残業代を払わないと会社がつぶれるとされる理由と企業が行うべき対策

2025年01月23日
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残業代を払わないと会社がつぶれるとされる理由と企業が行うべき対策

名古屋市も管轄する愛知労働局によると、令和4年度に愛知県内の労働基準監督署が、長時間労働が疑われる1657事業場に監督指導を行った結果、賃金不払い残業があったものは83事業場でした。

残業代の支払いは会社の義務ですが、「残業代を払うとつぶれてしまう」という状態の会社も存在します。しかし、残業代を未払いのままにしておくとさまざまなリスクを負うので、残業時間の削減など早めの対策が必要です。

本コラムでは、労働基準法に基づく残業代のルールや、残業代を支払うと会社がつぶれるような場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。

1、会社には残業代の支払い義務がある

残業代の支払いは、労働基準法に基づいて会社が負う義務です。

会社は労働者に対して、以下の方法によって計算した残業代を支払わなければなりません

残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間数


<「1時間あたりの基礎賃金」の算出>
  • 1か月の総賃金(以下の手当を除く)÷月平均所定労働時間

<総賃金から除外される手当>
  • 家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
  • 通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

<月平均所定労働時間>
  • 年間所定労働時間÷12か月

<残業代の割増率>
法定内残業
※所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない残業
通常の賃金
時間外労働
※法定労働時間を超える残業
通常の賃金×125%
※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×150%
休日労働
※法定休日に行われる労働
通常の賃金×135%
深夜労働
※午後10時から午前5時までに行われる労働
通常の賃金×125%
時間外労働かつ深夜労働 通常の賃金×150%
※月60時間を超える時間外労働については通常の賃金×175%
休日労働かつ深夜労働 通常の賃金×160%

なお、管理職に対して一律で残業代を不支給としている企業がありますが、労働基準法に違反しているケースが少なくないため注意が必要です。

残業代を支払わなくてよい管理職は、経営者と一体的な立場にある「管理監督者」に該当する者に限られます(労働基準法第41条第2号)。
一般の労働者と権限・裁量・待遇などがほとんど変わらない管理職は管理監督者にはあたらないため、残業代の支払い対象です。誤った取り扱いをしている場合には、早急に是正しましょう。

2、残業代を支払わない会社が負うリスク

正しく残業代を支払わないと、会社は以下のリスクを負うことになります。

  1. (1)未払い残業代請求を受ける|遅延損害金・付加金が発生することも

    未払い残業代は最大3年間さかのぼって、労働者から支払いを請求される可能性があります。

    また、本来支払うべき時点から遅延した期間に応じて、遅延損害金を追加で支払わなければなりません。遅延損害金は、契約上に特段の定めがなければ、法定利率(年3%)によって計算されます(民法第419条第1項、第404条第2項)。

    さらに、訴訟で未払い残業代の請求を受けて企業側が敗訴した場合には、未払い額と同一額の付加金の支払いを命じられることがあります(労働基準法第114条)。

    最大3年分の未払い残業代および遅延損害金・付加金の支払いが課されると、会社にとっては大きな経済的負担となるでしょう。

  2. (2)労働基準監督官の是正勧告を受ける

    残業代の未払いは労働基準法違反にあたるため、労働基準監督官による是正勧告の対象となります。

    是正勧告を受けた場合には、指定された期限までに残業代の未払いを解消したうえで、労働基準監督官へ報告しなければなりません。是正勧告に従わずに違法な状態が続くと刑事訴追される可能性があるため、早急に対応しましょう。

  3. (3)刑事罰を受ける

    残業代の未払いは刑事罰の対象であり、違反した者には「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます(労働基準法第119条第1号)。
    さらに、会社に対しても「30万円以下の罰金」が科されることがあります(同法第121条)。

    実際に刑事罰を科されるのは悪質なケースが中心ですが、残業代の未払いが常態化しているケースなどでは、刑事訴追される可能性が高くなると心得ておくべきです。

  4. (4)社会的な評判が低下する|売り上げや新規採用に悪影響

    残業代を適切に支払わない会社は、ずさんな労務管理を行う“ブラック企業”であると認識されても仕方がありません。

    残業代の未払いに関する悪評が社会に広まると、企業の評判は大幅に低下してしまいます。
    その結果として売り上げが減少したり、採用募集をかけても優秀な人材の応募がなくなったりするなど、企業としての中長期的な成長に悪影響が生じてしまうおそれもあります。

3、残業代を支払うと会社がつぶれるかもしれない場合の対処法

残業代の支払いは労働基準法上の義務であるため、避けることはできません。
しかし、これまでの未支払い残業代が積み重なっている場合、支払いをすることで会社経営が大きく傾いてしまうケースもあります。

残業代の支払いを免れることは難しいですが、同様の事態を招かないためには、会社運営そのものを見直すことこそ必要になります。

  1. (1)業務の効率化を図る

    残業代の支払いを抑制するには、残業そのものを減らすほかありません。
    残業を減らすためには、業務の効率化を図ることが効果的です。DXや業務フローの見直しなどで無駄な業務を減らして必要な業務に絞り、労働者の負担を軽減しましょう。

  2. (2)残業を許可制にする

    残業を労働者側の裁量に任せていると、無制限に残業時間が増えてしまうおそれがあります。
    残業時間を抑制する観点からは、残業を許可制にすることが有力な解決策です。事前に申請した場合に限って残業を認めるようにすれば、残業時間をかなり圧縮できることが期待できます。

    ただし、残業を許可制にしたとしても、労働者がサービス残業をしてしまう可能性は否めません。建前上は残業が許可制であっても、サービス残業を会社が黙認していると判断された場合には、労働基準法違反の責任を問われるおそれがあります

  3. (3)経営を見直す

    残業代を支払うと会社がつぶれてしまうという状況は、残念ながら企業として健全な経営状態とは言い難いでしょう。

    意図的な未払いがあった場合は、対応を見直し適法に会社を運営する必要があります。一方で、未払いになった背景にあるものが人事労務のミス、現場の管理問題、人材不足など、要因がはっきりとすれば、今後同様の事態が発生しないよう対策を講じることができます。

    まずは、残業代が未払いになった原因がどこにあるのか、しっかりと調査したうえで、今後の対策を講じることが大切です。

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4、未払い残業代請求を受けたら弁護士に相談を

労働者から未払い残業代の支払いを請求されたら、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。未払い残業代請求への対応について、残業の状況や証拠、労働基準法のルールなどを踏まえて適切なアドバイスを受けられます。

また、労働者との交渉、労働審判や訴訟などの対応についても、弁護士に一任することができます。労働問題の経験にたけた弁護士が法的な観点から正確に対応すれば、会社の損害を最小限に抑えることができるでしょう。

さらに、残業時間の抑制に関する取り組みを行う際にも、労務管理に関する幅広い知見を基に、会社の実態にあった解決策をアドバイスしてもらえます。

未払い残業代請求への対応や、残業に関するトラブルの予防については、弁護士のサポートを受けながら行うのが安心です。残業代の未払いに関する問題にお悩みの企業は、お早めに弁護士へご相談ください。

5、まとめ

残業した労働者に対して、会社は残業代を支払う義務を負います。

労働者からの未払い残業代請求に適切に対応するためには、弁護士のアドバイスとサポートを受けることをおすすめします。経験豊富な弁護士に依頼すれば、会社の実態にあった方針を立てて対応することができます。

ベリーベスト法律事務所は、ニーズに応じて選択できる顧問弁護士サービスをご用意しております。企業法務の知見が豊富な弁護士が、クライアント企業における労務管理の健全化や適法な企業運営をサポートします。

未払い残業代の支払いなど、企業の労務管理についてお悩みの経営者の方は、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスに、ぜひご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています