名誉毀損罪には時効がある! 損害賠償を請求できるのはいつまで?
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インターネットが家庭に普及したことにより、ブログやSNSなどでだれもが簡単に情報を発信できるようになったことにより、様々な情報へのアクセスがより簡単になりましたが、その反面、書き込んだ内容によるトラブルも増えています。
また、ネット上で根も葉もない事実を書き込まれたことによって、それを周囲の人が信じてしまい、信用を傷つけられるという被害もあります。本人がその書込みをすぐに見つけ対処できれば、被害は抑えられるかもしれませんが、長期間その書込みに気づかず、晒されたままの状態になってしまったあとに気づくということもあるでしょう。
そこで、今回は、ネット上での名誉毀損と、その時効などについて解説いたします。
1、名誉毀損の立証の難点と時効
名誉毀損で相手を訴えたいと思った場合、まずは相手がどこの誰かを知らなければなりません。しかし、ネット上の書込みによる名誉毀損の場合、犯人の特定が困難という問題があります。
また、書込みがされた時点から長期間経っていた場合、民事上・刑事上の権利の行使にも影響を及ぼす場合があります。
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(1)ネット上での名誉毀損の場合、犯人を特定するために何をしたらいい?
相手を訴えたい、と思ったとしても、どこの誰かが分からなければ、訴えることはできません。そのため、訴えを起こす前に、相手を突き止めるための手続きをする必要があります。
ネット上に書き込んだ相手を特定するためには、裁判所へ発信者開示請求という請求を行います。これは、サイト管理者に対して相手のIPアドレスを開示するよう求める手続きと、そのIPアドレスを管理するプロバイダーが保管している、発信者の名前や住所、メールアドレスを請求者に渡すよう、裁判所が命じる手続きです。まず、サイト管理者には発信者情報開示請求を行い、次にプロバイダーに対して行います。
プロバイダーから発信者の情報が開示されれば、相手のことが分かるため、訴えを起こすなど次の段階に進むことができます。
この発信者情報開示請求は迅速に行なわなければなりません。というのも、通信業者がログを保管している期間は、およそ3か月と言われており、それ以降は手続きを取ったとしても相手が分からなくなる可能性が高まるためです。
なお、相手が格安スマホなどMVNOやジェイコムを使っている場合には、プロバイダーに対する手続きをMVNOの会社と大手通信会社、各々に行う必要があるため、さらに急がなければなりません。
そして、サーバー管理者IPアドレスを保存していない場合や、発信者自身の端末以外(ネットカフェなど)からの書込みの場合、特定が困難となる点にも注意が必要です。 -
(2)民事上の請求の時効と、刑事上の責任の期間制限
● 民事
民法では、権利を行使する期間制限(時効)を定めています。名誉毀損は、民法上の「不法行為」に該当するため、その損害賠償請求についても時効があります。
不法行為の場合には、被害を受けたことと犯人が分かってから3年経つか、書き込みがなされてから20年が経つと、損害賠償請求権は時効にかかってしまいます。(民法第724条)
● 刑事
刑事上の責任についても時効があります。犯人が時効まで逃げ切ったことにより、罰することができなくなったというニュースを耳にしたことがあるかもしれません。刑事上の時効制度については、刑事訴訟法第250条に規定されており、犯した罪の種類により時効を迎えるのにかかる時間が変わってきます。
名誉毀損罪の法定刑は「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金」であるため、3年で公訴時効を迎えます。
また、名誉毀損罪は親告罪であり(刑法第232条第1項)、捜査機関に対して処罰を望む旨伝えなければ、処罰をすることができません。
告訴には、犯人を知ったときから6か月間という期限が定められていることから(刑事訴訟法235条本文)、犯人を特定した後にも十分期限には留意する必要があります。 -
(3)名誉毀損で訴えるには
発信者情報開示請求を行い、相手のことが分かったら、民事訴訟と刑事告訴の手続きが可能になります。
● 民事訴訟の手続き
民事裁判を提起する場合には、被告を特定する必要がありますので、匿名の書き込みの場合、まずは上記の発信者情報の開示手続が必要です。
