売ってはいけない花や植物がある? 種苗法違反にあたる行為と罰則
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令和5年6月、フリマアプリ「メルカリ」で、種苗法に定められている登録品種を出品するユーザに向けた注意喚起が発表されました。なお、愛知県農業総合試験場が登録中の品種は、愛知県のホームページ一覧表で掲載されています。令和5年5月の段階で品種登録されているのは、きく・カーネーション・トマト・稲など全40品種です。これらの品種をはじめ、種苗法で保護された品種を登録者の許諾なしで販売すると種苗法違反となります。
注意喚起されている通り、ネット上などで簡単に販売できてしまうため、安易に個人売買をしてしまう人も少なくありません。しかし、令和4年4月1日に改正種苗法が完全施行されたため、新たなルールに違反しないよう注意が必要です。
このコラムでは『種苗法』の概要や禁止行為について、改正後の注意点などを交えながら、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、種苗法とは?
『種苗法』(しゅびょうほう)という法律について、初めて聞いた、あるいは聞いたことはあるが、どのような法律なのかは分からないという方が大半でしょう。まずは種苗法がどのような法律なのかを確認していきましょう。
● 種苗法の目的
種苗法は、農林水産植物の新品種を保護するための品種登録や、指定種苗の表示についての規制を定めた法律で、品種の育成振興と流通の適正化を図る目的で制定されました。
この法律でいう『指定種苗』とは、冒頭の事例のような苗に限らず、種子・胞子・茎・根・苗木・穂木・台木・種菌なども含まれます。
種苗法では、「重要な形質にかかる特性の全部または一部によってほかの植物体の集合体と区別することができ、かつ、その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる」(種苗法第2条)ものを『品種』と定義しています。
● 品種登録をした場合のメリット
新しい品種を育成し、種苗法による『品種登録』を受けると、知的財産のひとつである『育成者権』が付与され、登録品種の種苗、収穫物、加工品の販売等を独占できることになります。
具体的には、品種登録を受けた品種を無断で生産・販売されていればこれを差し止めたり(種苗法33条)、損害賠償を請求したりすることが可能となります。また、後述するように、育成者権を侵害する行為に対し、刑事罰を設けることでも保護されています。
出願、審査を経て合格すれば品種登録される、育成者権には存続期間がある(品種登録の日から25年、木本性の植物については30年)という点で、特許権と非常によく似た制度です。
さらに、育成者権者との契約により、他者が登録品種を業として使用できるようになる『通常利用権』(種苗法26条)や、独占的に利用できる『専用利用権』(種苗法25条)の設定が可能という点にも共通点があるため、種苗法は「植物の特許」とも呼ばれています。
2、種苗法で禁止されている行為と罰則
種苗法において禁止されている行為は次の6つです。
● 侵害の罪(第67条)
育成者権、または専用利用権を侵害する行為は処罰の対象になります。
育成者権者の許諾を受けずに業として利用すると、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(法人の場合は3億円以下)、またはこれらの両方が科せられます。
「業として」の利用に限られるため、家庭菜園で観賞用や自家消費用として栽培する行為は侵害罪の対象外です。
● 詐欺行為の罪(第68条)
詐欺の行為によって品種登録を受けた場合も刑罰の対象です。
3年以下の懲役または300万円以下の罰金が規定されています。
● 虚偽表示の罪(第56条・69条)
登録品種ではない品種の種苗について、種苗や包装などに登録品種であると偽って表示する、または紛らわしい表示をする行為は、虚偽表示として処罰の対象となります。
広告などにも、登録品種であるかのような表示をしてはいけません。
法定刑は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金です。
● 秘密保持命令違反の罪(第40条・70条)
育成者権や専用利用権の侵害に関する訴訟において、対象となっている品種の秘密にかかる情報を公開の訴訟の場で明らかにしなければならない場合に、当事者の申し立てにより、裁判所の決定で、『秘密保持命令』が下されることがあります。
秘密保持命令を受けるのは、訴訟の当事者や代理人・補佐人です。
秘密保持命令が下された場合、これらの者が訴訟追行以外の目的で秘密を使用・開示すると、秘密保持命令違反の罪が成立します。
日本国外において秘密を漏らした場合も処罰の対象です。
違反者には5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれらの両方が科せられます。
なお、秘密保持命令違反の罪は、被害者の告訴がないと検察官が起訴できない『親告罪』です。
● 虚偽の表示をした指定種苗の販売などの罪(第59・60・71条)
指定種苗を販売する際は、種苗業者の氏名や名称・種類および品種・生産地・種子の採取年月日、有効期限、発芽率・数量などを表示しなければなりません。
生産地の表示は、国内であれば都道府県名、国外であれば国名が必須です。
表示義務に違反した種苗業者に対して、農林水産大臣は、表示内容の変更や販売禁止を命じることができます。
これらの表示義務に違反し、虚偽の表示をした指定種苗を販売する行為や、農林水産大臣の命令に背いて指定種苗を販売する行為には、50万円以下の罰金が科せられます。
● 虚偽届出などの罪(第58条・62条・63条・65条・72条)
指定種苗を販売する種苗業者は、農林水産大臣に対して氏名または名称・住所・取り扱う指定種苗の種類などを届け出なくてはなりません。
変更が生じた場合でも、2週間以内の届け出が必要です。
また、種苗業者は、農林水産省による検査が実施される際は、指定種苗の『集取』を受け入れなければなりません。
さらに、農林水産大臣より、種苗法の施行に必要な限度において、業務に関する書類や帳簿などの提出を求められた際も、これを拒否できません。
無届けや虚偽の届け出、検査に際する集取の拒否や妨害、報告や書類提出の拒否、虚偽書類の提出などには、30万円以下の罰金が科せられます。
3、改正種苗法のポイント
種苗法は、令和2年12月に改正法が成立し、同月9日に公布されました。
令和3年4月と令和4年4月にそれぞれ施行されている変更点について、特に重要な2点を確認しておきましょう。
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(1)栽培地域・輸出先の指定が可能になる
令和3年4月から、指定地域外の栽培制限と海外への持ち出し制限が設けられています。
この改正は、国の研究機関が開発までに33年の歳月を要したブドウの新品種『シャインマスカット』が中国・韓国・東南アジアへと流出した事例のほか、いちご・さくらんぼ・いぐさなどの登録品種も海外へと流出してしまった件が大きく影響しています。
この改正によって、育成者権者が出願時に利用する条件を付した場合は、国内利用の限定や、国内における栽培地の限定、輸出先の指定が可能になりました。
種苗業者や農業者が利用条件に反した場合は育成者権の侵害となり、第67条の違反として10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらの両方が科せられます。 -
(2)『自家増殖』も開発者の許諾が必要になる
令和4年4月からは、登録品種の『自家増殖』についても、育成者権者の許諾が必要、と変更されました。
自家増殖とは、種を採取する、接ぎ木をするなどによって、収穫物から次の世代を生み出す行為をいいますが、改正法が施行されたことにより育成者権者の許諾を受けない自家増殖は育成者権侵害とみなされます。
罰則は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらの両方です。
もちろん、農業者からは「負担が増大するのではないか」との懸念があります。
しかし、国の見解では、許諾を要する登録品種の割合は全体の1割程度に過ぎず、公的機関が開発した品種が多いため、許諾料や許諾を得るための手続きは農業者に負担がかからないかたちに整備される見通しであるとのことです。
4、種苗法違反にならないためには弁護士への相談を
種苗法に違反してしまうケースのなかには、登録品種の名をかたって大きな利益を得ようとする悪質なものもあれば、単純な勘違いや農業への向上心から図らずも違法となってしまう事例もあります。
令和3年以降は法改正によって新たな規制も加わるため、特に注意が必要となるでしょう。
種苗法に違反してしまう事態を回避するためには、種苗法の規定を十分に理解することに加えて、知的財産権に関する知識も必要です。
新たに販売をはじめようとする品種が登録品種にあたらないか、包装などの表示に問題はないか、生産や増殖の方法に違反がないかなどに不安を感じるなら、農林水産省などの関係機関に確認したり、弁護士に相談してアドバイスを受けたりしましょう。
5、まとめ
果物や野菜といった農作物に限らず、花や緑化植物などのなかには、種苗法に基づく育成者権によって保護されているものがあります。
無許可での販売や栽培は違法となるおそれがあるので注意が必要です。
特に、ネットオークションなどを利用したインターネット販売は、育成者権者などの目にとまりやすく、違法であることを指摘されて刑事事件に発展した実例が複数あります。場合によっては実名報道がされてしまうこととなり、実生活やご家族に大きな影響を及ぼしてしまう可能性は否定できません。
種苗法の規定に違反していないか不安を感じる場合や、すでに刑事事件に発展してしまったような場合には、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスにご相談ください。種苗法に照らして適法であるのかを精査し、適切なアドバイスとサポートを提供します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています