弁護士が教える、デジタル遺産の相続対策
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名古屋市が公表している人口動態統計の資料によると、令和元年の死亡者数は、2万2871人で、前年よりも445人増加しています。相続は、人の死亡によって開始しますので、名古屋市内でも相当数の相続が発生しているものと考えられます。
被相続人の死亡によって相続人は、被相続人の遺産を相続することになります。被相続人の遺産としては、現金、預貯金、不動産、有価証券などが代表的なものですが、近年は、インターネットが発展したこともあり、ネット上で取引を行う「デジタル遺産」という新しい形の遺産も登場しています。デジタル遺産には、それまでの一般的な遺産とは異なる特徴がありますので、しっかりと理解しておかなければ思わぬトラブルが生じる可能性もあります。
今回は、デジタル遺産の相続対策について、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、デジタル遺産とは
デジタル遺産とは、どのような遺産のことをいうのでしょうか。以下では、デジタル遺産の概要とその種類について説明します。
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(1)デジタル遺産の概要
デジタル遺産とは、明確な定義があるわけではありませんが、一般的に、電子マネーや仮想通貨などのデジタル化された資産やインターネット上だけで取引が完結する口座資産などのことをいいます。財産的な価値のない画像データや動画については、「デジタル遺品」などと呼ばれることもあります。
デジタル遺産も資産価値を有していますので、所有者である被相続人が死亡した場合には、相続財産として相続人に相続されることになります。
また、一般的な遺産と同様に、デジタル遺産には、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も含まれますので、マイナスの財産についても相続人に相続されることになります。近年では、サブスクリプション契約(通称「サブスク」)という毎月定額で音楽や動画の配信を受けることができるサービスが増えてきています。サブスクは、契約の解除をしないかぎりは、延々と料金が引きとおされていくことになりますので、注意が必要です。
ただし、これらのものについては、規約によって、契約者の地位を相続しないことや契約者の死亡により契約を終了する旨が定められていることも少なくないため、個別に相続の対象となるかを確認する必要があります。 -
(2)デジタル遺産の種類
デジタル遺産には、さまざまなものがありますが、代表的なものとしては以下のものが挙げられます。
① 金融口座- インターネットバンキング
- 仮想通貨
- FX
- マイレージ
- 各種ポイント(楽天ポイント、dポイントなど)
- QRコード決済アプリの残高
- プリペイド式電子マネーの残高
- サブスクリプション契約(音楽、動画など)
2、トラブル防止には生前整理が大切
デジタル遺産を所有している方は、相続開始時にはデジタル遺産特有のトラブルが生じる可能性がありますので、生前にしっかりと対策を講じておくことが大切です。
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(1)デジタル遺産の問題点
デジタル遺産は、インターネット上で管理・保管されているという特徴から、相続においては、以下のような問題が生じることがあります。
① 財産の把握が難しい
デジタル遺産は、現金や不動産などの目に見える現物がある遺産とは異なり、インターネット上で管理・保管されている財産です。そのため、デジタル遺産の所有者以外には、その財産の存在を知らないということがあり、相続が開始したとしてもデジタル遺産が遺産分割協議の対象から漏れてしまうことがあります。
② IDやパスワードがわからない
デジタル遺産は、インターネット上で管理・保管されていますので、その内容を確かめるためには、被相続人のアカウントにログインする必要があります。しかし、IDやパスワードのメモがなければ、ログインすることができず、適当なIDやパスワードでログインを試みようとすると、場合によってはアカウントがロックされてしまう可能性があります。
③ 再度の遺産分割協議が必要になることも
上記のようにデジタル遺産は、その把握が難しいという特徴がありますので、遺産分割協議の対象から漏れてしまうということもあるでしょう。遺産分割協議の対象から漏れていた財産については、再度、遺産分割協議を行わなければならず、漏れていた遺産の金額によっては、当初の遺産分割協議が無効になってしまう場合もあります。
④ 無駄な費用を払い続ける可能性もある
サブスクなど定期課金サービスに加入していた場合には、相続人がその存在に気付かなければ、相続開始後も利用料金を払い続けることにあります。多くの定期課金サービスは、自動更新となっているため、契約者から解約の手続きを行わない限りは、延々と料金を支払っていかなければなりません。
利用していないにもかかわらず、無駄な費用を払い続ければ遺産の減少を招く事態にもなりかねません。 -
(2)デジタル遺産に対する生前対策
デジタル遺産には上記のような問題点があることから、相続人が困ることのないように、デジタル遺産を所有している方は、生前にしっかりと対策を講じておきましょう。デジタル遺産に対する生前対策としては、以下のものが挙げられます。
① エンディングノートの作成
デジタル遺産の特徴として、本人以外には財産の把握が難しいという特徴があります。そのため、ご自身が亡くなった後、相続人がデジタル遺産を発見することができないという事態を回避するためにも、デジタル遺産の内容を一覧表にしたエンディングノートを作成するとよいでしょう。
エンディングノートの作成の際には、ログインページのURL、ログインID、パスワードやパソコン・スマートフォンの暗証番号などを記載しておくと、相続人の負担を軽減することにつながります。エンディングノートは、書店やインターネット上で簡単に入手することができますので、生前対策として利用してみるよいでしょう。
② 財産を生前整理しておく
デジタル遺産を所有している方は、生前に財産整理を行うことによって、相続人の負担を減らすことができます。たとえば、定期課金サービスを利用している方であれば、不要なサービスをあらかじめ解約しておけば、解約手続きに要する相続人の負担を減らすことができます。
また、仮想通貨やFXなどの金融資産を有している場合には、それを売却して、現金や預貯金にしておくことで、デジタル遺産から一般的な遺産になり、相続人の負担は軽減されます。
このように財産の生前整理を行っておくことによって、相続人の負担は大幅に減少しますので、定期的に財産の内容を見直すなどして、対応するようにしましょう。
③ 遺言書の作成
エンディングノートと併せて、遺言書を作成することもデジタル遺産に対する生前対策として有効です。
エンディングノートでは、相続人に対してデジタル遺産の存在を知らせることはできますが、エンディングノートの作成者の意思に従って、デジタル遺産を相続させるという効力はありません。被相続人の希望する遺産分割方法を実現するためには、遺言書を作成する必要があります。
遺言書にデジタル遺産のアカウント情報をすべて記載するというのは、現実的ではありませんので、それについてはエンディングノートを活用すれば効率的にデジタル遺産の相続を進めることが可能になります。
3、遺言書の作り方
デジタル遺産の生前対策としては、遺言書の作成が有効になりますが、どのように作成したらよいのでしょうか。以下では、遺言書の作り方と注意点について説明します。
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(1)遺言書の種類
遺言書には、大別して「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類の遺言があります。実務上、主に利用されるのは、「自筆証書遺言」、そして「公正証書遺言」の2種類ですので、以下では、その2つについて説明します。
① 自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が本文、氏名、日付のすべてを自筆で作成する遺言書のことをいいます。遺言者だけで作成することができ、費用もかからないため気軽に作成することができます。
② 公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場の公証人が作成する遺言書のことです。自筆証書遺言とは異なり、証人が2人必要となり、作成に費用がかかるなど手間がかかりますが、形式面の不備によって遺言が無効になるリスクが少なく、遺言書の原本が公証役場で保管されます。そのため、紛失や改ざんのリスクがなく、遺言書が発見されないというリスクもありません。 -
(2)遺言書の作成方法と注意点
自筆証書遺言と公正証書遺言の作成方法と注意点は、以下のとおりです。
① 自筆証書遺言
自筆証書遺言を作成する場合には、以下の要件を満たす必要があります。どれかひとつでもかけた場合には、遺言書が無効になってしまいますので注意が必要です。
- ● 遺言者本人による自書 自筆証書遺言は、遺言者本人がその全文を記載する必要があります。パソコンでの作成や第三者による代筆では、遺言書の有効性は認められません。もっとも、相続法改正によって、財産目録については、パソコンでの作成や預貯金通帳の写し・登記事項証明書の添付といった方法が可能です。ただし、財産目録の全頁に署名押印をする必要があります。
- ● 日付の記載 自筆証書遺言は、遺言書を作成した日付を記載しなければなりません。日付は、年月日まで記載する必要がありますので、「令和3年1月」だけの記載では、遺言書が無効になってしまいます。
- ● 署名と押印 自筆証書遺言は、遺言者が氏名を記載し、押印をしなければなりません。押印に使用する印鑑には、特に制限がありませんので、実印ではなく三文判であっても問題ありません。もっともその場合、現実的には本人の押印かどうか争いが生じてしまうかもしれません。
② 公正証書遺言
公正証書遺言を作成する場合には、以下のような流れで作成します。
- ● 公証人との打ち合わせ 公正証書遺言を作成する場合には、どのような内容の遺言書にするのかを公証人と話し合って決めることになります。公正証書遺言の作成を弁護士に依頼すれば、ご本人の希望を踏まえて、弁護士が公正証書遺言の原案を作成します。
- ● 遺言者と証人2人が公証役場に行く 公正証書遺言の作成にあたっては、証人2人の立ち会いが必要になりますので、遺言者本人と証人2人が公証役場に行きます。
- ● 公証人が遺言者の本人確認、口授、意思確認を行う 公証人が遺言書の内容が本人の意思どおりに作成されたものであるかを確認します。認知症などで遺言書の作成能力がない方は、遺言書の作成を申し込んだとしても、作成してもらうことができません。
- ● 遺言者と証人2人の署名押印 遺言書の内容を確認後、遺言者と証人2人が署名押印を行います。遺言者が押印する印鑑は、自筆証書遺言と異なり、実印で押印しなければなりません。
- ● 証人の署名押印 最後に公証人が署名押印し、公証人が作成した証書である旨を付記して公正証書遺言が完成します。公正証書遺言は、3通作成し、1通は原本として公証役場に保管され、残りの2通は、遺言者に渡されます。
4、相続対策なら弁護士・税理士へ
相続対策としては、相続人同士の争いを防止するための対策、相続税を減らすための節税対策、相続人に対して納税資金を確保するための対策など、さまざまな視点から対策を行う必要があります。どのような相続対策が最適であるかについては、ご本人の資産状況、相続人の人数、希望する相続方法などによって異なってきます。
そのため、最適な相続対策を講じるためには、専門家である弁護士や税理士のサポートが不可欠となります。早めに対策を講じることによって、相続対策の効果をより享受することができますので、相続対策をお考えの方は早めに相談に行くようにしましょう。
5、まとめ
インターネットの普及により、デジタル資産を所有する方が増えてきました。しかし、デジタル資産は、比較的新しい形の資産であるために、その存在を見落としていたり、対策が十分でない場合もあります。
ご自身の死後に相続人が困ることのないように、デジタル遺産を所有している方は、しっかりと生前に対策を講じておくことが大切です。
相続対策をお考えの方は、弁護士だけでなく税理士によるワンストップサービスが可能なベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスまでお気軽にご相談ください。
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