私的独占とは? 独占禁止法での規制

2024年01月09日
  • 独占禁止法・競争法
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私的独占とは? 独占禁止法での規制

独占禁止法では、事業者間の自由な競争を促進し、消費者の利益を保護する目的から、カルテルや入札談合などさまざまな不公正な取引に対して規制を行っています。こうした規制のひとつが「私的独占」の禁止です。

公正取引委員会の発表によると、令和4年度においては、独占禁止法違反として延べ29名の事業者に対して8件の排除措置命令が出されました。8件の排除措置命令の内訳としては、価格カルテルが1件、その他のカルテルが3件、入札談合が4件となっており、「不当な取引制限」について強い手段が取られてきたことになります。ただ、私的独占になるような行為は、不公正な取引方法としてより前段階で措置を取られることが多いため、公正取引委員会の関与を受ける機会は、見かけの数字より多いです。

今回は、独占禁止法で規制されている私的独占とは何かについて、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスの弁護士が解説します。

1、独占禁止法における私的独占とは

独占禁止法が規制する私的独占とはどのようなものなのでしょうか。以下では、独占禁止法および私的独占の概要を説明します。

  1. (1)独占禁止法とは

    独占禁止法とは、正式名称を「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といい、公正かつ自由な市場競争を促進して、消費者の利益を確保することを目的とした法律です。市場メカニズムが正常に機能すれば、事業者は、適正価格で優れた商品を提供し、消費者はニーズに合った商品を選択することができます。

    独占禁止法では、こうした公正かつ自由な市場を守るために、事業者に対して以下のような内容につき規制を行っています。

    • 私的独占
    • 不当な取引制限(カルテル、談合などのことです)
    • 不公正な取引方法(より細かい類型がたくさんあります)
    • 競争制限的な企業結合(合併から共同研究まで)
    など
  2. (2)私的独占とは

    私的独占とは、企業が単独または他の企業と手を組んで、競争相手の企業を市場から締め出したり、新規参入を妨害して市場を独占したりする行為をいいます

    たとえば、市場を独占している企業が新規参入してきた企業を排除するために、取引先企業に対し、取引量に応じたリベートを渡すと、取引先企業はその企業の商品しか扱わず、品質や価格に優れた新規参入者が締め出されてしまいます。

    このような私的独占行為が行われると、市場を独占する企業には競争相手がいなくなりますので、安くて品質のよい商品を開発しようという企業努力が行われなくなり、消費者の利益が著しく害されてしまいます。

    そのため、消費者の利益を保護するために独占禁止法では、私的独占が禁止されています。

2、「排除型私的独占」と「支配型私的独占」

私的独占には、「排除型私的独占」および「支配型私的独占」の2種類があります。以下では、それぞれの詳しい内容を説明します。

  1. (1)排除型私的独占とは

    排除型私的独占とは、排除行為という不当な手段により市場を独占したり、市場の独占状態を維持・強化したりする私的独占の一類型です。排除行為に該当するものとしては、以下の4つが挙げられます。

    ① 商品を供給するための費用を下回る対価設定
    自由競争経済のもとでは、需要と供給の調整を市場メカニズムに委ね、需要と供給に応じた価格決定を行うことを前提としています。

    しかし、特段の事情がないのに商品供給の費用を下回る対価設定にする、つまり、利益を完全に無視したような安い価格で商品を供給することは、市場から鑑みて経済的合理性がないものといえます。

    また、他の企業にとっても真っ当に利益を出せない価格競争に巻き込まれることになり、結果として事業活動を困難にさせ、自由競争に悪影響を及ぼすおそれがあることから排除的私的独占に該当するといえます。

    ② 排他的取引
    企業が取引先企業に対して、自己の競争者との取引の禁止、または制限を取引条件にすると、競争者の事業活動が困難になり、自由競争に悪影響が生じるおそれがあります。そのため、このような排他的取引については、排他的私的独占として禁止されます。

    ③ 抱き合わせ
    複数の商品を組み合わせることで新たな価値を付加して商品を提供することは販売促進手法のひとつですので、直ちに禁止されるものではありません。

    しかし、企業が取引先企業に対して、ある商品(主たる商品)の供給と一緒に他の商品(従たる商品)を購入させることは、従たる商品市場において他の取引先を容易に見つけられない競争者の事業活動を困難にし、市場に悪影響を及ぼす場合があります。

