反
もし債務者が18歳未満であることを知りながら融資の対価として性交渉を行った場合は、児童買春・ポルノ禁止法違反、各都道府県の青少年育成保護条例違反などが成立する可能性があります。
これらが成立した場合、児童買春であれば5年以下の懲役または300万円以下の罰金、愛知県の青少年育成保護条例違反であれば、2年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることになります。
3、問われる可能性がある民法上の責任
民法第710条の規定により、ひととき融資という不法行為により債務者が精神的苦痛を追った場合は、被害者である債務者に対する損害賠償責任が生じる可能性があります。
また、行われたひととき融資が不法行為かつ公序良俗違反(民法第90条)とされた場合は融資契約が無効となり、さらに民法第708条の規定により融資金額の返還を求めることもできなくなります。
4、逮捕されたらどうなるのか
ひととき融資をすることによって逮捕されてしまう可能性は、十分にあるといえるでしょう。
逮捕には、主に、犯行中もしくは犯行時点で身柄の確保をされる「現行犯逮捕」と、捜査機関が裁判所に対して逮捕状発布の請求を行う「通常逮捕」、重大事件が起きた際に行われる「緊急逮捕」があります。ひととき融資の場合は、通常逮捕されるケースが多いでしょう。
逮捕されると、被疑者と呼ばれる立場となり、身柄の拘束を受けます。警察での取り調べで容疑が晴れなければ、48時間以内に検察へ送致されることになるでしょう。検察官は、送致から24時間以内に引き続き身柄拘束(勾留)をすべきかどうかを判断します。
「勾留(こうりゅう)」は、原則、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるときに行われる措置です。裁判所が勾留を認めた場合は、引き続き10日間、最長20日間もの間、身柄の拘束を受けたまま取り調べを受けることになります。つまり、逮捕されてから起訴されるまでだけでも、最長で23日間も身柄を拘束され続けることになるのです。
検察官は、勾留中であれば勾留期間が終わる前に、在宅事件扱いのときは取り調べが終わり次第、起訴または不起訴の処分を決定します。不起訴となれば、前科が付くことはありません。
起訴されると、被疑者から被告人と呼ばれる立場になり、裁判にかけられます。
日本における刑事裁判では、起訴されてしまうと非常に高い確率で有罪となります。つまり、起訴されれば、ほぼ前科がつくことになると考えておいた方が良いでしょう。
5、弁護士に依頼したほうがよい理由
ひととき融資をした容疑で逮捕される可能性がある場合は、すぐ弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は逮捕されてしまった方が不当に重い処罰を受けることを防ぐために、以下のような弁護活動を行います。
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(1)逮捕直後の面会
逮捕から勾留が決まるまでの最長72時間、被疑者は家族とも面会をしたり連絡を取ったりすることができません。逮捕された人やご家族の心境は、相当に不安なものでしょう。
ただし、弁護士であれば、接見禁止のあいだも職権で逮捕された人と面会できます。面会の際、今後想定される取り調べや黙秘権など、逮捕された人としての権利に関するアドバイスを行います。また、被疑者の状況をご家族にお伝えすることも可能です。 -
(2)適切な弁護活動を受けることができる
早期の釈放を目指すためには、「事件が軽微であること」、「被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがないこと」などを証明する必要があります。弁護士であれば、刑事事件弁護におけるこれまでの経験を活かし、被疑者に代わって客観的な事実を示しながら、捜査機関と早期釈放に向けた交渉を行います。
また、起訴されてしまったあとも弁護士は検察から求刑された刑の軽減に向け、被告人やそのご家族の立場に立って弁護活動を行います。 -
(3)被害者と示談交渉
示談とは、民事上あるいは刑事上の争いごとを、被害者と加害者の話し合いで解決することです。被害者へ財産的被害や精神的苦痛が生じている事件の場合、示談を成立させて被害者が損害を賠償し、被害者から許しを得ることができれば、早期の身柄釈放につながることがあります。
ただし、逮捕された本人はもちろん、被疑者の家族でも被害者と示談すること自体が難しいケースが多いものです。そもそも、捜査機関は加害者やその家族に、被害者の住所や連絡先を教えることはありません。したがって、相手の個人情報を知らない限り示談すらできない状況に陥ります。
しかし、弁護士であれば、早期に被害者と示談交渉を開始できる可能性を高めることができます。依頼を受けた弁護士は、被害者の心情を踏まえた示談交渉を行い、結果として前科のつかない処分を得ることが期待できるでしょう。
6、まとめ
ひととき融資をしてしまったことにより逮捕が避けられないと予想できるときは、早めに弁護士へ相談してください。早期釈放や刑の軽減を獲得するために、あなたにとって弁護士は頼りになり、そして心強い存在となるでしょう。
ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士は、今回の事件によって将来受ける可能性がある影響を最小限にとどめるよう、尽力いたします。ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています