人事考課について社員から不服申し立て! トラブルを防ぐためには?
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愛知県名古屋市は中京圏の中核都市であり、多くの事業所が存在しています。
「平成28年経済センサス-活動調査」の統計からも、名古屋市には12万6000社余りの事業所があり、141万7000人余りの人が働いていることが分かります。
近年は成果主義の浸透により、これらの企業においても年齢や勤続年数よりも勤務成績などの人事考課を重視する会社も少なくないことでしょう。
しかし、人事考課の査定は「人が人を評価する」という性質上、どうしても社員に不満や疑問を生じさせかねずトラブルに発展してしまうこともあります。
本コラムでは、人事考課のトラブルを防ぐ対処法などをベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説していきます。
1、人事考課とは
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(1)人事考課とは
人事考課とは、社員それぞれの勤務態度・職務遂行能力・勤務成績などを評価してその結果を昇給・賞与・昇進・昇格などに活用するために行うものです。人事評価と、ほぼ同様の意味で使われることが多いでしょう。
会社が適正な給与管理や人事管理を行っていくためには、人事考課は必要不可欠です。
人事考課は、一般的に上司に当たる課長や部長などの役職者が、本来の業務の合間に部下を評価する方法で行います。 -
(2)人事考課の評価基準
人事考課の評価基準については、どのような方式で行っているかを明確にしておくことが大切です。
評価方式には、「相対評価方式」と「絶対評価方式」の2種類があります。
「相対評価方式」は、他の社員を基準として評価するものです。相対評価方式は、他の社員との比較で決められるので評価しやすい反面、経験の浅い社員が不利に査定されるという問題があります。
「絶対評価方式」は、社員ごとに職務上の期待水準や要求水準を明確にした上でその水準を基準として評価するものです。絶対評価方式は、本人の経験などに応じた評価ができるので合理的かつ公平である反面、水準を明確に設定するのが難しいという問題があります。
2、人事考課が違法になるケースとは?
人事考課の査定に対して、社員が不服申し立てを行うことは珍しくはありません。
社員の不服申し立てに対しては、お互いに納得できるよう話し合うことが重要ですが、次のように違法性が問題になることもあります。
人事考課を行う際には、まず違法性が問題にならないように実施する必要があるでしょう。
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(1)制度自体が強行法規に違反するケース
人事考課は、当然法令を順守したものでなければなりません。
労働基準法の「均等待遇原則」(同法3条)や、男女雇用機会均等法の配置や昇進などに関する「男女平等原則」(同法6条第1号)、労働組合法の「不当労働行為の禁止」(同法7条)など、強行法規に違反する人事考課制度は、違法であり無効です。また公序良俗に反する人事考課制度も同様です。 -
(2)人事権の濫用になるケース
人事考課は、一般的には使用者である会社の裁量権が広く認められています。しかし例外的に、人事考課が「人事権の濫用」と判断され違法になる可能性があります。
具体的には、次のようなケースです。- 出向中に異常に低い人事考課が行われたケース(日本レストランシステム事件―大阪地判平21・10・8労判999号69頁)
- 就業規則における所定の評価要素以外に、既婚者女性を一律に低く査定したケース(住友生命保険事件―大阪地判平13・6・27労判809号5頁)
- 評価対象期間外の期間における反抗的態度を考慮して低い査定したケース(マナック事件-広島高判平13・5・23労判811号21頁)
裁判においては、人事考課が「評価の前提となった事実に誤認がある」場合などには、違法になる可能性があることが示されています。「評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできない」ためです。(光洋精工事件-大阪高判平9・11・25労判729号39頁)
さらに近年では、年俸制に関する事案ではあるものの、人事考課を行う際には評価の結果や説明をすることが必要である、と判断した判決もあることから(日本システム開発研究所事件―東京高判平20・4・9労判959号6頁)、より公正な人事考課制度を整備したほうが、安心であるといえるでしょう。 -
(3)違法な人事考課を行った場合の責任
訴訟で、人事考課が人事権の濫用として違法と判断された場合には、会社には労働者に対して賃金などが不当に低く決定されたことによる、経済的損失を損害賠償する責任が生じます。一方、慰謝料については、不当に低い評価を受けたケースでは経済的損失の損害賠償で労働者の精神的苦痛を補えるので原則として否定されています。
ただし、違法な差別に該当する人事考課が行われていた場合や、故意や悪意によって低い査定が行われていた場合には、会社は慰謝料を支払う責任を負う可能性もあります。
3、降格・降給はトラブルに発展しやすいので注意!
人事考課によって、社員を降格・降給させる人事を行う場合には、トラブルに発展しやすいので注意が必要です。特に降給は、賃金の引き下げという労働者に大きな経済的影響を与えるものなので、人事考課よりも会社の裁量権の範囲は、限定的とされています。
●職位の引き下げ
まず「職位の引き下げ」による降格人事を行う場合には、原則として会社の裁量権が広く認められる傾向にあります。ただし、使用者側の必要性や労働者側の帰責性や不利益などを総合的に考慮した結果、職位の引き下げが権利の濫用であると判断されることもあります。
●賃金の引き下げ
また降格人事に連動して賃金が大幅に下がるときには、通常の降格や配転よりも厳格に権利の濫用が判断されることになります。「賃金の引き下げ」については、賃金規定上の根拠なく引き下げることは許されていません。それだけでなく、降級の決定のプロセスに合理性があり、労働者に告知して言い分を聞くなどの公正な手続きも必要です。
4、人事考課によるトラブルを防ぐためには
人事考課によるトラブルを防ぐためには、人事部として社員の納得性を高める工夫が必要でしょう。社員の納得性を高めるためには、次のような方策が考えられます。
●考課者訓練や心得の作成・周知
考課能力向上のための研修を行ったり、考課者の心得をまとめた文書を作成し、評価する側の認識を一致させ、能力の向上を図ることは、納得性を高める方法のひとつといえるでしょう。
●考課基準などの公開・考課結果のフィードバック
社員の納得性を高めるためには、考課基準などを公開して明確にしておくことが大切です。
また考課結果を、本人に文書または面談で通知する制度を設けることで、トラブルの種を早期につむことができる可能性があります。
5、まとめ
本コラムでは、人事考課のトラブルを防ぐ対処法などを解説していきました。会社内では、人事考課を始めとする、さまざまなトラブルが生じる可能性があります。
ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスでは、社内や社外のトラブルに対して弁護士が法的なアドバイスを行う、ご利用しやすい顧問弁護士サービスを展開しております。ぜひお気軽にご相談ください。
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