被告が特定できたら、管轄の裁判所に、名誉毀損に基づく損害賠償などを求める訴えを提起することになります。
● 刑事告訴の手続き
名誉毀損等の犯罪として被害を告訴する場合には、まずは最寄りの警察署または都道府県警察サイバー犯罪相談窓口に相談し、被害届を提出します。これを受け、警察が捜査をし、犯人が特定できた場合には、6か月以内に告訴状を提出します。
2、名誉毀損になる要件とは
相手の名誉を害する行為全てが名誉棄損になるわけではありません。その行為が名誉毀損であるかどうかについては、法律上要件が決まっているため、ここで確認していきましょう。
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(1)刑事上の名誉毀損罪
名誉毀損の罪については、刑法第230条に規定されています。
第230条
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
名誉毀損をした者には、懲役刑や罰金などの制裁が科されることが分かります。
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」することについて名誉毀損罪が成立するとありますが、より具体的な意味としては、次のとおりです。
● 公然と
「公然と」とは、不特定または多数の人が知ることができる状態をいいます。ブログやSNSで書き込むことは、まさにそのような状態といえます。
● 事実を摘示
「事実を摘示」とは、具体的に人の社会的な評価を低下させることができるような事実を言うことです。たとえば、犯罪歴や不倫の事実などが、人の社会的な評価を低下させるような事実といえるでしょう。
なお、「事実を摘示」しなくても、人のことを悪く言うことについては、侮辱罪(刑法第230条)が成立する可能性があります。
名誉毀損罪や侮辱罪は、「親告罪」といって、検察官がその罪を犯した犯人を罰するために刑事裁判にかけるには、被害者その他一定の者による、訴追を求める意思表示(告訴)が必要となります(刑法第232条)。 -
(2)民事上の名誉毀損
名誉毀損については、刑事上の罰だけでなく、被害者に対して金銭的な損害賠償をしなければならないという民事的な責任も生じます。これは、民法第710条に定められています。
なお名誉毀損の場合、金銭賠償だけではなく、「名誉を回復するのに適当な処分」を命ぜられる可能性もあります(民法第723条)。原状回復の具体的な手段としては、謝罪広告が挙げられるでしょう。
3、名誉毀損が成立しないケースとは
自分が名誉毀損をされた、と思っても法律上の条件を満たしていない場合もありますし、要件を満たしていても、憲法で保障されている権利を守るため、名誉毀損では訴えられない場合もあります。
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(1)名誉毀損の要件を満たさない場合
名誉毀損は、公然性が要件となっているので、たとえば2人きりの時に、誰にも知られたくないようなことを指摘されたという場合には、名誉毀損は成立しません。
また、名誉毀損は「事実」の摘示が要件となっているので、単に「馬鹿野郎」などと言ったというだけでは名誉毀損が成立しません。なお、この場合には侮辱罪が成立する可能性があります。 -
(2)違法性が阻却される場合
人の名誉を守るということも大事ですが、その一方で、民主主義社会においては、公的な立場にある人(政治家など)の評価や批判といったものを正当な言論の行使として認め、国民に知らせる必要性もあります。つまり、名誉を保護するとともに、憲法で保障されている「表現の自由」との調和を図らなければならないのです。
そのため、公益を高めるために公共の利害に関する真実を公にした場合には、その行為には違法性がないとされ、名誉毀損罪は成立しません(刑法第230条の2)。
4、まとめ
名誉毀損の要件や、権利行使を行うにあたっての時効について解説いたしました。
ネット上での名誉毀損は、一瞬で大勢の目にとまってしまうので、一刻も早く削除し、被害回復したい方が大半かと思います。
その一方で、書き込みの削除や損害賠償については、技術的・法律的な知識が必要となってくるため、敷居が低いとはいえません。
名誉毀損でお悩みの場合は、ベリーベスト法律事務所 名古屋オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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