覚せい剤で逮捕されたらどのような刑罰を受ける? 弁護士が解説します
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愛知県警察の統計によると、令和2年覚醒剤で検挙された人は710人でした。平成26年には978人が検挙されましたが、それ以降は減少傾向にあり、令和2年の人数は、ここ10年で最も少ない人数です。
覚せい剤事件は社会に及ぼす影響が大きいだけでなく、一度手を染めて中毒の状態になった者の更生は容易ではありません。そのため、警察も厳しい態度で取り締まりにあたっています。
もし家族が覚せい剤を所持していた疑いで逮捕された場合、身内に何かできることはあるのでしょうか? 逮捕後の流れ、および被疑者とその家族が取るべき対応について、名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、覚せい剤取締法に違反したときの罰則
覚せい剤取締法に違反したときの罰則は、所持目的や理由により変わります。
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(1)利用目的で所持していた場合
覚せい剤を所持し、譲り受けたり、譲り渡したりすると、10年以下の懲役に科せられます。
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(2)覚せい剤を輸入・輸出・製造した場合
覚せい剤を輸入・輸出・製造したときは、1年以上の有期懲役が科されます。
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(3)営利目的で覚せい剤を所持した場合
売買して利益を得るために覚せい剤を所持し・譲り受け・譲り渡しを行った場合の罰則は、1年以上の有期懲役となり、情状により500万円以下の罰金もあわせて科せられます。
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(4)営利目的で覚せい剤を輸入・輸出・製造した場合
無期もしくは3年以上の懲役、また1000万円以下の罰金があわせて科されます。覚せい剤を営利目的で所持し、輸入しようとすると、有罪となった場合は、罪が非常に重くなります。
2、量刑の判断基準
覚せい剤で逮捕された場合、裁判の結果決まる量刑は、下記の基準を考慮し判断されます。
●薬物犯罪の回数
裁判では、過去にも薬物犯罪による前科があるかどうかが重視されます。初犯で前科がない場合は、執行猶予付きになることが多いようです。もし、執行猶予付き判決が下った場合は、判決により定められた期間、罪を犯さず日常を過ごすことができれば、実際に刑務所に収監されることはありません。
しかし、犯行の内容が悪質とみなされたときは、初犯であっても執行猶予がつかない場合があります。その場合は、そのまま刑務所で服役することになるでしょう。
●使用量や使用期間、依存度・再犯の可能性
使用していた覚せい剤の量や使用期間はもちろん、覚せい剤への依存度がどの程度なのかが、量刑判断に大きく関係します。また、家族の有無も影響します。薬物依存から立ち直り、再犯を防ぐために家族の協力が得られるかどうかが、量刑判断に大きく影響するためです。
なお、前述のとおり、犯行内容が悪質でない限り初犯で実刑判決が出るケースはあまりありません。しかし、再犯の場合や執行猶予中である場合は、実刑判決となる可能性が高くなります。
3、覚せい剤事件の特徴
覚せい剤事件は、誰かを直接傷付けることがない「被害者のいない犯罪」です。このため、他の刑事事件と異なる特徴を持っています。
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(1)示談ができない
被害者のいる犯罪であれば、交渉して示談をすることが可能です。しかし、被害者が存在しなければ交渉する相手がいません。したがって、示談による減刑や、起訴の回避を期待することができません。
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(2)原則勾留される
覚せい剤取締法違反であなたの家族が逮捕されたら、まずは被疑者として警察で身柄の拘束を受けるでしょう。警察からは48時間以内に検察に送致され、さらに検察官が身体を拘束しての捜査が必要であると判断した場合は、24時間以内に、裁判官に対して勾留の請求をします。これが裁判官に認められますと最大で10日間の勾留がされます。勾留は延長される場合もあり、その場合は最大で20日間勾留されることになります。
つまり、逮捕されると、起訴前は最大約23日間、身柄を拘束される可能性があるのです。特に、覚せい剤事件で逮捕された場合、逮捕・勾留から逃れることは非常に難しいと考えられます。
逮捕直後には家族も会うことはできませんので、被疑者は精神的にも不安になることでしょう。しかし、弁護士なら接見(面会)することが可能です。弁護士に相談することで、状況の見極めや事実の整理をすることができ、その上で、今後の対応と弁護方針を決めることもできます。
もし、あなたの大切な方や家族が被疑者となった場合は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめいたします。
4、覚せい剤事件の対処法と弁護方針
覚せい剤事件の場合、罪を認めるか認めないかで大きく弁護方針が変わります。目的と、取るべき行動について知っておきましょう。
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(1)罪を認める場合
罪を認める場合、弁護の目的は逮捕・勾留後の身柄の解放(準抗告や勾留の取り消し等)や起訴後の保釈、執行猶予の獲得、および減刑になります。
●早期の保釈のために
証拠隠滅の可能性が高い被疑者が保釈されることはありません。真摯(しんし)な態度で捜査に協力し、反省の態度を示しましょう。逮捕前であれば、自首することで早期釈放を期待できる可能性もあります。
また覚せい剤は依存性が高いため、再犯の可能性が高く、安易な保釈を認めない裁判官も多いです。裁判官に納得してもらうため、再び覚せい剤に手を出さないよう、被疑者をしっかりと監督できる「身元引受人」をつけることで、起訴後の早い時期に保釈を目指すことが可能です。
●執行猶予の獲得
事件の全容解明、捜査の助けになるよう話をすることで、執行猶予が得られる可能性があります。覚せい剤の入手ルートについて知っていることをすべて話して捜査を助け、執行猶予の獲得を目指します。 -
(2)無罪を主張する場合
無罪を主張する場合、犯罪の意図がなかったことを証明するか、捜査手続きに違法があったと主張することになります。
●故意の所持でなかったことを証明する
覚せい剤を所持して現行犯逮捕されたケースでも、それが覚せい剤ではないと思っていた場合は、覚せい剤所持の罪には問われません。しかし、覚せい剤かもしれないと疑って使用した場合などは、故意があったとして罪に問われます。
●証拠収集の違法性を根拠に無罪を主張する
違法捜査による押収品は証拠として提出することができない場合があります。このため、証拠品の収集方法の違法性を元に、無罪を主張する方法があります。
たとえば、被疑者が拒絶しているのに警察官が令状なしに被疑者の自宅に入り、室内を探索して覚せい剤を発見し、証拠とし持ち帰った場合は、違法捜査になります。しかし、このような方法で無罪を主張する場合、非常に専門的な知識が必要となります。通常は捜査方法の違法性を指摘することすら、思いつかないでしょう。
そのようなとき、弁護士ならば被疑者から話をきくことで、証拠を集めて無罪の主張をすることができます。また、被疑者に頻繁に接見し、捜査機関からの厳しい取り調べに対して安易な対応をしないよう、継続的にサポートすることができるでしょう。
5、まとめ
覚せい剤取締法違反に限らず、刑事事件での基本的な流れは、逮捕、勾留、場合によってはさらに勾留延長と続きます。逮捕後は起訴に必要な証拠を手に入れようとするため、警察による厳しい取り調べを受けることが予想されるでしょう。
だからといって、逮捕される前に逃亡や証拠を隠滅しようとすると、より量刑が重くなる可能性が高まります。万が一、あなたの家族が覚せい剤を所持していることを知ったときは、まずは弁護士にご相談ください。もっともよい解決策を一緒に考え、アドバイスを行います。
家族が覚せい剤や薬物関連で逮捕される可能性があり不安をお持ちの方や、実際に逮捕されてしまったときは、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスへ連絡してください。覚せい剤事件に対応した経験が豊富な弁護士が全力で迅速なサポートを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています