大麻所持容疑で初犯の少年でも逮捕される? 処分や手続きの流れとは
- 薬物事件
- 大麻
- 初犯
愛知県警察が公表する「少年非行統計 特別法犯少年」によると、令和4年に愛知県内で大麻取締法違反をした少年は62人でした。
大麻などの違法な薬物については、入手ルート特定の捜査に支障があることから、逮捕されても公表されないケースがあります。そのため、一般の社会生活の中では大麻の存在さえ全く感じていない人が多数です。しかし、大麻の脅威はみなさんの生活の間近にあり、多感な未成年者(少年)が手を出してしまうことも少なくありません。
令和4年には、厚生労働省によって大麻取締法の改正方針がまとめられました。今後、大麻使用罪が創設されるなどの法改正が施行される可能性があり、これからの動向にも注目です。
本コラムでは、未成年者(少年)が大麻所持による大麻取締法違反で逮捕された場合の処分・手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。
1、大麻取締法とは?
大麻と聞くと、ぼんやりとでも「違法な薬物」というイメージがあるでしょう。実は、大麻は「大麻草」と呼ばれる植物で、自然界では数多くが自生しています。道端や野原などでは、風で運ばれた種子が発芽し、堂々と成長していることもあるくらいです。日本では古来より大麻草を利活用してきました。たとえば神社のしめ縄を作る麻ももとは大麻草ですし、七味唐辛子にもその実が使用されています。
ところが、大麻草は、乾燥させてタバコのように吸引したり、植物油として精製したものを吸引したりすれば強い快楽感を得ることができる「麻薬」の一種です。離脱時には激しい倦怠(けんたい)感を伴うだけでなく、中毒性が高いため、頻繁に使用していれば強い幻覚症状や記憶障害を引き起こすことがあります。そのため、日本では「大麻取締法」によって管理が厳しく制限されています。
この法律では「大麻」について、大麻草およびその製品と示されており、大麻樹脂もこれに含むとされています。一方で、成熟した茎や種子は規制から除外されています。香辛料などに含まれる大麻は、成熟した種子を原料としているため違法にはなりません。
大麻取締法では、生産・流通・研究のためを除いて、次の4類型を禁止しています。
- 所持
- 譲受
- 譲渡
- 栽培
ご覧のとおり、覚せい剤などでは禁止されている「使用」が対象外になっています。これは「使用は禁じない」という意味ではなく、意図的に吸入したのか、自然界のものを吸入したのかが判別できないためです。
「大麻は使っても捕まらない」という誤った情報で大麻に手を出してしまう人がいますが、大麻の使用が判明すれば、裁判所の許可によって捜索差し押さえを受ける可能性があります。当然、「吸入はしていたけれども、譲り受けてもいないし栽培もしていないし、持ってもいなかった」という言い訳は通用しません。たとえ衣服のポケットなどに入っていたわけではなくても、自室などから発見されれば「所持」とみなることに注意が必要です。
なお、令和4年から大麻取締法の法改正に向けた動きがあり、今後、大麻使用に対する「使用罪」が創設される可能性があります。
2、大麻を所持していた場合の刑罰
大麻取締法において禁止されている行為の罰則を見ていきましょう。
この法律では、禁止されている行為の「目的」を重視しています。具体的には「個人使用<営利目的」という考え方です。興味があって自分が使用するために手を出したことと、誰かに販売して利益を得ようとしたこととでは、同じ行為でも罰則に差があることを覚えておきましょう。
-
(1)法で定められた罰則は?
大麻取締法で定められた罰則は、「大麻をどのようにする目的があり、何をしたか?」によって大きく異なります。前述のとおり、個人使用よりも営利目的の場合のほうが、重い罰則を処されることになります。
- 個人使用目的の所持、譲受、譲渡……5年以下の懲役
- 営利目的の所持、譲受、譲渡……7年以下の懲役、情状によって罰金200万円を併科
- 個人使用目的の栽培、輸出入……7年以下の懲役
- 営利目的の栽培、輸出入……10年以下の懲役、情状によって罰金300万円を併科
さらに、流通ルートの根源となる栽培や輸出入は、単純な所持などよりも重く処断されることになるでしょう。
なお、「懲役」は刑務所で服役する自由を制限する刑で、罰金は財産を徴収される刑です。大麻取締法違反で起訴された際は、原則「懲役」刑が科せられることになるため、「公判(こうはん)」と呼ばれる、一般の人でも傍聴できる刑事裁判で罪を裁かれ、量刑が決められることになります。 -
(2)初犯の場合の量刑は?
大麻取締法違反で有罪判決を受けたとしても、同じ罪で初めて逮捕・起訴されたという初犯であれば、執行猶予つき判決が下されるケースが少なくありません。「執行猶予(しっこうゆうよ)」とは、簡単にいうと、裁判で定められた期間内、その他の罪を犯さず、まじめに生活すれば、刑の執行が免除されるものです。
ただし、初犯であっても、以下のケースでは執行猶予がつかないこともあります。- 個人使用と主張するにはあまりにも大量の大麻を所持していた
- 明らかに営利目的である
- 乾燥大麻よりも成分濃度が高い樹脂を大量に所持していた
これらのケースでは、より罪が重いと捉えられるため、たとえ初犯でも実刑判決を受ける場合があります。「初犯だから必ず執行猶予がつく」と考えるべきではないでしょう。
3、大麻取締法違反で逮捕される場合の流れ
大麻取締法違反で逮捕されるときは、警察官の職務質問によって所持が判明し、その場で「現行犯逮捕」されるケースが少なくありません。しかし、冒頭の事例で紹介したように、後日の捜査によって大麻の所有者を特定され、後日、裁判所が発布する逮捕状によって「通常逮捕」されることもあります。
通常、成人が大麻取締法違反の容疑者として逮捕されたときにとられる、手続きの流れは次のとおりになります。
- 逮捕(たいほ)……留置場など、警察施設において身柄拘束を受けながら取り調べを受ける。逮捕から48時間以内に、検察庁への身柄引き渡しを行うべきか判断する。
- 送致(そうち)……検察へ身柄と事件資料を送る。送致を受けた検察官は、再度取り調べを行い、起訴か不起訴かを判断する。
- 勾留(こうりゅう)……検察は、送致から24時間以内、逮捕から72時間以内に、引き続き身柄を拘束する「勾留」を行うか、釈放するかを判断。裁判所が勾留を認めたとき、原則10日間、延長によって最長20日間の身柄拘束が続く。
- 起訴……検察官は、勾留期間が満期を迎えるまでに、刑事裁判を提起するか否かを決定する
- 被告人勾留……起訴された場合、引き続き身柄拘束を受ける
- 公判……刑事裁判によって、刑罰が問われる
4、未成年の少年が逮捕されてしまった場合の流れ
20歳未満の未成年のことを、刑事手続きの上では男女問わず「少年」と呼びます。少年が事件を起こしたときは、成人と異なった手続きを受けることになります。
まず、刑法41条において「14歳に満たない者の行為は、罰しない」と明示されていることから、14歳未満の子どもが大麻を所持していたことが明らかであっても、罰せられることはありません。しかし、その身柄は保護され、児童福祉法による処置が原則として行われます。
他方、14歳以上であれば、未成年であっても、初犯であっても、逮捕される可能性があります。ただし、勾留が始まってから身柄を拘束される場所が、警察施設ではなく少年鑑別所になることがあります。
大きく異なるのは「起訴」からです。被疑者が未成年の子どものときは、原則、起訴されることはありません。なぜなら、未成年の子どもが起こしてしまった「少年事件」では、処罰を目的として処分を下すわけではなく、あくまでも、少年の更生を目的とした対応を行っているためです。
そのため、少年事件では、捜査が終結すると、全て家庭裁判所へと送致されます。
家庭裁判所では、少年の更生のために、どのような処遇を施すのが適切かを検討します。検討の結果、少年本人を交えて処遇を決定する必要があると認められた場合は「審判」が開かれます。
審判の結果、少年の更生にもっとも適切だと考えられる処遇が、次の中から決定します。
- 不処分……処分なし
- 保護観察……家庭で生活しながら保護司の面談などを通じて更生を図る
- 児童自立支援施設、児童養護施設送致……家庭環境などに問題があり、家庭に戻すことが不適切な場合の更生措置
- 少年院送致……家庭や社会では更生が難しいと判断される場合、少年院で更生教育を施す
- 知事、児童相談所長送致……18歳未満で児童福祉法による措置が妥当と判断された場合
- 検察官送致……殺人などの凶悪事件の場合、成人と同じく刑罰を下すために検察官に逆送致する
少年の場合、懲役刑や罰金刑に処されることはありませんが、更生のために家庭や学校などの社会生活から隔離される可能性があります。
5、未成年が逮捕された場合の家族の対処法
もし、ご自身の未成年の子どもが大麻取締法違反の容疑で逮捕された場合は、いち早く弁護士を依頼することをおすすめします。
まず、逮捕から勾留決定までの72時間は、たとえ家族であっても面会することはできません。面会ができるのは、自由な接見交通権を持つ弁護士だけです。弁護士を依頼することによって、逮捕されてしまい心細くなっている少年に対して、家族からの言葉を伝えるとともに、安心感と、取り調べに臨むにあたってのアドバイスをすることができます。
また、弁護士を選任していれば、更生のための処遇が軽くなることも期待できます。少年自身の反省文や家族の上申書などによって、家庭における更生が十分に可能であることを主張したり、審判の場に付添人として参加してもらったりすることで、処遇が軽くなるよう働きかけることができます。
さらに、学校や職場などと掛け合い、逮捕がその後の社会生活に悪影響を及ぼさないように配慮してもらうことも弁護士の仕事のひとつです。
なお、大麻取締法違反で処遇を軽くするための重要な項目のひとつとして挙げられるのが「再犯防止」です。特に大麻事件に関しては依存性や周囲の人間関係などが複雑に関与しているものです。本人と家庭だけでなく、専門家のアドバイスも必要となるシーンが多々あるでしょう。弁護士の紹介によって親子で専門機関でのカウンセリングに通うなど、具体的な再犯防止計画を立てることで「家庭での更生が可能」という評価につながります。
6、まとめ
大麻は、意外と手軽に入手できてしまう可能性が高い上に「違法ではない」「逮捕されない」などの誤った情報が流布されています。未成年者である子どもはこの誤った情報を信じてしまう傾向が強く、誘われるがまま大麻に手を出してしまい、逮捕されてしまうケースが少なくありません。
未来がある子どもだからこそ、大麻の危険から遠ざけるべきです。もし、ご自身の未成年の子どもが大麻取締法違反容疑で逮捕されてしまったら、早急に弁護士に相談しましょう。初犯であれば、二度と同じ過ちを起こさないよう、しっかりとしたケアも必要となります。
ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスでは、「家族が大麻取締法違反容疑で逮捕されてしまった」という方が抱える不安を、刑事事件や少年事件の経験・知見豊富な弁護士が、適切にサポートします。万が一、あなたの子どもが逮捕されてしまったら、迷わず、できるだけ早いタイミングでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています