コンビニで妻が万引きで逮捕!? 窃盗罪で逮捕されたとき家族がすべきこと
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平成29年12月、名古屋市中村区に隣接する大治町のコンビニで、業務中に534円相当の商品を万引きした名古屋市上下水道局員が逮捕されるという事件がありました。該当の局員には万引きで逮捕された前歴があったことから、最終的には裁判で窃盗罪の有罪判決が下されたうえ、停職6ヶ月の懲戒処分を受けています。わずかな金額の商品を万引きしたことにより、大きな社会的制裁を受けることになったわけです。
万が一、自分の家族が窃盗罪で逮捕されたら……。想像するだけでもぞっとしてしまうかもしれません。多くの方が、どう対処すればよいのだろうと困惑してしまうことでしょう。罪は罪として償うことは当然でも、できれば、将来に影響を残してしまう結末は避けたいものです。
そこで今回は、万引きとはどのような犯罪なのかという基礎知識をはじめ、窃盗罪で逮捕されたあとの流れ、家族としてできることについて名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、万引きは「窃盗」です!
「万引き」は、日常的に自分の周囲の人が引き起こす可能性がある、非常に身近ともいえる犯罪でしょう。そのせいか、冒頭の事件のように廉価な商品を万引きしたケースなどでは「それぐらいで……」と事態を軽くみる方も少なくないようです。
しかし、万引きは刑法第235条に定められている「窃盗」に該当する犯罪です。逮捕され、有罪が確定すれば、懲役刑が科され、刑務所で服役することになる可能性もあります。
2、精神疾患の可能性を知っておく
万引きをした経験がある人は繰り返し万引きをしてしまう確率が高いといわれています。冒頭に挙げた事件のケースでも万引きの前歴があり、「無意識にポケットに入れてしまった」などと供述していたと報道されています。
近年の研究では、クレプトマニア(窃盗症)と呼ばれる精神疾患があると考えられています。もしあなたの家族が、万引きを繰り返してしまう場合は、クレプトマニアである可能性を疑う必要があるかもしれません。
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(1)クレプトマニア(窃盗症)の特徴
かつて万引きなどの窃盗は、手持ちにお金がないからこそ行われる犯罪だと考えられていました。しかし最近では、財布にお金があるにもかかわらず、スリルを味わう目的や、孤独感を埋めるために万引きを繰り返すケースが増加していることがわかっています。
これらのケースの中には、依存症のひとつである「クレプトマニア(窃盗癖・窃盗症)」と診断されることがあります。つまり、万引きをやめたくてもやめられない状態にあるということです。
クレプトマニアは、ストレスや依存症が原因で発症するケースが多いことが知られています。精神科など専門機関によって、再び万引きをしてしまわないようにすることを目的としたカウンセリングなどの治療が行われています。 -
(2)家族がクレプトマニアの場合はどうすればよいのか?
もし、家族が万引きを繰り返す傾向があるときは、きっとあなた自身も大変疲弊しているはずです。
実際にクレプトマニアであるかどうかは、専門家でなければ判断できません。別の要因が隠れていることも考えられるため、素人判断は禁物です。すでに刑事事件などを通じて依頼している弁護士がいれば、専門家を紹介してくれることもあるでしょう。クリニックの受診を拒まれてしまう可能性もあるかもしれませんが、まずはあなたひとりでもよいので、専門家に相談することを強くおすすめします。
3、窃盗罪で有罪になったら?
万引きは、他人のものを盗み取る「窃盗」という犯罪です。自動車泥棒やひったくりやスリなど、代表的な「窃盗」とは手口が異なるだけで、窃盗であることには変わりありません。
よって、その他窃盗と同じく、刑法第235条に基づき、量刑が処されることになります。
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(1)窃盗罪の量刑
万引きによる「窃盗」容疑で起訴され、裁判で有罪判決を受けると、次の範囲で刑罰に処されます。
- 10年以下の懲役刑
- 50万円以下の罰金刑
具体的に刑罰が決められるときは、手口の計画性などの悪質度や被害額の大きさ、示談成立の有無、初犯かどうか、再犯防止対策の有無など、さまざまな事情が考慮されることになります。
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(2)執行猶予がつくことはあるのか?
「執行猶予(しっこうゆうよ)」とは、所定の刑罰に処するよう決まっていても、犯人の状況などを顧みて、一定期間の猶予を置き、その間罪を犯さなければ刑罰が免除される制度です。
万引きで有罪になった際、執行猶予がつくかどうかは、被害金額や行為の悪質さが影響します。万引きは、被害額が少ないケースが多数を占めます。有罪判決を受けたとしても、示談が成立していれば、罰金刑や執行猶予つきの懲役刑になる可能性も少なくないでしょう。
4、万引きで逮捕されるタイミングは?
「逮捕」とは、捜査などを目的に個人の身柄を一定期間拘束できる、特別な措置です。警察はいつでも逮捕できるわけではなく、憲法や刑事訴訟法で定められた方法で逮捕しなければなりません。
ここでは万引きにおける現行犯逮捕と通常逮捕について解説していきます。
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(1)その場で逮捕される「現行犯逮捕」
テレビなどで、私服の保安警備員が挙動の怪しい客を監視し、万引きしたことを確認して店を出た瞬間に捕まえるというシーンを見たことがあるかもしれません。このように、実際に罪を犯した現場や直後に身柄を拘束されることを、「現行犯逮捕」と呼びます。明らかに商品を盗んだ状況があり、緊急事態でもあるため、警察はもちろん、店員など一般の人でも身柄を拘束することを許されています。
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(2)逮捕状が発行されたら「通常逮捕」
本来、警察が事件を起こした疑いがある「被疑者」を逮捕する際は、逮捕状が必要です。逮捕状は、刑事訴訟法199条1項に基づき、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」、警察が地方裁判所に発行を求めます。つまり、ある程度の証拠がなければ逮捕できないともいえます。
万引きをしても、その場で逮捕されないこともあるでしょう。しかし、現行犯逮捕されなかったから逃れられたと思うのは早計です。防犯カメラの映像や車のナンバーなどが決め手となり、後日、逮捕状が発行されて通常逮捕されるケースも多々あります。
ただし、万引きの初犯であれば、突然逮捕されずに「取り調べのため、警察に来てください」などと呼び出されることもあります。素直に協力に応じた場合は、「在宅事件扱い」として捜査が進むため、留置場などに入れられずに済むこともあるでしょう。
なお、「在宅事件」とは、被疑者の身柄を拘束せず、捜査を進める事件のことを指します。被疑者は警察から呼び出されたときにだけ出頭して取り調べが行われ、起訴・不起訴が決められていきます。
5、万引きで逮捕されたあとのプロセス
万引きで逮捕されたあとは、まずは警察での取り調べが行われます。その後、状況に応じて検察官での取り調べが行われ、起訴されれば裁判となる……という流れで手続きが進みます。ここでは、逮捕されてから刑罰が決まるまでの詳細なプロセスを、段階ごとに説明します。
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(1)警察での取り調べ
万引きの「被疑者」として逮捕されたあなたの家族は、警察で身柄が拘束され、取り調べを受けます。被害額が少ない・示談が成立している・常習ではない・身元保証人がいるなど、一定の条件を満たせば、警察官の判断で「微罪処分」として釈放されることもあるでしょう。
しかし、被害額が大きい、常習犯、逃亡の危険性があるなどの判断がなされると、拘束が続く可能性があります。ただし、警察で身柄を拘束できる時間は刑事訴訟法第203条で定められています。警察は、逮捕後48時間以内に事件を次の段階に進めるかどうかを、取り調べを通じて判断します。 -
(2)検察での取り調べ
警察が、事件や被疑者の身柄を検察に送ることを「送致」と呼びます。送致を受けた検察は、再度被疑者への取り調べを行い、24時間以内に引き続き被疑者の身柄を拘束する「勾留(こうりゅう)」を行うべきかどうかを判断します。
逃亡の恐れや、証拠隠滅の可能性があると判断されたときは、検察は裁判所に「勾留請求」を行います。認められれば10日間から最大20日間、被疑者は身柄を拘束されたまま、取り調べを受けることになります。
なお、状況によっては「在宅事件扱い」として身柄を拘束せずに取り調べを行うこともあります。この場合、被疑者は自宅へ戻ることができますが、検察の呼び出しに応じて捜査に協力しなければなりません。 -
