ソーシャルハラスメントの問題点とは? 起きる前に雇用者ができる対策
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近年、さまざまなハラスメントが問題となっています。名古屋市では、職員によるパワーハラスメント(略称「パワハラ」)やセクシャルハラスメント(略称「セクハラ」)、マタニティハラスメント(略称「マタハラ」)等を禁止する規定を設けて、ハラスメントの発生を防止しています。
数多くのハラスメントが存在する中で、今後深刻な問題に発展しかねないのが、「ソーシャルハラスメント」(略称「ソーハラ」)です。聞きなれない言葉かもしれませんが、名古屋大学のハラスメント相談センターが発行する「ハラスメント相談センターだより」では、平成26年の時点ですでに警告がなされています。
そこで本コラムでは、ソーシャルハラスメントの定義や、事例、ソーシャルハラスメントに付随して発生する問題、そして企業が自社内で起こらないようにできる対策について、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。
1、ソーシャルハラスメントとは
ソーシャルハラスメント(略称「ソーハラ」)とは、ソーシャルメディアを通じて行われるハラスメントを指します。ソーシャルメディアとは、双方向コミュニケーションを実現した媒体を指します。厳密な定義だけをいえば、ソーシャルメディアとSNSと異なるものですが、いわゆるSNSもまたソーシャルメディアの一種であるといえるでしょう。
この中で、ハラスメントが発生しやすいメディアは、FacebookやTwitter、Instagram、LINEです。
ソーシャルハラスメントは自体は、刑法などで定められている犯罪ではありません。ただし、投稿の内容によっては、侮辱罪や名誉毀損(きそん)罪などに問われる可能性もあります。
また、上司からのソーシャルハラスメントによって、部下が精神的苦痛を感じ、それらの行為が不法行為であると認められた場合は、損害賠償請求がなされる場合もあります。部下個人だけでなく、社内全体でつながりを強要するような空気があり拒めない状況にあったなどのケースでは、会社側も責任を問われる可能性があるでしょう。
2、問題になりうる行為
上司が部下に対して行うと、ソーシャルハラスメントがあったとみなされる可能性がある行為は以下のとおりです。
- 友達申請やつながりなどを強要する
- 「いいね」を強要する
- 部下の投稿に「いいね」やリプライを頻繁に送る
- 名前を出さなくても本人がわかるように誹謗中傷する
- 部下のプライベートを監視・介入する
- 部下のSNS上での言動を職場で公開する
一般的には、いわゆるネットマナーに反する行為だと受け止められる行為です。もし、あなたの会社が、「上司によるこれらの行動が日常茶飯事である」という環境にある場合は、SNSでのかかわり方について、注意喚起しておく必要があるでしょう。
3、ソーシャルハラスメントに付随して起こり得る問題
ソーシャルハラスメントだけでなく、従業員によるソーシャルメディア上の振る舞いが、以下のようなさまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。
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(1)勝手に従業員の写真をアップロードする行為
経営者や上司、同僚などが、本人の許可を得ることなくインターネット上に画像をアップロードする行為は、肖像権やプライバシー権の侵害に該当する可能性があります。会社の業務の一環だからと、個人の画像や個人情報をアップロードさせる行為も同様です。肖像権やプライバシー権の侵害は、刑事事件化することはないものの、慰謝料請求などがなされる可能性があり、会社にとってはよい影響は与えません。
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(2)名誉毀損罪や侮辱罪に問われるような投稿
ソーシャルハラスメント自体は、刑法で定められた犯罪ではありませんが、度を超えた嫌がらせは名誉毀損罪や侮辱罪などに問われる可能性があります。
たとえば上司が部下を名指しで「○○は毎日遅刻をしているだらしのない男だ」などと投稿する行為は、名誉毀損罪に問われる可能性があります。また、「また、○○は仕事ができない無能。今すぐにやめろ」などの投稿は、侮辱罪に該当する可能性があるでしょう。
名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪です。つまり、被害者が刑事告訴をすれば問題は大きくなってしまいます。さらに、損害賠償請求を求めて訴訟が提起されれば、企業イメージへの影響は甚大なものになりかねません。 -
(3)炎上するような画像や動画、発言の投稿
従業員による不適切な悪ふざけ画像や動画の投稿は、ときとして企業の経営を揺るがす非常に大きな問題を引き起こすことがあります。「バイトテロ」として、一時期話題になったとおりです。
実際に、バイトテロによって上場企業の株価が下落する、店舗が閉店に追いやられるなどの事件が起きています。また、従業員による不適切な発言や対応がソーシャルメディア上で拡散されてしまい、会社側に苦情の電話が殺到した事例もありました。これらの問題が起きてしまうと、事態の収束は非常に困難であると同時に、企業イメージを大きく損なうことになり、影響は計り知れません。
4、企業ができるソーシャルハラスメント対策
企業が従業員のソーシャルハラスメントを防止するために、以下のような対策を講じるとよいでしょう。
- ①ソーシャルハラスメント防止のための規則の策定
- ②ソーシャルハラスメントを周知するための研修の実施
- ③インターネットリテラシーアップのための講習の実施
ソーシャルハラスメントを防止するためには、ソーシャルメディアとの正しい付き合い方を全従業員が把握しておく必要があります。ソーシャルハラスメント以前に、バイトテロに代表されるような、従業員による不適切動画や画像の投稿などを防止するためにも、「インターネットは全世界から閲覧可能であること」や「拡散力が強いこと」などを知っておかなければなりません。個人情報に該当するような情報や写真等は、インターネットにアップロードしてはならない、などのルールの策定も必要です。
その上で、ソーシャルハラスメントというハラスメントが存在する事実と、どのような行為がハラスメントに該当するのかも従業員全体に周知しておきましょう。
従業員による不適切な投稿を防止するために、「業務上知り得た事実をインターネット等の公共の場に投稿することを禁じる」という就業規則を追加する、また入社の際に誓約書を書かせる、などの対策が有効であると考えます。
5、会社で問題が起こったら速やかに弁護士に連絡を
すでに、ソーシャルハラスメントをはじめとした、従業員によるインターネット利用に関するトラブルが発生している場合は、いち早く弁護士に相談することをおすすめします。ソーシャルハラスメントは、そのほかのハラスメントと同様に、被害を受けた従業員が加害従業員や会社に対して損害賠償を請求するなどのリスクをはらんでいます。
従業員同士、もしくは会社と従業員との争いは企業イメージに悪影響を与えかねません。大問題に発展する前に対策を講じる必要があるでしょう。ソーシャルハラスメントの事実を、社名をあげてソーシャルメディアに公表されてしまうと、瞬時に拡散してしまい手が付けられない状態に陥る可能性があります。
また、従業員による不適切な動画や画像、文章の投稿も同様です。会社側は被害者とは言え、対応を間違えると会社側を含めて炎上拡散する可能性があります。
これらの問題を解決するためには、問題が小さいうちに弁護士に相談をして、問題の収束を図ることが大切です。
6、まとめ
ソーシャルハラスメントは、比較的新しいハラスメントだと感じるかもしれません。確かに、ソーシャルメディアの利用者が増加するに従い、被害者も増加していると考えられるハラスメントです。しかし、その本質は、上下関係を背景に何らかの行為を強要するものであり、その内情はパワーハラスメントやセクシャルハラスメントなど、そのほかハラスメントと変わるものではありません。
放置すると、従業員間のトラブルに発展し、企業のイメージを大きく損なうことになりかねないため、問題が発生したら速やかに弁護士に相談しましょう。ソーシャルメディアでのトラブルは、拡散力も強いため、早い対策が大切です。
ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスでは、各種事業者の顧問弁護士として、ソーシャルハラスメントに関するご相談やご依頼を受け付けております。トラブル発生後だけでなく、トラブルが発生しないようにするための対策も提案させていただきます。お気軽にご相談ください。
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