会社から有給休暇の理由を聞かれ取得を拒否された! どうすれば?
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厚生労働省の行った就労条件総合調査によると、平成29年の年次有給休暇の取得率は51.1%でした。また、愛知県の労働条件・労働福祉実態調査結果によると、愛知県の年次有給休暇の取得率は53.2%でした。有給休暇の取得率が50%以上になりましたが、依然として有給休暇取得について後ろめたい思いをしている方が多いという結果も出ています。
有給休暇の取得率をあげるため、労働基準法が改正され、2019年4月より、年10日以上有給休暇が付与される労働者には、うち年5日について、使用者から時季を指定して有給休暇を取得させなければならないこととなりました(労働基準法39条7項)。
しかし実際には、自分から有給休暇を取得するときは上司へ申請が必須という会社が一般的で、気軽な理由では取りづらいという方が多いのかもしれません。多くの会社の有給取得申請書には、理由を書く欄があり、私用の場合は理由を詳しく言いたくない場合もあるでしょう。
そもそも理由を会社側から労働者に聞くのは、違法なのでしょうか。また、有給休暇の取得が認められない時はどうすればいいのでしょうか、対処法なども含めて弁護士が解説します。
1、有給休暇の申請に必ず理由を聞かれるのは違法?
有給休暇の申請書や申請画面には、理由を書く欄がある場合が大半ですが、「有給休暇は労働者の権利である」と聞いたことがあり、これは違法ではないかと思う方もいらっしゃるでしょう。
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(1)会社側の時季変更権とは
「有給休暇は労働者の権利である」という考え方は間違いありません。しかし、有給を考えるに当たっては労働者の権利と同時に、会社側の権利についても考えなければなりません。会社側にも「時季変更権」という権利があるからです。
労働基準法では時季変更権について次のように定めています。労働基準法第39条
1項 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
5項 使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる
「時季変更権」とは、労働者の有給休暇を別の日にずらすことができる会社側の権利です。
たとえば、労働者全員が同じ日に有給取得した場合や、忙しい時期に休まれて代わりの人も見つからない場合には、業務が動かなくなり多大な損害が発生してしまいます。そのため、会社側は労働者の有給休暇をずらすことができるのです。
ただし、労働者からすれば冠婚葬祭といったずらすことができない理由で、休みたい場合もあるでしょう。時季変更権の行使にあたり、このような事情もくみ取って適切に調整する必要性から、理由を書いてもらうルールを設ける会社が多いようです。 -
(2)理由を聞くことが違法になる場合とは
このように、時季変更権を行使するために必要な範囲で理由を聞く場合や、有給休暇の申請書に理由を書く欄があっても記載は任意となっている場合は違法とはなりません。
では、どのような場合に理由を聞くことが違法となるのでしょうか。
そもそも、有給休暇を取得する理由について、労働基準法はなにも定めておらず、どのような理由で取得するかは労働者の自由です。会社が業務に支障がないのに、取得理由によって有給休暇を認めたり認めなかったりするということは本来許されません。
したがって、時季変更権に関係なくしつこく理由を聞く場合にはプライバシーの侵害やパワハラに該当する可能性がありますし、理由を言わない限り有給休暇を取得させないとなると、会社側の債務不履行もしくは不法行為が成立することがあります。 -
(3)必ず休みたい時は理由が必要になる場合もある
労働者側からすると、一般的な有給休暇を取得する場合は、「私用のため」と書くだけで問題ありませんが、そうすると日程をずらしても問題ないと判断され、時季変更権により、取得日が変わってしまう可能性があります。
特に繁忙期にどうしても休みたい理由があり、有給休暇を取得しようと思った際は、ある程度具体的な理由を示したほうが会社からも配慮してもらいやすいでしょう。また、会社が代わりに働いてくれる人を探す時間的余裕を確保するため、予定が分かっていれば早めに申請することも大切です。
2、有給休暇を取得する際、うそをついたら?
それでは、会社に時季変更権を行使されたくないときに備えて、うその冠婚葬祭などがあると告げて、有給休暇の取得申請をした場合はどうでしょうか。
本当の理由だと認められないかもしれないと思い、ついやってしまいそうですが、この方法はリスクがあるためおすすめできません。労働者は会社と雇用契約を結んで労働をしており、それに付帯して就業規則などの会社の決まりを守らなければなりません。たとえば、会社が「各種届け出などで虚偽の申請を行わないこと」などの規定を設けている場合は、規則違反の行為に該当することになるでしょう。
さらに、労働契約法3条4項には、「労働者及び使用者は、労働契約を順守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」という規定があります。
有給休暇の取得は、労働者の権利として認められていますが、うその理由を告げて有給休暇を取得した場合、この条文の「信義に従い誠実に権利を行使した」とはいえなくなってしまう可能性が高くなります。
こうした理由から、有給休暇の取得を申請する場合は、うその理由を書かないようにし、理由を書きたくないのであれば単に「私用のため」とすることをおすすめします。この申請に対して、会社が時季変更権を行使してきた場合は、話し合いなどで解決していく必要があります。
3、有給休暇の取得を拒否されたらどうすべきか
有給休暇の取得を拒否された場合、労働者側はどのような手段を取ることができるのでしょうか。
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(1)拒否された理由を聞く
まず、有給休暇の取得を拒否された場合は、どうして取得できないのか理由を聞くようにしましょう。理由が繁忙期で代替要員が確保できないという場合は、どの時期ならばスムーズに有給休暇を取得することができるのか、確認することも肝心です。
時季変更権は、あくまでも有給休暇を取得する日をずらす権利にすぎませんので、時季変更権を濫用して有給休暇を取得させないというのは、会社側が労働者の権利を侵害していることになります。 -
(2)退職までの消化の場合は、時季変更権を行使されない
なお、退職日が決まっており、その退職日に向けて有給休暇を消化するような場合には、会社側は時季変更権を行使することができません。代わりの日に有給休暇を取らせることができないからです。したがって、引き継ぎなどが間に合わなくても、有給休暇を消化することはできます。
もっとも、有給を消化できなかったけれど自分としても引継ぎはきちんとしたい、といったような場合は、会社に対して有給休暇の買い取りを申し出てみてもいいでしょう。通常法定有給休暇の買取は禁止ですが、退職時は例外的に認められています。買取は会社の義務ではありませんが、きちんと引き継ぎをすることは会社のためになることですから、話し合いの余地は十分にあります。 -
(3)有給休暇の取得ができなかった場合の相談先
会社側から有給休暇の取得の権利を侵害された場合、労働者はどのような手段を取ることができるのでしょうか。
●社内のコンプライアンス窓口や労働組合に相談する
基本的に有給休暇の取得申請は、直属の上司に対して行うことがほとんどでしょう。この場合、会社としては有給休暇の取得を推進していても、直属の上司が認めていないだけという可能性もあります。近年多くの会社ではセクハラやパワハラなど、コンプライアンスについての相談先を作っています。こうした社内窓口や、直属の上司の上司に相談し有給休暇を取得できるようになる場合もあるでしょう。
労働組合がある場合には、そこに相談するという方法もあります。労働組合は、労働者の権利を守るための組織です。組合に相談することで、有給休暇を取得することが可能になることもあるでしょう。
●労働局や労働基準監督署に相談する
社内や組合での解決が図れない場合には、労働局や労働基準監督署などの相談窓口に相談するのも選択肢のひとつです。ただし、相談する場合には、会社がある住所を管轄しているところを選び、証拠も用意するとよいでしょう。
証拠としては、労働条件通知書や労働契約書、有給休暇の残日数がわかる給与明細書、有給休暇申請書の控えや会社とやり取りをしたメール等が考えられます。
●弁護士に相談する
有給休暇をスムーズに認めてくれない会社では、もともと法令順守の意識が低く、有給休暇以外にもパワハラやセクハラなど多様な法律上の問題が隠れていることもあります。このように複数の問題が絡み合っているような場合は、弁護士にご相談されることをおすすめします。
また、自分が何をするのが最適なのかわからない場合や、退職は決めていて残業代などと一緒に交渉したい場合も、弁護士への相談がおすすめです。法律に基づいたアドバイスから、証拠集め、裁判の手続きまで、弁護士であれば一貫してサポートできるからです。 -
(4)有給休暇の権利は時効に注意
有給休暇の取得は労働者に認められた権利ですが、一方で権利には「消滅時効」というものがあります。消滅時効とは、法律で認められている権利を一定期間使わないと権利が消えるという制度です。有給休暇の場合は、消滅時効が2年間のため、付与された日から2年で権利を行使しなければ、消えることになります。
会社から時季変更権を行使され、調整に時間がかかることもありますので、時効が迫っている有給休暇については、なるべく早く取得を申請することをおすすめします。
4、まとめ
有給休暇は、労働者の権利であり申請する際に理由を詳しく伝える必要はありませんが、会社側にも時季変更権があり、必要に応じて有給の理由を聞くこと自体は違法ではありません。
そうはいっても、まったく有給休暇の権利を行使できないのは問題です。その際の相談先はさまざまありますが、会社への確認や交渉が難しい場合や、何をすべきかわからない場合、有給休暇以外にも問題を抱えている場合は弁護士にご相談されるのもおすすめです。
弁護士であれば、総合的な観点から、お客さまの立場にあった最適なアドバイスをすることができるからです。有給休暇の権利行使についてお困りの場合は、ベリーベスト弁護士事務所 名古屋オフィスまでお気軽にご相談ください。名古屋オフィスの弁護士が力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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