違反すれば経営危機にも? 中小企業が意識すべきコンプライアンス
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近年、ビジネスの世界において「コンプライアンス」という単語をよく耳にするようになりました。
コンプライアンス【compliance】とは、英語で「命令・要求などに従うこと」という意味です。日本では、法令順守ともいわれ、法令だけでなく社会規範や社会的責任も含めて順守するという意味でも使われます。
コンプライアンスというと、大企業が対象となっているとイメージするかもしれませんが、中小企業においても、ひとごとではありません。コンプライアンス違反をすると、重大なケースでは、市場からの退場に追い込まれたり、経営者が刑事罰を科されることもあるので、注意しなくてはならない問題です。
たとえば、平成28年には名古屋にある銀行において、同行員の男性が同行の支店において、顧客の預金の着服をくり返すというコンプライアンス違反が起こりました。
このようなコンプライアンス違反が起こらないようにするためには、どのような対策を立てるべきでしょうか。中小企業に焦点を当てて、解説していきます。
1、企業が守るべき「コンプライアンス」とは
コンプライアンスは、上記の通り、法令や社会規範に従うという意味です。法令は、民法・刑法・会社法や、法人税法、労働基準法、個人情報保護法、特定商品取引法などがオーソドックスですが、これらに限らず、あらゆる法令を指します。
また、コンプライアンスは、一部の社員のみの問題ではなく、取締役などの役員、その企業で働くパートタイマーやアルバイト、派遣社員も含めてすべての人が、守らなくてはならないものです。
中小企業は、大企業と比較すると、資金や人的資源が乏しく、コンプライアンスに力を入れようと思っても、それを実現するための資源を割くことができないことも多いでしょう。また、中小企業の経営者がコンプライアンスについての知識が乏しいために、具体的にどのようにしてコンプライアンス体制を整備すればよいのか、わからないということもあるかもしれません。
しかし、コンプライアンスとビジネスとの関連は緊密であり、利益の追求のみだけではなく、同時にコンプライアンス体制を整備することが、中小企業の持続的な成長には不可欠です。
2、コンプライアンス違反をした場合のリスクとは?
コンプライアンス違反をした場合には、法令に基づく制裁はもちろんのこと、取引先との契約解除・取引停止などの取引上の制裁を受ける可能性もあります。具体的な違反例をご紹介します。
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(1)反社会的勢力との取引
ある信用金庫は、業績優先の営業を推進する一方で、内部管理体制の整備を怠った結果、融資関係資料の偽装・改ざんなどが多数発覚したほか、準暴力団幹部と疑われる関係者へ融資していたなどとして、金融庁から業務改善命令を受けました。
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(2)労務トラブル
大手外食会社において、店長A氏は、労働基準法上残業代を支払わなくてよいとされている「管理監督者」にあたるとして扱われていました。そのためA氏は、残業代が支払われないまま時間外労働をさせられており、未払い分の賃金と慰謝料の支払いを求めて裁判を起こしました。
裁判では、A氏側が勝訴し、未払いの残業代が支払われることとなりました。 -
(3)従業員による業務妨害
食品加工会社の元従業員が、複数回にわたり、故意に食品に異物混入をした事件では、
会社はクレームがあったにもかかわらず、約1か月半後まで公表・回収を行わなかったことが発覚しました。この件の責任を取って、社長は辞職することとなり、工場は一定期間操業を停止することとなりました。
以上、三つの事例を紹介しましたが、すべてコンプライアンス違反により会社の内外に大きな影響を与えていることが見てとれます。
3、コンプライアンス違反が起こる理由と、順守するための方策とは
コンプライアンス違反は、上記で解説した通り、企業にとって大きな悪影響を引き起こします。
では、なぜコンプライアンス違反は起こってしまうのでしょうか。その理由は、いくつか考えられます。以下で見ていきましょう。
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(1)コンプライアンス違反が起こる理由
まず、コンプライアンスの意識が低いことが理由として挙げられます。うちには関係ないと考えていたり、守らなくても大丈夫だろうと判断してしまったりするのです。
また、中小企業の場合、体制を整備したり、周知したりすることができる人材が確保できないために、コンプライアンス違反が起こるということもあります。さらに、体制を整備できたとしても、その体制を守るためにしっかりと社内のモニタリングを行わなければ、結局不正行為が野放しにされてしまい、コンプライアンス違反が起こってしまいます。 -
(2)コンプライアンス違反をさせないための方策
そのため、逆にいうと、コンプライアンス違反をさせないようにするためには、次のことを実践する必要があります。
まず、コンプライアンスを実践するために、自社に関連する法律を洗い出しましょう。特に、業法その他規制関連法規をチェックしておくことが重要です。コンプライアンスの担当部署を定め、その中で自社に関連する法令の情報を集約し、必要なチェックを行います。
そして、各部署の従業員に対し、コンプライアンスに関する社内研修を定期的に実施することも大切です。
また、経営者は、営利活動の中で、法令違反や社会規範違反にあたるかどうか判断しかねる事態に遭遇したときには、独断で判断するのではなく、コンプライアンスを扱う部門や顧問弁護士などに相談することを徹底しましょう。
4、企業法務を担う顧問弁護士の役割とは
社内のコンプライアンス体制の強化にあたっては、顧問弁護士に依頼するという手段もあります。具体的には、以下のような業務を弁護士に依頼することにより、企業活動がより円滑に進むことでしょう。
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(1)契約の審査や契約書の作成・確認をする
企業においては、会社同士、あるいは個人との間で、さまざまな契約を結ぶ場面も多いかと思います。
企業によっては、契約内容の精密な審査をせず、だいたい間違っていなければそのまま通しているという企業もあるかもしれません。また、取引相手や慣習によっては、契約書を結ばずに契約するという場合もあるでしょう。
たしかに、契約相手との間でトラブルが起こらなければ、契約書に書いていることが問題となる機会はないので、契約書の一言一句にまでとらわれる必要はない、あるいはそれを審査するためのパワーを割くことが惜しい、と感じるかもしれません。
しかし、いざ契約相手との間で、その契約をめぐってトラブルになってしまったときには、契約書にどのように記載されているかが非常に大きな意味を持つため、契約書を作成する際には、しっかりその内容を精査するべきでしょう。 -
(2)契約に関する問題を解決する
契約相手が契約書に書かれたことをきちんと実行してくれない、というときには、弁護士に交渉を依頼することが有用です。なぜなら、弁護士は、交渉に関して経験を有するだけでなく、交渉が決裂した後の裁判手続きも見据えて手続きを進めることができるからです。
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(3)労務管理のトラブルに対応する
コンプライアンスにあたっては、対外的な問題だけではなく、対社員との問題にも、法律にのっとって対処する必要があります。
たとえば、従業員から、未払い残業代を払ってほしいといわれたと想定しましょう。その場合には、まずその従業員の勤務時間を把握したうえで、就業規則を確認し、法律にのっとった残業代が支払われたのかを確認する必要があります。
残業代は、労使間の意見が食い違い、トラブルになることも多い問題です。弁護士は、裁判などの大ごとになってしまう前に、法律にのっとって方針について提案することができますし、万が一裁判になってしまった場合にも、対応することが可能です。
5、まとめ
中小企業であっても、コンプライアンス体制の整備は、会社の持続的な発展にあたって必要不可欠です。中小企業では、特に社長(経営者)がコンプライアンスに対してどの程度理解があるかによって、社員の意識も変わってきます。
社長が率先して法令や社会規範に従って物事を進めることで、従業員のコンプライアンス意識も高まり、会社全体の発展につながります。
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- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています