交通事故被害者が知っておきたい慰謝料の裁判所基準(弁護士基準)とは
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愛知県警の発表によると、令和2年に愛知県内で発生した交通事故は人身事故だけで2万4879件に達しました。
ケガをされた方は2万9559名にもおよびます(死者数も154名にのぼります)。
愛知県内では多くの方が、交通事故のケガで苦しんでいます。そのような交通事故の被害者が知っておくべきことの一つとして、「弁護士に依頼し、損害賠償の中の一つである慰謝料を「裁判所基準(弁護士基準)」で請求すれば、損害賠償額が大幅に増額する可能性がある」というものがあります。ここでは、ベリーベスト法律事務所・名古屋オフィスの弁護士が慰謝料の裁判所基準(弁護士基準)について解説します。
1、慰謝料の裁判所基準(弁護士基準)とは
交通事故の慰謝料の計算基準には、「自賠責保険基準」、「任意保険基準」、「裁判所基準(弁護士基準)」の3種類があります。
ごく簡単に説明すると、国が加入を義務付けている自賠責保険(自動車損害賠償責任保険・共済)から支払われる「自賠責基準」が一番低額であり、裁判所基準がもっとも高い算定基準であるといえます。任意保険基準の詳細は各社異なるため、公表されていませんが、一般的に自賠責保険基準で受け取れる額と同程度と考えられます。
被害者個人が保険会社と交渉すると、当然のように自賠責保険基準か任意保険基準が適用され、そもそも「裁判所基準(弁護士基準)」は、その存在すら知らされないのが通常です。
「裁判所基準(弁護士基準)」は、裁判になった場合、もしくは弁護士に交渉を一任した場合に適用される基準です。過去の裁判例の集積をもとに、立証の便宜や被害者間の公平のために算定基準が定められており、自賠責保険基準と比較すると、ほとんどのケースでより高額な慰謝料額を受け取れるため、できる限り十分な額の慰謝料を請求されたい方は裁判所基準での賠償を求めることをおすすめします。
ちなみに、裁判所基準(弁護士基準)の慰謝料の算定基準は複数存在します。たとえば名古屋地裁が管轄するエリアでは、『交通事故損害賠償算定基準(日弁連交通事故相談センター愛知県支部発行)』が基準とされています。通称、「黄色本」と呼ばれる本です。
裁判所基準の算定基準を示す書籍は、そのほかにも、日弁連交通事故相談センター(日本弁護士連合会)が発行する通称「青本」や、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している通称「赤い本」があります。名古屋では前述のとおり、黄色い本で算出されるケースが多いのですが、裁判所基準として全国的に用いられるもっともスタンダードな算定基準は「赤い本」となるでしょう(名古屋での交通事故においても、裁判ではなく示談で終了する場合には「赤い本」に準拠することも多いです)。
2、慰謝料はいつもらえるの?
交通事故の慰謝料は、原則として「治療が終了した後の最終的な示談の際に」受け取ることができます。示談を行うためには慰謝料の計算をしなければなりませんが、入通院慰謝料は治療期間や通院日数によって額が算出されますので、治療が完了しなければ計算することができないということです。
したがって、慰謝料の受け取りが可能となるのは、ケガが治癒すれば、治療完了から1か月から2か月程度あとになるでしょう。残念ながら、治療していたにもかかわらず事故による症状が残ってしまい、後遺障害の認定申請をする必要があったときは、申請から結果が出るまでに数ヶ月かかることが通常ですので、治癒した場合に比べてその分だけ余計に時間がかかることになります。
3、慰謝料請求の一般的な流れは
被害者となってしまった方が個人で保険会社と交渉して請求する場合における一般的な流れは以下のとおりです。
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(1)医師の診察を受け通院する
交通事故の被害に遭い、体に多少なりとも異常、異変を感じている場合は医師の診察を受けましょう。車の故障等の物的な損害には慰謝料は生じないと考えられているため、慰謝料を請求できるのは交通事故によりケガをしている場合に限られます。
もちろん、ケガをしていると自己申告しているだけではダメで、医師の診断書がない、通院履歴がないのでは慰謝料発生の根拠となる事実がないことになり、相手方にも慰謝料の請求はできません。できる限り早いタイミング(できれば事故から7日以内)に、病院で医師の診察を受けてください。それ以上間が空いてしまうと、「事故との因果関係がない」とケガ自体を否定されてしまう可能性があります。
事故当日に痛みや違和感を覚えなくても、翌日以降に異常をきたすこともあります。また、思わぬ場所にケガをしている可能性もあるでしょう。できれば、被害に遭った時点で、念のために受診しておくことを強くおすすめします。
なお、整骨院や接骨院、整体などは、病院とは位置付けが異なり、交通事故によるケガなのかどうかの「診断」はできません。「診断」ができるのは病院にいる医師(基本的には整形外科医)だけです。あなたが受けた被害内容を認めてもらうためにも、必ず病院を受診してください。
その後の通院についても、整骨院や接骨院、整体における施術(マッサージ等)は相手方保険会社から「治療」と認められず、治療費や慰謝料の支払いを受けられない可能性がありますので、通院する前に保険会社に確認しておく必要があります。
また、通院する場合は通院の間隔を開けすぎないことも重要です。通院と通院の間隔が1か月以上空いてしまうと「後の通院については、事故のケガによる通院ではないのでは?」と疑われてしまいかねません。その場合、後の通院分の治療費が支払われないだけでなく、後の通院に対する慰謝料も計上されない可能性があります。 -
(2)保険会社との交渉
ケガの治療と並行して、さまざまな事柄について保険会社と交渉しなければなりません。
休業損害についての交渉は、受け取ることができる賠償金に直結します。きちんと書類等を準備したうえで交渉に望まなければ、こちらの請求どおりに支払ってもらえないことも十分にあり得ます。
また、通院先の選定や通院頻度に関すること、治療期間(打ち切り)についての交渉は、ケガの治り具合にも影響することですので、特に慎重に行う必要があります。 -
(3)症状固定や後遺障害の申請
数か月治療し、めでたく治癒した場合は示談交渉に移ることができます。長期間にわたって治療を受けているにもかかわらず症状が残ってしまい、そのまま治療を続けてもこれ以上の症状の改善が難しい状況となったときは、「症状固定」と判断されます。後遺障害に該当する可能性があるので、後遺障害の認定申請の手続に入る必要があるでしょう(保険会社に後遺障害の認定申請手続を任せることを「事前認定」といいます)。
なお、保険会社から、2~3か月の短い通院期間で「症状固定である」と言われて治療費の負担を打ち切られてしまうと、症状が残っていても後遺障害の認定を受けることが極めて難しくなるため、そのときは治療期間延長の交渉が必要となります。
症状固定となったときに症状が残っているのであれば、後遺障害の認定申請を加害者が加入する自賠責保険会社に対して行う必要があります。手続き自体は、保険会社が行うケース(上記の「事前認定」)と、被害者自身や被害者が依頼した弁護士が行うケース(「被害者請求」といいます。)が考えられます。保険会社にすべて任せてしまえば、時間的精神的な負担は少ないかもしれません。しかし、保険会社はあくまでも加害者側の立場で対応するため、被害者とって最善の手続きを行うとは限りません。
したがって、後遺障害認定を適切に受けたいのであれば、被害者請求によるべきですが、手続も複雑で面倒なことも多いので、その場合は弁護士に依頼して手続きを行ったほうがよいでしょう。 -
(4)慰謝料の交渉
治療が終了し、もしくは、後遺障害の認定手続が完了したら、慰謝料をはじめとする損害賠償の交渉に移ります。慰謝料は、治療期間や通院日数に応じて算出されます。どこまでの治療が慰謝料の算定対象になるのか、どの算出基準を使うのかが交渉の要となるでしょう。
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(5)示談の完了、慰謝料の支払い
双方が合意した場合は、示談書に署名捺印し、示談が完了します。
示談が成立すると1~2週間程度で慰謝料を含めた賠償金が支払われるはずです。
4、被害者個人が裁判所基準(弁護士基準)で交渉することは難しいのか
交通事故における慰謝料の算定基準が3種類あると聞けば、もっとも高額な慰謝料を受け取れる「裁判所基準(弁護士基準)」で算定してほしいと思うことでしょう。
しかし、結論から申し上げると、一般的に被害者個人による交渉のみで裁判所基準による算定基準を適用してもらうことは難しいでしょう。
なぜなら、裁判所基準は、裁判(訴訟)において採用されている基準であるため、相手方保険会社にとって「被害者個人が交渉しており、裁判にもなっていない」という状況で採用する必要はないからです。
被害者が弁護士を付けてくれば、示談交渉段階で裁判所基準での交渉に応じなければ裁判を起こされてしまい、結局、裁判所基準(弁護士基準)が採用されてしまいますので、やむをえず、示談交渉段階においても裁判所基準(弁護士基準)での交渉に応じてくることになります。
なお、被害者個人で対応する場合でも、訴訟を起こして解決するまで被害者個人で対応すれば、弁護士に依頼しなくても裁判所基準が適用されることになりますが、慣れない裁判手続には膨大な手間と時間がかかります。
そのため、治療に専念して一刻も早く日常を取り戻したいのであれば、弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士に交渉を依頼すると、初期の保険会社とのやり取りや治療期間の交渉などをすべて一任できます。治療終了後の後遺障害についてなどの複雑な手続き・交渉も、弁護士に依頼することで有利に進めることができるでしょう。
交通事故の被害者になった時点で、身体的・精神的にも大きなダメージを受けていることは間違いありません。そのうえ時間のかかる交渉を強いられることは、非常に大きなストレスとなるでしょう。トータルで考えれば、被害者個人が保険会社と直接交渉するよりも、弁護士に依頼してしまった方が、よっぽど楽で有利に進めることができます。少なくともいちどは弁護士への無料相談をしてみることを強くおすすめします。
5、まとめ
交通事故の慰謝料をより多く受け取るためには、「裁判所基準」で慰謝料を算定してもらう必要があります。しかし裁判所基準の慰謝料計算は、弁護士に依頼した場合もしくは訴訟になった場合のみ適用されます。わずらわしい交渉を任せ自分は治療に専念するためにも、また、裁判所基準での適切な慰謝料を受け取るためにも、弁護士に依頼することをお考えになるべきです。
ご自身で交渉して苦しい思いをする前に、ベリーベスト法律事務所・名古屋オフィスへお問い合わせください。交通事故に関する知見が豊富な弁護士が、裁判所基準による適切な慰謝料を受け取れるよう対応いたします。
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