(3)裁判
検察は、被疑者を勾留しているときは勾留期間中に、在宅事件扱いのときは捜査が終わり次第、事件を「起訴」するか、「不起訴」にするかを判断します。
不起訴となれば、前科もつかず、事件の捜査からも解放されます。ただし、逮捕され捜査を受けた履歴である「前歴」は警察や検察に残ります。次回同じ罪で逮捕されたときは、処される刑罰が重くなる可能性があるでしょう。
起訴となったときは、「被疑者」は「被告人」と呼ばれる立場になります。「起訴」されたあとの手続きは、検察が請求した起訴内容によって異なります。
刑事裁判で罪を裁く「公判請求」となれば、刑事裁判が終わるまでは引き続き身柄を拘束され続けることになります。帰宅したいのであれば、保釈手続きを行い、認めてもらう必要があります。
一方、起訴請求の内容が「略式請求」であれば、すぐに帰宅できます。ただし、書類上のやり取りで刑罰を決められることになるため、罰金刑に処されることになるでしょう。
なお、日本の検察は、十分な証拠がそろわなければ起訴しないことが多いため、起訴されたときは99%以上の確率で有罪となります。
6、家族の将来を守る「示談」とは
「示談(じだん)」とは、事件の当事者同士が話し合い、事件解決をめざすことを指します。
万引きをした被疑者は、逮捕されてしまえば身柄を拘束されるため、自ら対応することができません。場合によっては、長期的に帰宅できないこともあり、生活に大きな影響を及ぼす可能性は否定できません。ましてや前科がついてしまえば、さらに将来まで影響を残すことになってしまいます。
できる限り、身柄の拘束を避け、不起訴をめざし、起訴されても軽い罪にしてもらうためには、家族が示談交渉の準備を行う必要があるでしょう。
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(1)示談の重要性とメリット
万引きのように被害者がいる刑事事件の場合、示談が成立しているかどうかが、事件の捜査時や裁判などで重要視されます。刑事事件で示談を行う際は、加害者が被害者に対して謝罪と損害賠償を行う一方で、被害者は「加害者を許し、処罰を望まない」という内容の「宥恕(ゆうじょ)文言」をつけてもらうことが一般的です。
示談を成立させるタイミングは、万引きしてしまったタイミングから早ければ早いほど大きな効果をもたらします。
まず、逮捕前に示談が成立すれば、被害届の提出を控えてもらえるため、そもそも逮捕されない可能性が高まります。また、逮捕されたあとでも、送致される前であれば「微罪処分」として釈放されることがあります。さらに、検察へ身柄を送致された段階でも、示談を成立させておくことによって、勾留を回避することや、不起訴を獲得できる確率が高まります。不起訴となれば釈放されて、前科がつくことはありません。 -
(2)示談の進めかた
万引きをした被疑者が逮捕された場合、家族もしくは家族が選任した弁護士が示談交渉を行うことになります。ただし、本人に代わって家族が示談交渉を行おうとしても、示談交渉は簡単なものではなく、示談に応じてくれない店舗もあるでしょう。
示談交渉は最初の対応を間違えてしまうとこじれてしまう可能性もあります。なお、万引きは窃盗罪です。示談を行う際は、まずは被害者への謝罪と、盗んだ商品代や損害賠償金を求められるケースが多々あります。しかし、不当に高額な賠償金を求められてしまうこともあり得ます。適正な交渉を行うためにも、早い段階で弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士に依頼することで、もし示談が成立しなかったとしても、交渉した事実を警察や検察に伝え、配慮してもらうことや、早期釈放や勾留の不服申し立てなどの早期釈放に向けた弁護活動を受けることもできます。
7、まとめ
今回は、「万引き」とはどのような犯罪なのか、その量刑や時効、窃盗罪で逮捕されたあとの流れ、万引きの示談の流れなどについて解説しました。
早期釈放をめざすためには、一刻も早く被害者との示談を成立させることが大切です。とはいえ、被疑者家族が示談交渉をしてしまうと、事件の当事者に近いもの同士の交渉となるため、難航してしまう可能性が高いようです。早い段階で、示談交渉の経験が豊富な弁護士に相談するようにしましょう。
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