死因贈与とは? 遺贈との違いやメリット・デメリットについて解説!
- 遺産を残す方
- 死因贈与
近年、終活への意識の高まりを受けて、名古屋市内でも生前整理やエンディングノートの書き方などに関する講演会が催されています。終活を進めるなかでは、「ご自身の財産をどのように残したら良いのか」についても考えることになるでしょう。
財産の残し方のひとつとして、「死因贈与」という方法があることをご存じでしょうか。
「死因贈与」を活用して財産を残すためには、遺贈との違いやメリット・デメリットを知っておく必要があります。
本コラムでは、「死因贈与」について、遺贈との違いやメリット・デメリットも含めて、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説していきます。
1、死因贈与とは
まず死因贈与について、ご説明していきます。
-
(1)死因贈与とは
死因贈与とは、財産を譲り渡す側の死亡によって効力が生じる贈与のことをいいます。
たとえば「自分が死んだら、住んでいる家と土地を譲ろう」などと約束を交わすことです。
「介護してみとってくれたら、財産を贈与する」などと、贈与する代わりに負担を求める負担付死因贈与という形もあります。財産を譲り渡す側を贈与者といい、財産を受け取る側を受贈者といいます。
なお「死因贈与」は、贈与税ではなく相続税の課税対象になることに注意が必要です。
受贈者は、相続が開始して贈与を受けた場合、相続税の納税義務があるときには、像族税の申告・納税を行わなければなりません。 -
(2)死因贈与はどうやって成立する?
死因贈与は、贈与者と受贈者の意思の合致によって成立する契約です。
意思の合致によって成立するので、口約束でも法律上は死因贈与が成立することになります。しかし実際は、トラブルを防止するためにも「死因贈与契約書」などの書類を作成しておく必要はあるでしょう。
2、死因贈与は遺贈とどう違う?
死因贈与とよく似た制度として、「遺贈」があります。
死因贈与も遺贈も、財産を渡す側が亡くなったときに、特定の人物が財産を受け取ることができるという点では同じです。しかし、以下の点で違いがあります。
-
(1)成立要件の違い
死因贈与は当事者の合意で成立します。一方、遺贈は財産を譲る側(遺言者)の意思のみで成立し、財産を譲り受ける側(受遺者)の意思は必要とされないという違いがあります。
たとえばAさんが「Bさんに○○を遺贈する」と記載した有効な遺言書を作成すれば、Bさんの意思にかかわらず遺贈が成立するということです。
また、死因贈与は特に形式要件が定められていませんが、遺贈は法律上定められる厳格な形式要件を満たした遺言書が作成されていなければ成立しない、という違いがあります。 -
(2)撤回における違い
遺贈では、撤回する内容の遺言書を作成したり、その遺贈に関して新たな遺言書を作成したりすれば、撤回が可能です。
一方、死因贈与は契約なので、一定の場合には、撤回が制限されます。
たとえば「亡くなるまで介護や身の回りの世話をしてくれたら、○○を贈与する」といった死因贈与契約があったとします。
民法上、書面によらない贈与については、各当事者は撤回することができますが、「履行の終わった部分」については撤回できない旨定められています(民法550条)。
受贈者が長年介護や身の回りの世話をした(負担を履行した)のに、贈与者が亡くなる直前にケンカなどによって翻意して、死因贈与契約を撤回することは許されないことはお分かりいただけると思います。
つまり簡単に遺言者の意思で撤回できてしまう遺贈と、受贈者側の期待も保護しなければならない死因贈与とでは、撤回しやすさが違うといえるでしょう。 -
(3)効力発生後の放棄の可否
死因贈与では贈与者が亡くなって効力が生じれば、基本的に受贈者は放棄することはできません。しかし受遺者の合意なく成立する遺贈では、遺贈者が亡くなって効力が生じても相続放棄によって放棄することが可能です。
-
(4)税金の負担の違い
取得する財産は同じでも、死因贈与によって取得したのか遺贈によって取得したのかによって、受贈者の負担する税金の金額が違ってくることがあります。
これは、「不動産」について死因贈与を行う場合には押さえおきたい点でしょう。
簡単にいえば受贈者が「法定相続人」であれば、死因贈与よりも遺贈で不動産を取得した方が税金の負担は軽くなるという違いがあります。
●登録免許税について
まず登記で必要な「登録免許税」は、「遺贈」を原因として法定相続人が取得するときには相続登記と同様の税率が適用されます。しかし「死因贈与」を原因とするときには、法定相続人が取得した場合であってもそのような軽減措置はありません。
●不動産取得税について
また「不動産取得税」でも、法定相続人が「遺贈」で取得するときには非課税になるのに対して、「死因贈与」で取得するときには非課税にはなりません。 -
(5)登記の可否の違い
死因贈与では、受贈者は贈与者の生前からその権利を保全する仮登記をすることが可能です。
一方遺贈では、受贈者は遺言者の生前から権利を保全する仮登記は認められていません。
3、死因贈与のメリット
相続財産の残し方として、死因贈与を検討する前には、そのメリットを知っておくとよいでしょう。死因贈与のメリットは、主に次のような点が挙げられます。
-
(1)確実に贈与できる
死因贈与は当事者の意思の合致があれば成立し、法律上何らの形式要件は必要とされていません。とはいえ死因贈与契約書などを作成しておくことは大切ですが、契約書の形式に多少不備があっても無効になるリスクは低いといえるでしょう。
また贈与者と受遺者の双方で契約書を保管しているので、遺言書のように偽造されたり隠されたりといったリスクの心配がなくなります。
したがって死因贈与のメリットとしては、贈与者が受贈者に確実に財産を贈与できる点が挙げられるでしょう。 -
(2)受贈者も安心できる
これまでのご説明でも触れましたが、死因贈与では贈与者の生前から仮登記をしてその権利を保全することが認められています。
この点も、死因贈与におけるメリットといえるでしょう。
たとえば「介護などをしてもらう代わりに亡くなったら財産を譲り渡す」といった内容を遺贈で行うときには、遺言者の気分次第で遺言書を書き換えられてしまうリスクがあります。
また遺言書の形式的な不備で無効になる可能性もあります。
しかし死因贈与で行えば、生前から契約を締結して仮登記をすることができるので介護期間中も受贈者が安心して過ごせることになるでしょう。
4、死因贈与のデメリット
メリットがあれば、デメリットも当然あります。
死因贈与のデメリットとしては、次のような点があげられるでしょう。
-
(1)トラブルが生じやすい
死因贈与は簡単に口頭でも成立するので、その分トラブルになりやすいともいえます。
贈与者が言ったことを忘れてしまったり、受贈者の誤解があったりして当事者間でもトラブルになる可能性があります。 -
(2)当事者の事情や気持ちの変化に対応できない
負担付死因贈与では、負担が履行されたときには贈与を撤回できません。そのため贈与者の気持ちや事情に変化があったときには、この点がデメリットになります。
また受贈者側としても、贈与を受ける時点になって気持ちや事情に変化があり贈与を断りたいと思っても放棄できないというデメリットがあります。 -
(3)登録免許税、不動産取得税が高くなる
法定相続人に不動産を死因贈与で譲り渡すときには、受贈者の登録免許税、不動産取得税の負担が重くなるというデメリットがあります。
通常の相続によって相続人が不動産を取得するときの登録免許税、不動産取得税は、「死因贈与」で取得する場合よりも税金の負担が軽くなります。
しかし死因贈与では登録免許税の軽減措置が適用されず、不動産取得税も非課税とならないので、納める税金の負担が多くなります。 -
(4)遺留分に注意
法定相続人がいる場合には、その遺留分を侵害しないよう注意する必要があります。法定相続人とは、民法で定められている相続で財産を引き継ぐ人のことです。子どもや配偶者などが、法定相続人にあたります。
法定相続人にあたる人には、将来財産を相続できるかもしれないという期待がありますので、民法はその期待を最小限満たせるよう、たとえ遺言で法定相続人には何も残さないと書いてあったとしても、法定相続分の2分の1又は3分は相続できる旨定めています。これを「遺留分」といいます。遺留分を侵害する死因贈与があった場合には、法定相続人から遺留分を取り戻す請求をされる(これを遺留分侵害額の請求(民法1046条)といいます)可能性があります。
5、死因贈与の手続きとは
ここまで、「そもそも死因贈与とは何か」「また遺贈との違いはどこか」について解説してきました。この章では、死因贈与を選んだ場合、どのように手続きを進めていけばよいか解説します。
- 遺留分を侵害していないか確認をする
- 死因贈与契約書を作成する
- 不動産の場合は仮登記を行うことを検討する
- 税額が出る場合相続税を納める
- 所有権移転登記を行う
- 登録免許税、不動産取得税を納める
6、その他の相続方法について
死因贈与や遺贈以外にも、財産の残し方は考えられます。
-
(1)生前贈与とは
生前から、相続させたい金額のうち一定額を、将来の相続人に贈与する方法です。相続発生時の全体の金額を減らすことで、支払う税金を減額する効果があります。なお、贈与が年間110万円以内であれば、贈与税もかかりません。
-
(2)遺言とは
自分の財産をどう相続するのか、書面の形で残しておく方法です。遺言にはいくつか種類があり、その様式や内容、作成手順や開封手順は、民法で厳密に定められています。また法定相続人の遺留分を侵害した遺言を残してしまうと、後々争いに発展する場合もあります。きちんとした遺言をするためには、弁護士へ相談することをおすすめいたします。
7、相続のことでお悩みなら弁護士へ相談を
本コラムでは、「死因贈与」について解説していきました。
財産をどのような形で残すかは、死因贈与や遺贈や生前贈与など、それぞれの方法のメリットやデメリットを比較して、ケースに応じて総合的に判断することが大切です。
ご自身だけで考えるのでなく専門家に相談しながら進めることが、最大限ご自身の思いを反映した、財産の分配につながる重要なポイントになることでしょう。
弁護士であれば、財産を残す方法について、法律的なアドバイスをすることや死因贈与契約書や遺言書の作成をすることが可能です。また、遺言をした場合には、遺言執行者として遺言書の内容どおりに財産が分配されるよう、最後まで見届けることもできます。
ベリーベスト法律事務所では、ワンストップで相続に関する問題を解決いただけるよう税理士などとも連携しています。
名古屋オフィスの弁護士も、ご相談者のお話を丁寧にうかがい、ご希望に近い形で財産を分配できるようお手伝いします。ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています