配偶者がいない場合の相続注意点|相続人と相続財産の取り扱い方
- 遺産を残す方
- 相続人
- 配偶者なし
令和2年国勢調査の人口等基本集計結果によると、名古屋市の一般世帯のうち世帯員が1人だけの単独世帯は50万5343世帯で、一般世帯の45.3%を占めています。単独世帯の割合は、年々上昇していますので、今後も単独世帯の世帯数が増えていくことが予想されます。
ライフスタイルの多様化から、生涯独身で過ごす方、また、離婚や配偶者に先立たれたなどの理由から、単身生活をしている方も多いのではないでしょうか。こうした配偶者がいない方の増加に伴い、相続時に誰が遺産を受け継ぐのかという問題やトラブルが増えています。
今回は、配偶者がいない方に向けた相続の基礎知識や注意点、生前にしておくべき準備などについて、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、配偶者がいない人が亡くなった場合の相続順位と相続分
配偶者がいない人が亡くなった場合には、誰がどのような割合で遺産を相続することになるのでしょうか。以下では、ケース別に相続順位と相続分を説明します。
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(1)子どもがいる場合
被相続人に配偶者がいなくても子どもがいるということはあり得ます。
被相続人に子どもがいる場合には、子どもが第1順位の相続人になりますので、子どもが被相続人のすべての遺産を相続することになります。
子どもが複数いる場合には、子どもの人数に応じて遺産を分けることになります。たとえば、被相続人に2人の子どもがいる場合には、各2分の1の割合で遺産を相続します。 -
(2)子どもがおらず両親がいる場合
被相続人に子どもがおらず両親が健在という場合には、被相続人の両親が第2順位の相続人として被相続人のすべての遺産を相続することになります。
被相続人の父および母が2人とも健在という場合には、各2分の1の割合で遺産を相続します。 -
(3)子ども・両親がおらず、兄弟姉妹がいる場合
被相続人に子どもがおらず、両親もすでに他界しているが、兄弟姉妹がいるという場合には、第3順位の相続人として被相続人の兄弟姉妹が被相続人のすべての遺産を相続することになります。
兄弟姉妹が複数いる場合には、兄弟姉妹の人数に応じて遺産を分けることになります。たとえば、被相続人に兄と妹がいる場合には、各2分の1の割合で遺産を相続します。
また、兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡しており、兄弟姉妹に子ども(被相続人の甥・姪)がいる場合には、代襲相続によって、被相続人の甥・姪が相続人になります。代襲相続人は、本来の相続人である兄弟姉妹の法定相続分をそのまま引き継ぐことになります。 -
(4)相続人がいない場合
被相続人に子ども、両親、兄弟姉妹がいない場合、いたとしても全員が相続放棄をしてしまった場合には、被相続人の遺産を相続することができる相続人は誰もいない状態となります。
このような場合には、利害関係人などが家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立を行い、最終的には被相続人の財産は、国庫に帰属することになります。
2、相続人がいない場合の相続財産の取り扱い
相続人が誰もいない場合には、被相続人の相続財産は、以下のように取り扱われます。
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(1)遺言によって指定された人に承継される
被相続人が死亡した場合には、被相続人の法定相続人による遺産分割協議によって遺産を分けることになります。
しかし、被相続人が遺言書を作成していた場合には、遺産分割協議よりも遺言書が優先されるため、遺言書に従って遺産を分けることになります。
遺言書を作成することによって、相続権のない第三者に対しても遺産を渡すことができます。法定相続人が誰もいないという状態であれば、第三者にすべての遺産を渡してしまったとしても、相続人から遺留分侵害額請求を受けるおそれもありません。
お世話になった方などがいる場合には、その人を遺産の受取人に指定した遺言書を作成しておくとよいでしょう。 -
(2)借金の返済に充てられる
被相続人に借金があるような場合には、その債権者は、被相続人の遺産を相続した相続人に対して借金の返済を求めていくことになります。
しかし、相続人がいない場合やすべての相続人が相続放棄をしてしまった場合には、借金の返済を求める相手がいなくなってしまいます。このような場合には、債権者が家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任申立をすることがあります。
家庭裁判所によって相続財産管理人が選任されると、必要な公告手続きが行われ、公告期間内に申し出のあった債権者に対して相続財産から弁済が行われます。 -
(3)特別縁故者に承継される
特別縁故者とは、被相続人に法定相続人がいない場合に、一定の条件を満たすことによって、特別に被相続人の遺産を取得することができる人のことをいいます。
特別縁故者は、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。- 被相続人と生計を同じくしていた人
- 被相続人の療養看護に努めた人
- その他被相続人と特別の縁故があった人
また、特別縁故者が相続財産を取得するためには、家庭裁判所への「相続財産管理人の選任申立」と「特別縁故者に対する相続財産分与の申立」が必要になってきます。
特別縁故者の申立てをすれば必ず相続財産を取得することができるというわけではありませんので注意が必要です。 -
(4)国庫に帰属する
相続財産管理人によって、債権者への返済や特別縁故者への財産分与が行われても、なお相続財産に余りがある場合には、最終的には、その財産は国庫に帰属することになります。
3、生前にしておくべき相続準備
配偶者がいない方は、生前に以下のような相続準備をしておくことをおすすめします。
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(1)相続人の把握
配偶者がいない方の場合には、第1順位から第3順位までの相続人が相続順位に従って遺産を相続していくことになります。
誰にどのような割合で遺産が相続されるのかがわからなければ、相続対策を考えることができませんので、まずは、ご自身が亡くなった場合の相続人の範囲を把握することが大切です。
子ども、両親、兄弟姉妹に連絡をとって、現在の状況を確認してみるとよいでしょう。 -
(2)相続財産の把握
配偶者がいない方の場合には、ご自身ですべての財産を管理していることが多いでしょう。そのような状態で亡くなってしまうと、残された家族としては、どこにどのような財産があるか分からず相続財産の把握に苦労することがあります。
そこで、生前にご自身の財産や負債の状況を一覧にした財産目録を作成しておくことをおすすめします。財産目録を作成することによって、ご自身でも財産の状況を把握しやすくなり、不要な財産については処分してお金に換えてしまうということもできます。
また、残された家族としても相続放棄をするかどうかの判断がしやすくなりますので、元気なうちから早めに準備していくようにしましょう。 -
(3)死後の葬儀やお墓の希望を残す
死後の葬儀、納骨、お墓などについて希望がある場合には、エンディングノートなどにその希望を書き残しておきましょう。ただし、これらの事項を記載したとしても法的拘束力はありませんので注意が必要です。
4、特定の人に財産を残す方法と注意点
配偶者がいない方は、特定の人に財産を残したいと考えることがあります。特定の人に財産を残す方法としては、以下の方法が考えられます。
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(1)生前贈与
配偶者のいない方は、第1順位から第3順位までの相続人が相続順位に従って遺産を相続することになります。
第1順位から第3順位までの相続人もいないという場合には、ご自身の財産は、最終的には国のものとなります。
そのため、お世話になった方や財産を渡したいと思う方がいる場合には、生前贈与という方法によって財産を渡すことができます。生前贈与は、相続人以外の第三者に対してもできますので、相続人が誰もいない場合には有効な対策となります。 -
(2)死因贈与
死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力が生じる形式の贈与契約です。死因贈与を利用することによって、相続人以外の第三者に財産を渡すことが可能になります。
生前贈与は、被相続人の死亡前に財産を渡すことができる手段であるのに対して、死因贈与は被相続人の死亡後に財産を渡すことができる手段という違いがあります。
また、生前贈与の場合には、贈与税が課税されますが、死因贈与の場合には相続税が課税されることになります。そのため、税金面の負担も考慮してどちらの手段がよいかを判断していくとよいでしょう。 -
(3)遺言書の作成
生前に遺言書を作成することによって、特定の人に対して遺産を渡すことが可能になります。
相続人がいる場合には、法律上遺留分という最低限の遺産の取得割合が保障されていますが、遺留分を侵害する内容の遺言書であっても有効です。
ただし、遺留分を侵害する内容の遺言書であった場合には、遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性がありますので、注意が必要です。
また、遺言書には、法律上厳格な要件が定められていますので、形式面に不備があると遺言書全体が無効になってしまうリスクがあります。そのため、遺言書の作成をお考えの方は、相続の実績が豊富な弁護士に相談をしながら進めていくとよいでしょう。
5、まとめ
未婚率や高齢化の上昇によって、配偶者がいない状態で相続が発生するケースは増え続けています。配偶者がいない方の相続については、残された相続人が相続財産の把握などで苦労することもありますので、出来る限り生前に相続準備を行っておくことが大切です。
また、相続人がいない場合には、大切な財産が国のものになってしまいますので、特定の人に財産を渡したいという希望がある場合には、遺言書の作成など生前の対策が必要となってきます。
単身、独身で相続対策をお考えの方は、相続問題の実績が豊富なベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスまでお気軽にご相談ください。
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