    そのため、主たる商品の供給と一緒に従たる商品を購入させる行為は、抱き合わせとして排除的私的独占に該当する可能性があります。

    ④ 供給拒絶、差別的取り扱い
    事業者が誰に、どのような条件で商品を供給するのかは基本的には自由に決めることができることです。しかし、事業活動を行うために必須となる商品を供給している企業が、合理的範囲を超えて供給拒絶や差別的取り扱いがなされると自由競争に悪影響が生じる可能性があります。

    そのため、このような供給先事業者が事業活動を行うために必要な商品について、合理的範囲を超えた供給拒絶をすることは、排除的私的独占に該当する可能性があります。
  2. (2)支配型私的独占とは

    支配型私的独占とは、事業者が単独または他の事業者と共同し、株式取得などの方法により他の事業者の事業活動に制約を与えて、市場の支配をしようとする行為です。

    ただし実際の事例では、支配型私的独占と認定されるケースは少なく、ほとんどのケースでは排除型私的独占が問題となるといえます。

3、私的独占の事例

私的独占の実際の事例としてはどのようなものがあるのでしょうか。以下では、私的独占の具体的な事例を紹介します。

  1. (1)事例1|商品を供給するための費用を下回る価格設定に関する事例

    X社は、国内における住宅地図の大部分を販売する事業者で、それまでA市の住宅地図の販売をしていたのはX社だけでした。同じく住宅地図の販売を行っているY社がA市での住宅地図の販売活動を始めたため、X社は、Y社による販売活動を困難にさせる目的で、以下のような取引を行いました。

    • X社の特約店に対し、製造原価を大幅に下回る価格で住宅地図を受注させた


    このようなX社の行為は、独占禁止法第19条に違反するおそれがあるとされました(平成12年3月24日警告)。

  2. (2)事例2|排他的取引に関する事例

    X社は、CPUを製造販売する会社であり、国内のCPUの総販売数量の約89%を占め、強いブランド力を有している会社です。

    X社は、国内のパソコン製造販売業者5社に対し、以下のような条件を提示し、いずれかの条件に応じる見返りとしてリベートの提供を約束しました。

    • パソコンの同社製CPU比率を100%にし、他社製品を採用しないこと
    • パソコンの同社製CPU比率を90%にし、他社製品の割合を10%に抑えること
    • 複数商品群のCPUにおいて他社製品を採用しないこと


    このようなX社の行為は、CPUの販売に関する競争者の事業活動を排除するものであるとして私的独占が認定されました(平成17年4月13日勧告審決、平成17年(勧)第1号)。

  3. (3)事例3|抱き合わせに関する事例

    X社とY社は、それぞれパソコン用ソフトウエアの開発とライセンスの供与に関する事業を行っていました。X社の表計算ソフトとY社のワープロソフトは、それぞれ市場シェア第1位でした。

    X社は、Y社のワープロソフトがパソコンに搭載されることがX社のワープロソフトの市場シェアを高める障害になると考え、パソコン製造販売業者に対して、X社の表計算ソフトとワープロソフトをパソコンに搭載して出荷する内容の契約を締結しました。これにより、X社のワープロソフトの市場シェアが拡大し、第1位を占めることになりました。

    このようなX社の行為は、独占禁止法第19条の規定に違反するとされました(平成10年12月14日勧告審決、平成10年(勧)第21号)。

4、違反した場合の罰則

私的独占は、公正取引委員会による排除措置命令や課徴金納付命令といった行政処分の対象になります。排除型私的独占は、当該商品の売上額の6%が、支配型私的独占は、当該商品の売上額の10%が課徴金の算定率となっています。

さらに、私的独占によって権利や利益を侵害された事業者は、不法行為や独占禁止法25条に基づく損害賠償請求を行うことができます。

加えて、私的独占による独占禁止法違反となった場合には、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科されます(独占禁止法89条)。法人や団体については、両罰規定により、5億円以下の罰金が科される(独占禁止法95条)といった刑事罰も定められています。

このように私的独占があった場合には、行政的な措置がとられる可能性があり、民事や刑事の面から重い制裁を受ける可能性もありますので、注意が必要です。独占禁止法に違反することなく取引を進めていくためには、企業法務の実績がある弁護士のアドバイスが不可欠といえます

5、まとめ

独占禁止法では、不当な手段により市場の独占や独占状態の維持・強化することを「私的独占」として禁止しています。私的独占は、公正取引委員会による排除措置命令や課徴金納付命令の対象となるだけでなく、刑事処分の可能性のある犯罪行為です。

知らないうちに私的独占を犯してしまわないためにも、まずは、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています