持ち帰り残業分も残業代請求はできる? (サービス業:美容・アパレル・スーパー編)

2018年08月10日
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持ち帰り残業分も残業代請求はできる? (サービス業:美容・アパレル・スーパー編)

東京、大阪に続いて人口の多い都市である愛知県は、飲食店や美容室などサービス業も栄えています。そのためサービス業で働く人は多く、サービス業の残業代に関する相談も少なくありません。

今回は、「持ち帰り残業」にスポットを当て、持ち帰り残業は未払いの残業代として考えられるのか、また残業代請求は出来るのか解説していきます。

1、持ち帰った仕事は残業として認められる?

店舗の営業時間内や就業時間中に仕事を終えることが出来ず、店の売り上げ集計やシフト調整業務など、自宅に持ち帰って作業する人も多いでしょう。
こういった持ち帰りした仕事は全て残業として認められるのでしょうか?

  1. (1)労働時間として認める判断基準

    持ち帰って残業したとしても、全てが残業として考えられるわけではありません。
    労働時間として認められるものが持ち帰り残業としてみなされます。

    労働基準法上の労働時間として認める判断基準としては、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされています。(三菱重工長崎造船所事件 平12.3.9最判より)

    つまり、自分の判断で持ち帰って仕事をしている場合は、会社に監督されて指揮されているわけではないので、労働時間としてカウントされません。
    会社で命令されて就業時間外に持ち帰って仕事を持ち帰っている場合に、労働時間としてカウントされるのです。

    ただし、例外もあり「黙示の業務命令」というものがあります。

  2. (2)黙示の業務命令とは

    黙示の業務命令とは、会社側から労働者側に判断を任せ、労働者側が業務の締め切りや指示された仕事量などの進捗状況に応じて自己判断で持ち帰って残業を行う場合を言います。
    会社側から明らかな命令が無かったとしても、時間外労働に関して暗黙の意思として命令があったとみなされます。
    この場合には、会社から直接持ち帰り残業を命ぜられていない場合にも労働時間として認められます。

    また、労働者本人の判断に任せていない場合でも、直属の上司が残業を知っていながら黙認していた場合にも黙示の業務命令があったとして労働時間として認められます。

2、持ち帰り残業の残業代を請求するためのポイント

持ち帰り残業を労働時間として認められる場合の基準について解説してきましたが、実際に残業代として未払いの賃金を請求するにはどのようにすればいいのか見ていきましょう。

  1. (1)持ち帰り残業分の時間を証明する

    持ち帰り残業代を請求するには、残業した分の時間を証明しなくてはいけません。
    そこで必要なものが証拠集めです。

    何時間残業したのか証明できなければ、残業代の請求はできません。
    時間外労働として何時間労働したのか証拠を示すことで立証することが可能となります。

    ただし自宅で持ち帰った仕事をしている場合、途中で休憩時間を挟んでしまったり、家事や食事などにより中断する時間も多いので立証が難しくなります。
    残業代請求として主張する労働時間数に仕事の量が一致しない場合、認められない場合もあります。
    そのため一般的な残業代請求よりも、持ち帰り残業の証明は証拠集めがより一層必要なものとなってくるのです。

    証拠としては、上司からの支持された時間や締め切りまでの日数、その日の業務内容などを書き出しておくことで「持ち帰らなければ仕事が終わらない」ということを証拠化することができます。

    上司からのメールや録音、日報、就業規則など証拠となるので、出来る限り多くの証拠を集めましょう。

    証拠集めが大切であることを上述していますが、やはり会社での就業時間外の業務となるため、タイムカードなど記録によって残すことが難しく、労働者の自己申告になるケースが多くなります。

    どういったものが法律的な証拠として使えるのかは、弁護士の判断が必要になるでしょう。

  2. (2)証拠が集まらないそんなときは?

    もし証拠集めを行ったものの、証拠が集まらないという場合でも諦めてはいけません。
    労働基準法第109条に「使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること」と定められています。

    つまり、労働時間の管理は使用者の義務であり、労働時間を記録して保存しておく必要があります。そのため、会社に対してタイムカードなどの勤怠記録の提示を求めることが出来、何か手掛かりが見つけられる可能性はあります。

    しかし、自力で手掛かりを見つけていくことは難しいので、プロである弁護士に任せて手続きを踏むことをお勧めします。

  3. (3)証拠集めに時間がかかるときは「時効の中断・停止」を

    証拠を集める際にある程度の時間がかかることも想定されます。
    残業代請求には2年の時効があるため、時効を中断する必要があります。
    時効を中断する方法はいくつかありますが、そのうちのひとつが内容証明の送付となります。
    会社に対して残業代請求の内容証明郵便による通知を送ることで、時効を6ヶ月間停止させることが可能です。

    しかし、その間に話し合いがまとまらないなどといった場合、結果として時効により権利が消滅してしまいますので、労働審判か裁判を起こすことにより時効を停止させることができます。

3、残業代以外の問題

残業代だけが労働者の抱える問題ではありません。
残業することによって、就業時間を超えた長時間労働となります。
すると、過労死や過労による自殺、うつ病など労災に関するトラブルを引き起こし兼ねません。残業代を払えば、持ち帰り残業をしてもいいということではないのです。

持ち帰り残業を続けることで、過労によって体や精神を壊すようなことになってはしまう可能性もあることを労働者自身も理解しておく必要があります。

労働基準監督署に労災であることを認定してもらうには、労働者本人が業務による健康被害であることを立証しなくてはならないので、辛い残業が続く場合には労働者が証明できる準備を日頃からしておく必要があるのです。

また、管理職の長時間労働も問題の1つです。
管理監督者の場合、労働基準法で労働時間等の定めが適用されないので、持ち帰り残業をしても残業代を請求することが出来ません。
残業代だけでなく休日や休憩時間においても規定が適用されないため、業務量が多い管理職であり部下の教育や業務確認に追われてしまい、時間外労働をせざる負えない状況となることも少なくありません。

大手企業でも自殺した課長が、時間外労働を1ヶ月に200時間近く行い、持ち帰り残業もしていたことで労災に認定された判例があります。

持ち帰り残業は仕方のないこととして行っている人も少なくありませんが、賃金の問題だけでなく健康にも被害を与えかねない問題なのです。
持ち帰り残業の賃金を請求することも大切ですが、まず持ち帰り残業をするという根本の部分を断ち切らなくてはいけません。

4、まとめ

労働基準監督署に相談することも可能ですが、会社との交渉などまでは行ってもらえません。

会社に対して交渉や労働審判、裁判を起こす場合、弁護士に依頼すればアドバイスやサポートを受けながら、よりスムーズに残業代請求を行うことが期待できます。

サービス業から幅広い職種の残業代請求に関して、ご相談を承っておりますので、もう会社からは残業代は払ってもらえないだろうと諦める前に、まずはベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています